「そういえばアック様、今まで何をしていたんですか?」
「今までって……そりゃあお前……」
「何です何です~?」
イデアベルクに戻れなかった挙句、敵と戦っていたと言うに言えない。それにもかかわらず、何故かルティはおれの答えに期待している。戦闘魔導士とお互いに探り合いをしただけに過ぎないわけだが、どう答えるべきか。
それよりも地面から現れたこととシーニャたちのことを聞くのが先だ。ルティが現れた地面は所々がえぐれている以外、変わった点は見られない。
それにルティの手に驚いてしまったが、彼女がイデアベルクから来るにしては早すぎる。
「いや、ルティの方が先だ」
これは聞いておかなければ。
「はぇ?」
「転送魔法は上手くいったのか?」
「はい、それはもう~! ミルシェさんに会えまして~」
「そうか。それならいいんだ。じゃあ、シーニャたちはどこにいる? どうしてルティだけなんだ?」
「ええっとですね~、わたしは拳で地中を掘り進みながらここへたどり着きまして~……アック様の気配を感じたので、地上に出ようとしたところを……」
拳の力だけでここまで来るなんて土竜《もぐら》みたいだな。もしかしてイデアベルクから直接ここへ来られたのだろうか。
「――ってことは、ルティの後をついて来ているのか?」
「いいえ~、シーニャは土が付くのを嫌がりましたので別の洞窟から来ますよ!」
「……一応聞くが、イデアベルクからだよな?」
「そうですよ! 森林ゲート? があった所から、地下洞窟が繋がっていたみたいです」
そんな洞窟があったなんて。しかし知らなくて当然か。何せ自分の国でありながらミルシェたちに任せっきりで、おれ自身が国の隅々まで見たわけじゃないからな。
「それもミルシェから?」
「それはですね――」
「待てルティ!! 強い気配がするぞ。防御態勢を取っておけ!」
「えっ? は、はいっっ」
ルティは全く気付いていないようだが、おれたち――特におれに向けられている殺気はただ事じゃない。さすがに地面からでは無く、木々の奥からひしひしと感じる。
グライスエンドの奴はすでにアジトとやらに退《ひ》いた。だが連中と別だとすれば、全く別の敵ということになる。
「……殺気は感じられるが襲って来る気配が無いな」
「アック様、その気配でしたらきっと~!」
「ルティ、身を屈めてろ! それともまだ痺れているのか? それならおれにくっついていろ!」
「はわっ!? わわわっ……ア、アック様、いつになく大胆です」
「そういうことじゃない――うっ!? 来るぞ!」
ルティを背中で隠しながら戦うことになりそうだが、この気配は容赦してくれそうにない。これほどまでの殺気は中々無いからだ。
じりじりと近づいて来ているようだが、複数の気配は不意打ち攻撃をして来るつもりだろうか?
「アック様、上ですよ~!」
「何っ? 空からの急襲か!?」
「待ちきれずに飛んで来たんですよ、きっと」
「何を呑気に……! ぬぉわっ!?」
のんびり構えるルティを気にしていたら、すでに何かがおれに覆いかぶさっている。獣あるいは別の何かだと思っていたが、感触は思いのほかひんやりとしていた。
視界を塞がれて何も見えないまま手でどかそうとした時だ。
何とも艶気を含んだ声がおれの耳に届く。
「ひゃぅっ! く、くすぐったい」
「……ん?」
この声は――
「もう~! イスティさまってば!!」
「フィ、フィーサ……か?」
「そうだよ。だからその手をどかして欲しいよ~!」
「わ、悪い」
何かと思えば人化したフィーサだった。
彼女の場合、剣の姿の時はともかく、人化すると毎回のように薄布を被せた程度の格好になる。それだけに妙な恥ずかしさを感じてしまう。ルティを見る限り、フィーサだったことは最初から分かっていたようだ。
「小娘が悪いだけでわたし悪くないもん」
「だ、だよな」
「ええ~? わたしは何度もアック様にお伝えしてましたよ~?」
そういえばルティからは特に警戒心を感じなかったが、そういうことか。
「と、ところで、シーニャは?」
「アック様、すぐそこにいますよ~!」
「うっ? シーニャ!? それに、サンフィアも!?」
ルティの言った通り、すぐ真横にシーニャとサンフィアの姿があった。しかもおれのことを長いことジッと見つめていたらしい。感じていたとてつもない殺気は彼女たちだったということになる。
「フン、たわけめ。貴様の腑抜けた姿を間近で見ることになるとはな!」
「ウウニャ……アック、何していたのだ?」
「いや……特には」
旅の同行を断ったサンフィアが来ているということは、ここへの道案内も彼女のおかげだろうか。いずれにしてもここにきて賑やかな旅となりそうだ。
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