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見渡す限りに雨が降りしきる。
どうやら今日は、記録的な大雨らしい。
そんなこと、今の私には全く 関係ないけど。
高いビルの屋上に繋がる階段を登る。
1段、また1段、階段を登っていく。
階段が終わり、扉が目の前に現れる。
ドアノブをひねり、ドアを開ける。
がちゃりと音がし、古めかしい音を立ててドアが開いた。
そこには、私の待望の景色が広がっていた。
暗い暗い夜、もう一般の家庭は寝静まっているだろうか。
真っ暗で、ビルや少しばかりの住宅に電灯が灯っているだけだった。
でも、私には魅力的に感じた。
私はフェンスをよじ登り、フェンスの向こう側へと立つ。
普通の人なら怖いと感じるだろう。
でも、今の私にはそんな感情は全くなかった。
ずっと、待ち望んでいたから。
せっかく生涯愛せる人が出来たのに。
交通事故であっけなく亡くしてしまった。
人間というのは、実に脆いものだ。
実際、私の恋人も車に跳ねられて死んでしまった。
それに、私自身も精神的な面でボロボロになってしまっている。
たった1人、大切な人を亡くしてしまっただけなのに。
あの人が亡くなってからというもの、私の記憶は曖昧だ。
いつ起きて、いつご飯を食べて、いつお風呂に入って、いつ寝たのか。
それすらも全くと言っていいほど覚えていない。
いや、もしかしたら何もしていなかったのかもしれない。
どちらにしろ、それほど記憶が曖昧になってしまっている。
けれど、それももう今日で終わりだ。
なぜなら、今日で私の人生に終止符を打つからだ。
あの人のいない人生なんていらない。
私は天国でまたあの人に会いたいだけ。
これまで、散々失敗してきたんだ。
『今日くらい、成功させてよ。』
目の前にはたくさんのビルと住宅。
こんなに綺麗な景色、初めてだ。
私は目を瞑り、体重を前へかける。
ゆっくりと私の体は傾き、やがて視界は逆さまになった。
私、落ちてるんだ。
ちっとも怖くはない。
不安もない。
だって、あの人に会えるのだから。
待っててね
『らっだぁ。』