9月。夏休みは明け、学生たちは学校へ、社会人は職場へと、重い足取りで足を運ぶ。
「なー凪野ーお前夏休みどっか行ってきたー?」
「えっ、あ、あぁ…えーっと…」
豪華客船に乗って殺人鬼たちとバトルをしたのち、彼女ができたなんて口が裂けても言えない!!
いや、口裂け男になっても、絶対に言えない…
「どした?」
「え?なんでもない…あ、海に行ったなー…」
俺の口から言えるのは、それだけです。
でもせっかくちゃんとあの組織でやっていくって決意を固めたんだから、頑張らないと…
「教官ー私書類整理より現場に行って敵を次々となぎ倒したいんですけどー…」
「ごめんね千代子ちゃん。しばらくは、そういう仕事は少ないかも。それより、この前の任務のこと、記録に残さなきゃいけないんだよぉぉー!!」
「教官って大変ですね」
「うん…というか、他に手伝ってくれる人いないんだもん。彩も一週間休みをもらったし…私も休み欲しいよぉ〜!!」
子供のように叫ぶひらりを見て、こんな大人にはなりたくないと千代子は思った。
「水梨ちゃんは、最近休み気味だった配信業を再開するんだって。大変だよねぇ、学生、配信業、マジカルシークレット…忙しそうだよぉ…」
「うえぇ…」
2人は一緒に頭を抱えて机に突っ伏した。
「こんみずりー!冬熊水梨でーす。ごめんね、最近配信できなくて…」
私は画面の奥の視聴者に向かって謝る。確かに最近、活動を少し休止していたし…でも忙しいんだよ…
画面にスーパーチャットが飛び交う。私は一つ一つにお礼をしていた。
「ん?えーっと…水梨ちゃんに質問です。彼氏がなかなかできません。水梨ちゃんは好きな男子とか、彼氏とかっていたりしますか?…かぁ…」
この前の任務で、私と凪野くんは一応付き合うことになったんだけど…あれ以来お互い忙しくてあんまり会ってないし、ここまでムードを作ってくれた教官たちにも感謝をしたいし…と、悩み気味。
「うーん…あ、ガチ恋勢の子達はショック受けるかもだけど…私、最近彼氏できたんだよね。とっても優しい人なの」
『おめでとう!』や『少し悲しい…』など、いろいろなコメントが届く。アンチとも捉えられるコメントに、少し胸がズキっと痛むけれど、もうこれも慣れなきゃやっていけない。
「でも私は今幸せだし、こうしてみんなとも会えてる。だから…悲しまないで欲しいな」
私に言えることはこれぐらいしかないから。
次の日。
このお家で良かったんだよね…?教官の家…
ピンポーン
インターホンを押す。そう、今日はこの間のお礼に、少し菓子折りを持って教官の家に遊びにきたのだ。
「はいはーい…あ、水梨ちゃん!」
「教官…あの、これ、先日のお礼…」
「いいのよそんな…まぁ上がって」
「じゃあ…失礼します…」
家に入る。ドアが自動でバタンと閉まったので、ちょっと怖かった。
というかそもそも悪魔の家に入るってこと自体かなり勇気がいった。もう入ったのでいいんだけど。
「まあ…ありがとう…」
「教官にはいつもお世話になってますし…それに…。私、今度は教官の恋も応援したいです!!」
「え?私別に好きな人居な…」
「ほんとにですかー?」
「え、いや、そのぉー…」
教官が何かを隠そうとする。
「都月さんとか?」
「い、いや、そんなこと、無…都月様は、恩人?というか、そのぉ…」
「でも好きなんでしょ?」
「…それは…そのぉ…えっと…」
「…」
らちがあきませんね…
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