テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
三十分程経って辿り着き、馬車を降りた二人はひたすら丘を登っていく。
そして、登りきった先には綺麗な景色が広がり、可愛らしい小さな花が沢山咲いている中に、豪華な墓石があった。
ここはエリスの母親が大好きだった場所で、彼女が亡くなった際、大好きな妻が愛したこの場所に墓を建ててやりたいという思いからエリスの父親が建てた墓。
そして、父親もまた、死ぬ間際、妻と同じ墓に入りたいと希望した事で、二人は同じ墓に眠っていた。
「お母様が亡くなった時、先祖が眠る代々のお墓があるのにわざわざ別の場所に建てるだなんてと周りからは色々言われていたのですが、お父様はどうしても、お母様が好きだったこの場所にと譲らなくて、周りが折れる形で、ここにお墓を建てたんです。お父様が亡くなった時も、本人がここへ入る事を希望していたのですが、だいぶ揉めたんです。継母は代々の墓へ入れるべきと言って聞かなかったのですが、私はお父様の意志を尊重したくて、どうにか説得して、ここに入れてあげる事が出来たんです。ですから、ここに来る人は限られているんです。前妻が眠るこのお墓に継母は近寄りたくないようなので、命日くらいしか来ないと思いますし……」
「そうか……しかしここは、本当に良いところだな」
「はい、そうなんです。私も幼い頃、よくお父様とお母様の三人でここを訪れるのが大好きで、ここへ来ると、すごく落ち着くのです」
ギルバートはエリスと出逢ってからというもの、彼女の笑顔を見る事はあったものの、それはどこかぎこちないものばかり。
けれど、今目の前に居るエリスの笑顔は心の底から喜びで溢れ、とても幸せそうな笑顔だったので彼女を見守る彼もまた自然と口元が緩んでいた。
そんなエリスを前にすると、昨日船で仕入れた情報を彼女に話すのを躊躇ってしまうギルバート。
シューベルトとアフロディーテが話した衝撃的な内容をエリスにいつ告げるべきか、それとも話さずに自身の胸に留めておくべきか未だに決め兼ねていた。
暫く墓石の前で過ごした二人は丘を下り、来た時に乗せて貰った御者に二時間程したら迎えに来るよう頼んでおいた事もあって、既に馬車が待機していた。
馬車に乗って市場へ戻る間、二人は御者からある話を聞く事が出来た。
「お客さん、知ってるかい?」
「何だ?」
「近々、ルビナの第二王女のリリナ様とセネル国のシューベルト様がご結婚されるという話を」
「シューベルト、王子と……リリナ……姫が?」
話を聞いた瞬間、驚きを隠せなかったエリスは思わず大きな声で二人の名を口にしては、御者に問い返す。
「ああ、我々も驚いたよ。つい先日エリス様が亡くなったという報せを受けたばかりで、葬儀も終わってまだ間もないのにと」
「……それは、確かな情報なのか?」
「ああ、俺は仲間から聞いただけで、まだ公にはなっていないが、近日中に発表があるだろうな」
「……そうか」
今はまだ、あくまでも噂という状況らしいのだけど、その情報は信頼出来るところからのものらしく、近日中に何かしらの発表があると御者は断言した。
リリナとシューベルトが実は仲が良かった事はエリスも分かっているから二人が一緒になる事に驚きは無いものの、一番驚きを隠せないのはその時期だ。
事情を知らない者や一般市民たちからすれば、前妻であるエリスが亡くなったばかりで悲しみも癒えていない中、あろう事かエリスの妹であるリリナと一緒になるという選択をするだなんて、普通では有り得ないと思うはずだ。
それにも関わらず二人が一緒になるという情報が流れるという事は裏で話が進んでいるという事なのだ。
しかし、そうなるとルビナ国の後継ぎがいなくなってしまう。
アフロディーテは一体何を考えているのか、エリスにはそれが分からなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!