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__________一章 貴女と行く卯酉東海道__________
「…さて、行きましょうか。」
「そうね、蓮子。」
―――目的地に着いた私達は懐かしい道を歩いていった。
___やはり、私の実家はいつ見ても田舎だ。
実は、私の元々住んでいる場所は京都ではなく東京なのである。昔聞いていた東京の姿とはだいぶ変わってしまっているようだが…。
まぁ、これはこれで趣《おもむき》を感じて好きなのだが。
今はもうあまり見かけることのなくなった地図を念の為持っていき、実家より離れたところを歩いている途中、
メリーが少し退屈そうに聞いてきた。
「ねぇ、蓮子。」
「ん?何?」
「…写真、どういうの持ってきたの?」
私としたことが、懐かしさに浸りすぎていてすっかり忘れていた。
「…あ、あぁー!写真ね。
大丈夫、持ってきたわ!」
「…ふふ、良かった。蓮子の事だから、もしかしたら忘れてるんじゃあないかと。」
やはりメリーの鋭さは侮れない…。
「あ、あはは…。まぁ、取り敢えず、見せるから少し待ってね。」
「分かったわ。」
私はポケットにしまっていた数枚ほどの写真を取り出し、メリーに広げて見せた。
「ふっふっふ、これよ!」
「…あら、いつの間にそんな写真撮ったの?」
「おや、いい質問だねぇ、メリーくん!」
「はいはい。」
「これはね、この前メリーが私に妖怪の棲む世界とやらをチラッと見せ て くれた時があったでしょ?
その時にこっそり撮って現したの!」
「『こっそり』って…まるで、盗撮みたいな言い方をするのね。」
―――言われてみれば盗撮のような気がしてきてしまった。
まぁそれは置いておいて、自分で言うのもアレだが、中々のレア物だと思っている。
「まぁ、それは置いときましょ!
森みたいな所の写真だったり、水湖だったりするの!」
「あら、色々あるのね…」
「そう!どれもとっておきよ。」
―――しばらく私たちは写真を見ながら歩いていた。
写真も一通り見終わり、ふと辺りに目を向けた。
いつ来ても変わらない東京の風景。
生い茂るコケに包まれた高層ビル、多少濁ってはいるがまだまだ美しい小川…
そして、所々綻びている結界達…。
何だか、ここだけ**“忘れられた世界”**のようで居た堪れない…。
そうしているうちに、空模様が怪しくなっていき、何か冷たい液体のようなものが肌に触れた。
「蓮子…」
「えぇ、そうね…。」
「雨だ!」
「雨だわ!」
私達は小走りで近くの祠に向かった。ちょうど屋根があるし、小一時間程度なら雨宿りできそうだ。
しばらくの沈黙の後、メリーが口を開いた。
「ねぇ、蓮子。そう言えばどこへ行くつもりなの?」
「あっ!そうだそうだ、言うの忘れてたよ!!」
私は急いで思い出しながら、メリーになんとか伝えようとした。
「えっと……なんだったかな……
…あっ、神社!」
「…神社?」
「そう!だいぶ昔からある古びた神社に行くつもりだったの!」
「あら、そうなの?
何だかいつも通りで安心したわ。」
「いつも通り………それって、『メリーにとっては』、なんじゃないの?」
「あははっ、そうかも知れないわね。」
―――そんな他愛もない話をしていた私達。
小一時間程座って話をしていただろうか、景色は少しだけ晴れていた。
時計を確認したところ、現在時刻14:35分。このままいけば神社には着くことができるはずだ。
私達は置いて荷物たちを手に取り、再び立ち上がった。
「さぁ、行くよ!メリー!」
「行きましょうか、蓮子。」
私達はまた歩き出し、遠くの方へと足を弾ませていった。
雨上がりの空はやっぱり綺麗だ。遠くの方に見える虹も、まだ晴れきっていない空も…。
それに、東京のこの姿にもなんだか合っている気がする。
例えどんなに発展していたとしても、最期はやはり自然に還るものなのだ。
大昔の東京はきっと、もっと科学的で人が賑わっていたのかもしれない。
だが、人も減り、年月も経てば草木が生い茂り、軈《やが》ては自然に包まれていく…。
不思議だが、これが世の理なのだろう。
京都とは違う世界に感じても、同じ日本なのだから。
そんなこんなで、数十分程歩いただろうか。
目的地の神社の鳥居が見えてきた。
「…あっ、…これよ!メリー!」
私は目の前を指差し、メリーに見せた。
「あら、本当?
……確かに、結構年季のある感じね。」
「まぁね…この年季の入り方からして…大凡《おおよそ》160年くらい前からあるんじゃないかしら?」
「結構古いわね…まぁ、今でも最古のものが普通に残っているだけあるし、案外160年程度どうってことないのかもしれないわね。」
「そうかもね!まだまだ若い方だったり?」
「確かに、沢山の書物なんかに比べれば子供みたいなものよね。」
___暫く見て回っていた私達。立ち止まって観察している時、メリーは言った。
「…やっぱり、貴方と色んな所を巡るのは楽しいわ。」
突拍子も無く言われたため、なんだか照れくさいがすぐに私は返した。
「えっ…
………私もよ、メリー。」
「…ありがとう。蓮子。」
なぜメリーはここで言ったのか…私にはまだ分からなかった。
だが、一つだけはっきりと分かる。 それは、私もメリーと同じ気持ちであること。彼女といる毎日は飽きなく、すごく楽しい。
…とまあ、それはさておき。
やはり、歴史的な建造物はどのような姿でも美しさが光ると思う。
どれだけ苔生していようが、どれだけ多くの蔦に絡まれていようが…
それぞれが、歴史の”一部”として重なり合っていく。
移り変わる歴史も充分魅力的だが、このように本来の姿を残しつつ歴史という色を何層にも重ねていくのも凄く魅力的だ。
―――なんだかんだで、もう夕方の17時となった。
時の流れは速いようで、とうに空は黄昏時。
私達は荷物を持ち、来た道を話しながら歩いて行った。
「次はどこに行くのがいいかな〜…
いっその事、一度も行ったことないような所とか、面白そうじゃない?」
「それもアリかもしれないわね。
ただ…それだとすごく遠くならないかしら?」
「それはまぁ…夏休み中とか、冬休みに行けば大丈夫だと思う! 」
「そう…蓮子(あなた)がそう言うなら任せるわ。」
「了解!任されました〜」
そんな話をし、私達は駅まで足を運んで行った。
この時間が、ずーっと続けばいいのに…
そう、心で願いながら。
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