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「……ひとりで来るとは、ずいぶんと舐められたものだな」
突然現れた青年に、ルークは苛立った。
確かにその通りで、いくら強さに自信があったとしても、ひとりで敵地を訪れるなんて無鉄砲に思えてしまう。
仮に王国軍の関係者なのであれば、私たちの戦力は多少なりとも知っているはずなんだけど――
「んっんっんっ♪
……『舐めてる』のかなぁ? いやいや、ボクにとっては、これが一番なんだよぉ~?」
青年はあどけないような、それでいてへらへらとした、そんな嫌な笑みを浮かべてくる。
その口調からも、人を小馬鹿にするような感じが強く伝わってきた。
「――それで、あなたは何者なんですか?」
このあとルークが彼を倒すとして、ひとまず気になることを聞いておく。
さすがに、素直に答えてくるとは思わなかったけど――
「ボクは呪星……呪星ランドルフ。
この名前を聞いて、驚いたかな?」
……素直に答えてくれてしまった。
しかし自信たっぷりに言う青年ではあったが、私にはその凄さがまるで伝わってこない。
「……えっと、誰ですか?」
「さぁ……?」
エミリアさんも私と同じで、きょとんとした表情を浮かべている。
ただ、ルークだけは違うようで――
「む……。七星の一人か……!?」
「え? ルークは知ってるの?」
「はい、王国軍の遊撃部隊のような……特殊部隊のような、そんな存在です。
情報はあまり多くないのですが、王国軍の切り札とも言われています」
「んっんっんっ♪ さっすが元クレントスの田舎騎士♪
そんな|辺鄙《へんぴ》な場所にまで、ボクたちの名前が知られてるなんて……嬉しいなぁ~?」
ランドルフはルークを挑発するように、へらへらと笑った。
しかしルークは安っぽい挑発には乗らない。……内心、どう思っているのかは分からないけど。
「それで、貴様は何をしに来たんだ?」
ルークは低い声で、ランドルフに問い掛ける。
下手な動きを見せれば、即座に斬り伏せるつもりなのだろう。ルークは静かに、神剣アゼルラディアを構え直した。
「おぉ~。それが新しい神器かぁ~。……うん、とっても美しいね。
どうだい、その剣を持って、王国側に戻ってこないかい?」
「……何だと?」
「んっんっんっ♪ まぁまぁ、もちろん国王陛下の一派は拒否するだろうけどぉ~……。
王族も一枚岩じゃないからね? ボクらの七星に、キミが入る余地もあるわけだよ」
それは突然の、思わぬ申し出だった。
命を助けてくれるだけじゃない。王国軍の切り札とも言える、七星への勧誘でもあるのだ。
ルークにとっては逃亡生活に終止符を打って、そのまま名声も獲得できてしまう話……。
しかし――
「断る」
ルークはあっさりと拒絶した。
「えぇっ!?
犯罪者のレッテルを貼られたままでも良いの? このままじゃ、ずっと冷や飯食らいだよ?」
「構わん」
ルークはランドルフを睨みながら、心を少しも動かす様子は無かった。
ランドルフはそんなルークを見て、忌々しい表情を少しだけ見せた。
「……せっかく、キミだけは助けてあげようと思ったのにぃ~。
それじゃ、もういいよ。後悔しながら死んでいけば良いさ!」
そう言うと、ランドルフは右腕に纏っていた黒紫色の光を、そのまま右手に集中させ始めた。
雰囲気からして、とても嫌な予感がする。ここは先手を打って――
「バニッシュ・フェイトッ!!」
私はすべての魔法効果を打ち消す光魔法を使った。
……しかし期待に反して、ランドルフの右手の光を消すことはできない。
「んっんっんっ♪ その魔法を使えるのは聞いているよ!
でも残念! ボクには効かないんだなぁ~」
「な、何で……?」
「んっんっんっ♪ ボクの使う術は、魔法じゃないのさ。
魂の力をそのまま、魔法を媒介とせずに使う……魔法とは別系統の術だからね♪」
一見すると魔法にしか見えないその輝き。
物理的なもの以外はすべて魔法だと思っていたけど、そもそもそれは誤った認識だった……?
「……問題ない。剣で倒せば良いんだろう?」
そう言った瞬間、ルークはランドルフに斬り掛かった。
しかしその攻撃は途中で不自然に折れ曲がり、ルークはおかしな形で体勢を崩してしまった。
「――ッ!?」
「おお、凄い攻撃だ。本当に凄い力を感じるよ!
