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「あ、なんか近いな。」
第3話:『お前の席、なんか落ち着くわ。』
教室には、窓から差し込む夕陽の色と、
机の上に散らかったプリントだけが残っていた。
俺はペンを動かしながら言った。
「なあ光輝、部活行かんでええん?」
光輝は隣の席から椅子を引いて、俺の机の前に座る。
「ええねん、今日は。なんか、ここ居心地ええわ。」
「どこがやねん。俺んとこなんもないぞ。」
「ちゃうねん、なんやろな…お前の席、なんか落ち着くわ。」
その言葉が、ゆっくりと胸の奥に響く。
冗談にしては、少しだけ優しすぎた。
俺はペンを止めて、光輝の顔を見る。
光輝は、いつも通りの笑顔で、何も気にしていないように見える。
でも、距離は近い。
机一つ分もない。
肩先が少し触れる。
俺の心臓が、静かな教室でやけにうるさく感じる。
「…なぁ、なんやこれ。 」
小さくつぶやいた声は、光輝には届いていない。
光輝は机の上に肘を置いて、外を見ながら話す。
「中学の時もさ、俺、ずっとお前の隣やったろ。」
「…あぁ、せやな。 」
「なんか、それが普通やと思っててさ。」
光輝はふっと笑う。
その笑顔が、夕焼けに溶けて、やけに眩しかった。
チャイムが鳴って、時間が流れ出す。
俺は「そろそろ帰るか。」と言って立ち上がるが、光輝はまだ俺の席に座ったまま、机を指で軽く叩く。
「…なぁ、明日も、ここ座ってええ?」
俺は少し目を伏せて、苦笑いする。
「好きにせぇや。」
言葉は軽くても、心は少しだけ重くなった。
この”なんでもない放課後”が、なぜか少し甘く感じた。