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音が戻る場所

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音が戻る場所

1 - 音が戻る場所

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2025年05月14日

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第一章:出会いの音
葵「この席、いいですか?」


店主・誠「ああ、どうぞ。今日は静かだし、ゆっくりできると思うよ」


葵「ありがとう……静かなの、好きなんです」


誠「ここに来る人はみんなそう言うよ。にぎやかな場所に疲れた人が多いからね」


葵「……この店、なんだか懐かしい匂いがする」


誠「古い木のせいかも。もう30年になるからな、このカウンターも椅子も」


葵「……30年か。私、今25なんです。生まれる前からこの場所はあったんだ」


誠「あんたが生まれるより前から、誰かがここでコーヒー飲んでたわけだ」


葵「ねえ、マスター。あなたは、どうしてこの店を続けてるの?」


誠「……それを話すには、コーヒー一杯じゃ足りないかもな」




第二章:過去に手を伸ばす


葵「私ね、ピアノやってたの。ずっと小さい頃から」


誠「だった、ってことは……やめたんだな」


葵「うん。ある日、音が出なくなったの。鍵盤は動くのに、心に響かなくなった」


誠「……それは、きっと、音じゃなくて“気持ち”が出なくなったんだな」


葵「……マスターも、昔、何かやってたの?」


誠「音楽だった。ギターだよ。もう20年以上、触ってない」


葵「どうしてやめたの?」


誠「仲間を一人、事故で失くした。そいつがいない音楽なんて、やる気がしなかった」


葵「……わかる気がする。私も、大事な人がいなくなったの」


誠「……だったら、この店に通ってみな。何もしないで座ってるだけで、少しは心が動くかもしれない」




第三章:少しの変化


葵「マスター、あの棚のギター、弾いてもいい?」


誠「……あれは飾りだ。音、出るかわからんぞ?」


葵「音じゃなくて、気持ちを確かめたいだけだから」


誠「……好きにしな」


葵「……(ぽろん)……ふふ、すごく下手。でも……なんか、あったかい」


誠「その音で、誰かが救われるかもしれん。たとえば、俺とか」


葵「……マスター、泣いてるの?」


誠「……泣いてねぇよ。目にコーヒーが入っただけだ」


葵「ふふ、うそつき。……ねぇ、また来てもいい?」


誠「当たり前だろ。もうお前はこの店の音だ」




第四章:風の中の音楽


誠「客が多くなってきたな、最近」


葵「ギターがあるって聞いて、弾かせてほしいって人が来たみたい」


誠「まったく、お前がきっかけか」


葵「……マスター、また一緒に演奏しない?」


誠「……それは……」


葵「私は、もう一度音を信じてみたい。あなたとなら、できるかもしれないから」


誠「……じゃあ、夜に練習しよう。閉店後、誰もいないこの店で」


葵「うん。ピアノはないけど、私、歌うから」


誠「歌か……それなら俺も、本気で弾かなきゃな」




最終章:音が戻る場所


誠「今日で一年だな、お前が初めて来てから」


葵「……なんだか信じられない。あのときは、音なんてもう一生いらないって思ってたのに」


誠「それが今じゃ、俺よりもこの店に溶け込んでる」


葵「マスター。ありがとう。……この店が、私を救ってくれた」


誠「救ったんじゃない。お前が、音を手放さなかっただけだ」


葵「……最後に、歌ってもいい?」


誠「もちろん。俺も、ギターを合わせるよ」


葵「じゃあ……始めるね。私たちの“再生”の音を」


誠「――ああ、聴かせてくれ。ここが、音が戻る場所だから」




[完]



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