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惑星アードから飛び立ったプラネット号は、そのまま近くにあるゲートへ向けて突き進んでいた。ブリッジから眺める星の海は格別だし、ずっと“トランク”に居たフェルも嬉しそうに眺めてる。
「ようやくティナと一緒に旅をしているように感じますよ」
「トランクの中は味気無いもんねぇ。でも、これからは一緒に旅が出来るよ」
「はい!」
『ティナ、航路の設定をお願いします』
アリアの言葉に私は少しだけ考え込む。
少しアードでのんびりしたけど、まだまだ地球へ向かう時間には余裕がある。色んな調査もお仕事だから、そっちもやる必要があるんだよねぇ。
「余裕はどれくらいあるかな?」
2ヶ月と伝えた以上、あんまり早いと地球の人も困るよね。
『太陽系で1日余裕を持つ場合、地球時間で半月程度は余裕があります』
「よし、それなら今回の航海は最優先目標だけを回ることにする。目的地はミーム星系」
「ミーム星系、ですか?」
「うん、救難信号が出ているみたいだよ。だから調査しに行くんだ」
宇宙開発全盛期、アード人はアード星系から近くて環境が良い星系をいくつか見付けて開拓団を派遣。所謂テラフォーミングを行ってた。
幾つもの植民惑星が存在してコロニーや宇宙ステーションもたくさん建造されていたみたい。ロマン溢れる時代であり、数多のアード人が新天地を目指して宇宙を飛び回っていた。
でも、そんなロマン溢れる時代はセンチネルとの遭遇で崩壊した。センチネルドローンは老若男女問わず知的生命体を見付けたら殲滅するため熾烈な攻撃を仕掛けてきた。数多の植民惑星、コロニーが破壊されて殺戮された。
アード本星が発見されないように強力な隠蔽魔法で惑星そのものを隠したけど、その際に幾つかの無傷だった星系を放棄してる。
センチネルに殲滅されたとされているけど、長い年月を堪え忍んでまだ生きている人が居るかもしれない。
宇宙開発局はそんな人達の捜索も請け負ってたんだけど、これまで許可が出ることはなかった。センチネルとの戦いになる可能性があったからね。けど、今は違う。
「アリア、ミーム星系までどのくらい?」
『二時間あれば辿り着けます』
「近いなぁ。よし、救難信号を捨て置くわけにはいかない。ミーム星系で調査して、地球へ向かうよ!」
この為にプラネット号には高性能医療ポットが幾つか積み込まれたりしてる。
本場のお医者さんが居るのが一番ではあるんだけどね。
『了解しました。ゲートオープン、これよりミーム星系へ向かいます』
改めてゲートの大きさを実感できるね。プラネット号みたいな大きさでも易々と通過できるんだからさ。
『ゲートへ侵入、パイパーレーンに入ります』
次の瞬間、周囲の景色が極彩色になった。うん、直視してると目に悪いねこれ。
「アリア、あとは宜しく。フェル、艦内を探検しよっか」
「はい、是非!」
二時間じゃ休むには短いしね。
私はフェルと一緒にブリッジを後にした。
プラネット号、まあハンマーヘッド級駆逐艦は船尾周辺に居住区画など主要なものが揃ってる。船体の半分は武装で埋まってるからね。
居住区は重力区画もある。これは任意で切り替えることが出来るかな。部屋は個室と二人部屋がたくさんある。確か最大で百人は暮らせるだけの機能があった筈だよ。
居室には必要な家具が一通り揃ってて、重力があるから浴槽のお風呂まである!でも水は貴重だから、使う時は気を付けないとね。
他にも広い多目的ホールや綺麗な展望エリアまである。
ちなみに“トランク”に収容されていた私の部屋だけど、トランクから取り出して居住区の一部に組み込んでたりするんだよね。魔法は偉大だ。もちろん私には出来ないけど。
「フェルはどうする?」
フェルの小物なんかはアードで一緒に買い物をして揃えてたりする。
フェルもアード政府から正式に支援金が渡されたしね。私の全財産より多いのは凹むけど。
「出来ればティナと同じお部屋が良いのですが……ダメ、ですか?」
「何の問題もないよ」
上目遣い可愛い。それされると断れなくなるのが問題かな?いや、何の後悔もないけどさ。
取り敢えず重力をオフにして私の部屋にある私物や積み込んでいたフェルの私物を、二人でブリッジから一番近い場所にある二人部屋に運び込んだ。
無重力だと物の運搬が楽だから助かるんだよね。
そんな作業をしてたら時間が経ったみたいで、アリアから知らせを受けた私達はブリッジへ戻った。
『ゲートアウト、星間航行速度に切り替えます』
極彩色の景色が星の海に変わり、ミーム星系に辿り着いたことを知らせてくれた。
ミーム星系は恒星ミームを中心にした4つの惑星からなる星系で、恒星の大きさは太陽より少しだけ大きいくらい。
この星系が開拓地に選ばれた理由は、ハビタブルゾーンに水が豊富な海洋惑星が見付かったからかな。
ハビタブルゾーンとは、物凄く大雑把に言えば恒星の周辺で充分な大気圧があって惑星表面に液体の水が存在できる範囲を指す言葉だよ。
私達アード人にとっても水は大切な資源だし、必需品だからね。
水を現地で調達出来ることが開拓の大前提だしね。
記録を見る限り、海洋惑星ミーム3を中心に宇宙ステーションが建設されてる。コロニー建造や惑星のテラフォーミングも予定されていたけど、その前にセンチネルとの戦いになって計画は中止。
宇宙ステーションも放棄されたけど、取り残された人達が居るみたいだね。
全員分の船や“トランク”を用意できなかったのかな。
『救難信号は宇宙ステーションから発信されています。現在も受信可能です』
「アリア、宇宙ステーションを呼び出して。応答があるか確認したい」
『通信を試みます……受信設備に不具合があるのか、回線を開くことが出来ません』
「受信機の故障でしょうか?」
「分からない。アリア、生命反応は?」
『スキャン開始……ステーション内部で動く物体を多数確認できました』
おっ、生存者が居るみたいだね。
「よし分かった。ステーションにつけて。直接乗り込んで誘導する。フェルは……」
「一緒に行きます。足手まといにはなりません」
「分かった。アリア、受け入れの準備を。それと私達のサポートもお願いね」
『畏まりました。ティナ、フェル。どうかお気を付けて。ステーション内部は気圧も保たれており、環境に問題はありません』
「ありがとう」
プラネット号をステーションにあるドッグに接続して、私達はステーション内部へと足を踏み入れた。