だからこそ、ボクたちの仲間にならないのが悔やまれるなぁ~……。
……そうそう、そっちの女の子がキミのご主人様なんだってね?」
「答える義理は無い!」
ランドルフの言葉に、ルークは即答した。
「つれないなぁ……。
ボクはキミに興味があるから、こんなところまでわざわざ会いにきたのに……。
……何だか悔しいな。この術はキミのご主人様に使おうと思ったんだけど、やっぱりキミに使うことにするよ♪」
ランドルフは右手に集約させた光をそのまま解き放った。
暗いような、眩しいような、そんな光が周囲を照らしたあと――
「ぐ、ぐが……ッ!?」
満面の笑みを浮かべるランドルフの前で、ルークが突然苦しみ始めた。
ルークの身体には、薄っすらとした黒いオーラが纏わりついている。
「ちょ……!? な、何を!?」
「んっんっんっ♪ ちょぉっと強力な呪いを掛けさせてもらったよ~。
生命力を奪う、ボクの特別製さ♪ 残念ながら、これで弾切れなんだけど~」
……強力な呪い?
確かにルークは、胸の辺りを押さえながら苦しんでいる。
私の持っているアイテムではこの呪いを解くことは出来なさそうだし、今は新しいアイテムを作ることも出来ない。
「エミリアさんっ!!」
慌ててエミリアさんの顔を見ると、青ざめた顔で首を横に振った。
しかし一瞬後、彼女はルークのもとに駆け寄って、何かの魔法を唱え始めた。
「簡単な解呪の魔法なんて、効かないからねぇ?
ボクの誘い、断ったことを後悔しながら死んで――」
「……う、うおぉおおおおおおおッ!!!!」
突然の大きな雄叫びと共に、ルークはランドルフに襲い掛かった。
傍らで魔法を掛けていたエミリアさんは横に倒されてしまったが、そのままルークの剣が宙を走る。
「――ッ!?
この呪いを受けて、まさか動けるなんて……ッ!?」
ランドルフはルークの剣を紙一重で避け損ね、脇腹に深い傷を負った。
しかしルークの攻撃はそこで終わり、そのまま地面に崩れ落ちてしまう。
「ルーク!! 大丈夫!?」
私が声を掛けるも、ルークの息は絶え絶えだ。
返事をしようとはしていたが、その声は声にならないでいた。
「――うぅ……。痛い、痛いよぉ……。
この死にぞこないが、何てことをしてくれるんだ……」
ルークの一撃で怪我を負ったランドルフは、腰の小さな鞄からポーション瓶を取り出した。
そんなもの、ここで使わせるわけにはいかない――
「アイス・ブラストッ!!」
「えっ!?」
パリンッ!!
私の撃った氷の弾が、上手い感じにランドルフのポーション瓶を破壊した。
ポーション瓶からは液体が飛び散り、地面に零れ、そのまま染みになっていく。
「ちょ……。よ、よくも……!
ポーションはあれしかなかったのに……!!」
ランドルフはふらふらとしながら、忌々しそうに呟いた。
しかし向こうが傷を治せないなら、今は確実に追撃をすべきところだ。
……私はもう、無我夢中だった。
ルークのことが何よりも心配だ。はやく側にいてあげたい。しかし今は、このランドルフが邪魔で邪魔で仕方が無い。
「クローズ・スタン!!」
バチバチバチィッ!!
「んが……っ!?」
意を決してランドルフの懐に飛び込み、スタンガンのような電撃を叩き込む。
ランドルフの肌と服の一部が焼け焦げて、彼はさらにふらふらとよろめいた。
「エミリアさん、追撃を――」
「こっ、これ以上付き合ってられるかっ!!
ガイスト・エアスラッシュ!!」
ランドルフがそう叫ぶと、まわりの空気は突然荒ぶり、空気の塊が私たちに襲い掛かる。
威力自体はそこまで強いものではなく、どちらかといえば足止めのような感じの攻撃だった。
攻撃の最中、私たちが動けないでいると……恐らくは10秒ほどだろうか、その隙にランドルフの姿は消えていた。
洞窟の外に向かって血の跡が続いているから、きっとこの場から去ったのだろう。
「逃げた……?
……それよりもルーク! ルークは大丈夫!?」
今は逃げたランドルフよりも、苦しんでいるルークのことが優先だ。
すでにエミリアさんが、ルークの側で再び何かの魔法を掛けている。
私は二人の側に駆け寄って、二人の顔を交互に見た。
……その表情はどちらも辛そうで、絶望的なものにしか見えなかった。