テラーノベル
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放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
夕焼けが窓を透かして、長い影と温かい光を廊下に落としている。
赤崎yanは、その光の中を一人歩いていた。
制服の上着を脱いで肩にかけ、ネクタイを緩めてため息を吐く。
彼の髪は赤みを帯びた長めのショートで、前髪の一部には紅のメッシュが入っている。
真っ赤な瞳は、まるで宝石のように光を反射していた。
「……マジで何やってんだ、俺……」
放課後の旧校舎。
人気が無くなったこの時間帯に、わざわざ一人で来る生徒なんていない。
けれど、yanにはどうしても確かめたいことがあった。
——この学校には、夕方になると“橙色の少女”が現れる。
そんな噂を聞いたのは、つい先日。
クラスの女子たちがキャッキャと盛り上がっていた怪談話の中だった。
「放課後の旧校舎で、一人で窓際に座ってる女の子。
オレンジ色の髪で、瞳がちょっとピンクっぽくて、めっちゃ綺麗なんだって。
でも……その子、幽霊なんだってさ」
「お前の目、そーゆーの好きそうだよな」
そう冷やかされたとき、yanは「バカじゃね」と一蹴した。
でもその夜、気づいたら、彼はあの噂が気になって仕方なくなっていた。
(橙色の髪……ピンクの瞳……幽霊って、おいおい。
そんなもん、いてたまるか。……けど、もしもいたら)
心のどこかで、期待していた。
旧校舎の教室。扉を開けた瞬間、埃っぽい空気と静寂がゆあんを包んだ。
教室の窓から差し込む夕日が、机をオレンジ色に染め上げている。
「……やっぱ、誰もいねーよな。あー、くだらね……」
そのとき。
カツン。
乾いた音が背後で響いた。
靴音のような、小さな音。振り返ると——そこに、彼女がいた。
「やっと来たのね、バカ男」
教室の隅、窓際の机の上に座る少女。
腰まで届くロングヘアが、夕日を浴びてきらきらと輝くオレンジ色に染まっていた。
瞳は赤に近い薄紫。どこか意地悪そうな、けれど綺麗な目だった。
「お、おま……だ、誰だよ……!」
yanの声が裏返る。
少女は片眉を上げて、小さく笑った。
「自己紹介?別にしなくてもいいけど。……あたし、橘eln。
で、あんたは……うーん、赤っぽいから“あか”でしょ?」
「んな訳ねぇだろ……っ、俺の名前はyanだし…お前、幽霊なのか?」
「うーん、そうかもね。でもあたし自身もよくわかんないの。
気づいたらここにいたし、放課後にしか存在できないし、
それ以外の時間は、記憶がぼんやりしてる」
淡々と話す少女の声には、不思議な冷たさと寂しさが混ざっていた。
「でも、今日……なんか、来そうな気がしてた。
“バカそうで、でもちょっとだけ目が優しい男”が、現れそうな予感」
「バカって言うな。……ってか、何その予言センス」
「ふふっ、あたりでしょ?」
elnと名乗った少女は笑う。
その笑顔はどこか、泣き出しそうな空を隠すような、強がりに見えた。
yanはなぜか、その表情から目が離せなかった。
「なぁ、ほんとにお前……幽霊なのか? なんで、ここに……」
「それ、これから毎日来てくれたら教えてあげる。
ちょっとずつ、ひとつずつね」
「はぁ?……面倒くせぇやつ」
そう言いながらも、yanの頬には小さな紅が差していた。
きっと彼自身もまだ気づいていなかった。
この日から始まる放課後が、どれほど特別な時間になるのかを——
そして。
“橘eln”という名前が、まだ“仮の名”であることも。
本当の彼女の名前が、鏑木etであること。
そして、その名前が語られたとき、二人の時間が終わりを迎えることを。
——まだ、誰も知らなかった。
新連載です!!こちらは毎日投稿、、、頑張っていきたいです!
もしよかったらもう片方もお願いします!!
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