パンッ
花魁坂が手を叩く音がシンとした会議室に響いた。数名が肩を跳ねさせているものの静かに眠るように座っている彼女は動かない。
「って言う事が昔あってね〜」
「大体今から3年ぐらい前かな…」
「傷は幾つか治せなくて残っているのも多いけれども…本来なら」
「本来の四季ちゃんなら動ける範囲なんだけど…」
朽森紫苑と並木度馨の間に座っている四季を花魁坂は一瞥する。
紫苑は四季の艶のある髪を撫でながら三つ編みをしだす。馨は少し歪んでいる指に手を這わせ金木犀のハンドクリームを丁寧に塗りこんでいる。
いつの間にか用意されていたホワイトボードには無蛇野、花魁坂と淀川に囲まれた女性の楽しそうに笑う写真が貼ってある。
今座っている姿からは想像も付かないが、サラリと流れた髪から覗く目元の並んだ黒子を見れば本人だと理解する。
隣には一枚目とは打って変わって、顔色が悪く病的なほどに痩せていて、輝きのない長い髪を広げて白い病院のベットに寝ている写真。
今の彼女は1番最初の写真にように濃紺の髪ではなく、白く変化していたが艶がある綺麗な髪だった。
顔にも血色が明るく乗り、まつ毛も長い。
腕も細過ぎない。
けれど話さないし、基本的に動かない。まるで精巧に作られた人形のように。
「その時の映像とかは一応確認したんだけど、残忍ってもんじゃなかったね…」
「今もデータとして残っててね、生徒たちにこう言う拷問方法もあるって伝える為にさぁ〜」
飄々と口に出す花魁坂の目には悲哀と感傷が浮かんでいる。
「四季は、今も意識を戻さない」
「普段は無蛇野と花魁坂の2人が四季の相手してんだよ」
「本当は隊長も先輩に会いたいんですけどね」
「馨ぅ…」
目でうるさいと告げる真澄に馨は目を逸らしながらも、すみませんと軽く笑った。
「これが全てだ」
「羅刹学園にある、幽霊騒ぎの本質」
無蛇野は自分の生徒に冷たく言った。四季の横顔を一瞥した。
「四季ちゃんの映像見る?胸糞悪いけど」
「…あの日の叫びだけは耳から離れないな」
「チッ、あの時ブッ殺すんじゃなかったな…」
「ですね…どうせなら拷問の限りをし尽くしたかったですね」
「僕も許すことは出来ねぇな…」
「帰ってこれた事にはgoodを送るべきだ」
「一ノ瀬先輩が生きてるなら良いんすよ…」
「ただ…出来れば、また名前を呼んで欲しいなだけだ!」
花魁坂の誘いを聞いたけれども首を縦に振る気には一切ならない、無蛇野が言うあの叫びが何なのかを知らない。
けれども、分かる。
これは踏み入れちゃいけない一線だ。
悲哀の声で呟いているその姿は一度も見たことがなかった。
(コイツらの中でも、深く傷として残ってんだな…)
「!湿った空気になっちゃったね!!」
「ってことだから、四季ちゃんはお化けでも何でもないからね!!」
ワタワタと花魁坂は濁った空気を入れ替えるかにように生徒達に笑みを向けた。
今日は早めに投稿できて良かったです…最近遅刻気味だったので…
過去編終了
おおよそ次回で最終話になると思います…
最終話は、ちょっと長めになってしまうと思いますのでご了承下さい。
ハッピーエンドとバッドエンドの両方を書く予定です。
ハッピーエンドは、同期組ルート、後輩同期組ルート、大人組(同期・後輩同期)ルート、個人ルートと複数作る予定です…
変更する場合もありますけど…
コメント
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めっちゃ辛いやん…あの桃太郎地獄行ってもう一回面貸してもらおかな?マジ許さん 京夜さん最後はちゃんと笑顔をみんなに向ける優しさ…みんな本当に四季ちゃんの事愛してるんだな…先輩が生きているだけで、四季ちゃんが生きているだけでいい…それでも話せない、名前をもう一度…めちゃくちゃ泣きそうなセリフばかりです! 続き待ってます✨