君は窓側の1番後ろの席。
授業中、窓の外を眺めている。
その横顔を僕は眺める。
君はよく笑う。
目を細めて笑う。
君の笑い声が僕の毎日に色をつける。
君はときどき鼻歌を歌う。
いろんな人のいろんな歌を。
そんな君が歌う歌を僕もこっそり好きになる。
君は中学2年生。
吹奏楽部でフルートを吹く。
君の音は窓の外の僕をいつも元気づけた。
君はいつもみんなといる。
みんなの話を聞いている。
僕の話も聞いてほしい。
いつか聞いてほしかった。
君は今年も図書委員。
自ら進んで手を上げた。
放課後図書室で30分、図書委員の仕事をする。
君は手先が器用だから
本にフィルムを貼るのが得意。
僕は本を元あったところに戻すことが得意。
君が本を戻すとき
僕が場所をいいあてた。
君は「すごい」と僕にほほえみ、
その本をそっとそこに仕舞った。
君が放課後泣いている。
図書室で1人泣いている。
僕は君のそばにいるのに、ハンカチを渡すこともできない。
僕は明日伝えるんだ。
夏の暑い図書室で、僕は心を決めていた。
君はなんて言うだろうか。
困った顔で笑うだろうか。
僕に明日は来なかった。
ちょっとも思ってみなかった。
こんなことなら昨日のうちに、ちゃんと君に言えばよかった。
僕は毎日君を見た。
君の涙が乾くのを待った。
君には笑っててほしかった。
笑ってる君の方がずっとずっといいんだから。
僕は今日も君を想う。
秋がすぎて冬がすぎて春もすぎていった。
暑い放課後の図書室は、あの夏の後悔を僕に思い出させる。
君は今日も図書室で
何かを探しているみたいだ。
何の本を探しているか僕に分かるすべはない。
君が本を見つけた。
あの日の本を見つけた。
僕が場所を言って、君がそこに仕舞った
あの時の本を君が見つけた。
君がつぶやいた。
泣きながらつぶやいた。
誰もいない図書室で、僕だけが聞いていた。
君はつぶやいた。
「あなたのことが好きだった。」と
本を抱きしめつぶやいた。
僕は叫んだ。
君には聞こえないけど叫んだ。
「僕も君が好きだ。」と
あの日言いたかったことを叫んだ。
君の悲しい記憶にならないように、
僕は君の笑顔を願った。
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