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──4階、教室に戻る道中──
3人に追いついたリヨクは、グオとこの世界に浮かぶ時計《ラフィア》について話ながら歩いていた──。
「今は……牛みたいな白と黒色だから13時……いちにーさんしーご、13時50分か」
「正解!」
「てことは、あと20分あるね」
「だね、20分もあれば間に合うよ」
──「シユラって子、〝旧楽園育ち〟とか〝3つ名〟とか言ってたんだけど、どうゆうこと?」
「旧楽園育ちってのは、貴族が住む区域で生まれたってこと。3つ名ってのは、国の管理を任された人が家系にいる貴族ってこと」
「貴族が住む、区域?」
「うん、緑の国は、旧楽園っていう貴族が住む所と、貴族じゃない人が住む所が別れてるんだ」
「ふーん」
リヨクは頭の中が言葉でいっぱいになり、ほとんど聞いていなかった。
しかし、《《旧楽園》》という言葉に引っかかり、リヨクは歩きながらぼーっと考えていた。
(どこかで聞いたような……)
するとリヨクの脳内に、海に釣り糸を垂らしているイメージが浮かんだ。
何かが引っかかっている。
慎重に糸をたぐり、引っかかった原因を探った。
そして、ついに釣り上げた。
──糸の先には、いつも通り無愛想な表情をしているメヒワ先生が引っかかっていた。
そして、メヒワ先生が口を開けた──するとメヒワ先生の口から文字がポンッと何か吐き出された。
──『旧楽園の子たち』
(それだ!)と、リヨクは、引っかかっていた原因が分かり、スッキリとした表情でグオに言った。
「学校にいる子たちは貴族ってこと?」
しかし、言い終わると同時に、自然と笑いが込み上げてきた。
「え、そうだけど。どうして笑ってるの?」グオはきょとんとした顔で言った。
「いや、なんでもない」と言うリヨクだったが、自分が想像した光景にしばらく苦しめられていた。
メヒワ先生の無愛想な顔と、そのシュールな状況が、リヨクを笑いの渦に引き込んでいく。
オウエンとグオは、笑いが止まらないリヨクをみて首をかしげる。
「グオ、リヨクに笑いが止まらなくなる術使った?」とオウエンが笑いながら言った。
「何もしてない、急に笑い出したんだ」と言うグオも口角が少し上がっている。
どんどんリヨクにつられて笑い出すオウエンとグオ。
そして、絶賛ケンカ中のユウマも、笑いそうになるのを、奥歯で噛み堪えていたが、とうとう笑った。
それから、すれ違う子たちにも笑いが感染し、あっという間に、周囲は温かく楽しい雰囲気に満たされた。
──笑いがようやく収まり、リヨクは疲れ切った声で「あー、疲れた」と言った。
「笑いすぎなんだよ」──「ところで、リヨクとユウマはいつまでケンカしてるつもり?」
「え?」
グオの突然の発言に、驚くリヨク。
「え! お前らケンカしてんのか!?」
と驚いた表情で言うオウエン。
驚くオウエンに対して、驚くリヨクとユウマ。
「おまえ朝一緒にいただろ……」
ユウマはあきれた表情でオウエンに言った。
「あー! あの時の! リヨクまだ怒ってたの?」
「いいや、もうぼくは怒ってない」
「おれは最初から怒ってない。リヨク怒ってたからちょっと話しずらかっただけ」
リヨクとユウマはしばらくお互いの様子を伺いながら、黙っていた。
沈黙が続く中、ユウマが口を開いた。
──「リヨク、ごめん」
するとリヨクもすぐに返事した。
「ぼくも……ごめん──」
「──ぼく、多分ちょっと上からだったよね」
「うん、なんか最近は嫌な奴だった。けど、今は嫌じゃないよ」
ユウマはそう言うと、気持ちを切り替えたようにニヤッと笑い「──ま、次の授業でおれが褒められて、おれの方が嫌な奴になるかもだけどな」と付け加えた。
「うん! その時はまた頑張ってユウマよりすごくなるよ」
リヨクもニヤッと笑い、望むところだといった感じで言った。
「えー! 勝負するならおれも混ぜて!」
勝負好きのオウエンは、ファイティングポーズを取りながらリヨクとユウマの間に割って入り、2人を交互に見ながら言った。
──3人を見て笑うグオは「仲良くなってよかったよ」とホッと息を吐いた。
安心した表情を浮かべるグオにユウマは言った。
「なんだよグオ、先生みたいに笑いやがって。おまえも安心してるとおれたちにすぐに追い抜かれるぜ?」
「そうだね! 追い抜かれないようにぼくも頑張るよ」
──リヨクは、謙虚な態度を取るグオを見て、やっぱりすごいと思った。
リヨクは、グオの胸元のバッジに付いている、一枚の花びらが、太陽に照らされ、キラッと光るのを見て、(あれを絶対に手に入れてやる)と心に火をつけた。
「ピピ。植物学植物術実践。開始10分前──」
「やば」「急ごう」
胸元のバッジから音が鳴り、4人は、4階に生えた一枚葉っぱ《ホアム》を抜きとり、笛を吹き、慌てて3階に降りた。
──教室の中──
「──それでは、14時〜15時植物学 植物術実践を始めます」
──ギリギリ間に合った4人は、呼吸を整えながら先生の話を聞いていた。
「ポピュアの皆さんはまず、自分に最も適した植物を見つけることから始めましょう。それぞれ適性をしっかりと理解した上で、植物術の実践練習に移ります。
──となりの塔に、異なる能力を持った植物を100種類用意していますので、一度教室からでてそちらに移動しましょう」
──となりの塔の中──
教室と同じく、床一面に緑豊かな芝生が生えており、曲面の壁沿いに大小さまざまな植物が整然と並べられている。
植物はそれぞれ見たこともない独特な形状をしており、まるでポーズを取り、ぼくたちを待っていたかのように静かに佇んでいる。
──子どもたちは、曲面の壁沿いに並ぶ植物に目を奪われ、静かな歓声をあげていた。
「うわぁ」リヨクもその1人だった。
──子どもたちは興奮して塔内を走り回り、植物を見て回っている。
「おーいリヨクー! これ見て、ライオン(の顔)みたい!」
「これ、おれんちのババアに似てる」
オウエンとユウマは、顔に見える植物を探していた。
リヨクも、一緒になって探していると、メヒワ先生の声が塔内に響いた。
「《みなさん》」
──先生の冷気を帯びた声が、リヨクを凍らせた。
他の子どもたちも、その場で動きを止めた。
「《入り口に集まってください》」
ついさっきまでキャーキャーと騒いでいた子どもたちは、突然静かになり、入り口に集まり始めた。
──子どもたちが入り口に集まると、メヒワ先生は話し出した。
「まず、左から順番に植物に触れ、《プロン》を流していきます。相性が合えば、動いたり、熱くなったり、冷たくなったり、色が変わったり、風を出したり、音を出したりと、植物は何らかの反応で示してくれるわ。
──あなたたちはただ端から順に植物に触れ、《プロン》を流すだけでいいです。反応がない事がほとんどですので、《プロン》を流し終えたら次々に横にずれて行ってください」
子どもたちは一列に並び、壁に沿って時計回りに進みながら、一つ一つの植物に手を伸ばし、静かに集中して《プロン》を流していく──。
順番が回ってきたリヨクは、まず赤い目玉のような実をつけた植物に触れ、《プロン》を流してみた。
──しかし、なんの反応もなかった。
そのとなりの植物に触れようとした時、後ろにいるユウマが驚いた声を出した。
「うわあ!」
振り返ると、ユウマが触れている目玉のような実をつけた植物の瞳から火が出ていた。
「冷たっ!」ユウマ。
(冷た?)リヨク。
──メヒワ先生は、「《ちょっとストップ》」と言い、子どもたちの動きを止めた。
先生はユウマのもとへ歩み寄り、ユウマが持つ植物から放たれる火に触れた。
驚いたような表情を浮かべたメヒワ先生は、何も言わずに塔の中心へ戻り、「《ごめんなさい、続けて》」と言って、子どもたちに再開するよう促した。
「なんだよ……」
ユウマは、メヒワ先生を見ながらボソッと呟いた。
「ユウマすごいじゃん! 火の適性があるって事だよたぶん」
リヨクはそれからも、植物にまったく反応されず、
流れ作業のように、《プロン》を流していった。
最後の一つに手を触れるまで、リヨクは反応を期待していたが、結局どの植物からも反応を得られなかった。
──ポピュアの子たち全員が植物に触れ終えると、メヒワ先生が新たな指示を出した。
「お疲れさまでした。これであなたたちの適性がわかりました。教室に戻り、扱い方を学んでいきましょう」