テラーノベル
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「だ、だめだ。暑すぎる……」
朝練のために明里と一緒に学校へと向かっているのだが、夏の太陽にジリジリと照らされて体力ゲージをどんどん削られている僕である。
それに、早朝でこの暑さだ。太陽が一番高く昇る時間帯になったら体が焦げてしまうのではないかと思えて仕方がない。
「ほーんと暑いよねえ。もう汗でベタベタだよ」
少しでも体の中に風を送ろうと、半袖シャツの胸元を大きく広げてパタパタしだした明里だった。
が、あまりに大きく広げたせいで、シャツの中が丸見えになってしまっていた。
つまりは水玉模様のブラジャーが。それと、今にもこぼれ落ちそうな程に盛り上がった胸も。
やっぱりめちゃくちゃ大きいな。
「大輔、どこ見てんのよ」
ジロリと睨みつけられ、咄嗟に目を逸らした僕だったが、しかし、脳裏に焼き付いて離れない。柔らかそうな、あの胸の膨らみが。
「い、いや? 別にどこも見てないけど?」
「嘘つくのが下手すぎ。女子ってそういう視線に敏感だからすぐに分かるから。気をつけなさいよね」
「ご、ごめん……」
「で、でもまあ大輔が望むんだったら、み、見せてあげないでもないけど……」
ん? 視線と共に、顔も一緒に背けたせいで表情を見ることができないけど、明里の声がなんだか上ずっていたような。
それに、いつもだったら変態みたいに積極的なアプローチでからかってくるはずなんだけど、それもないし。
まあ、気にしすぎか。
とりあえず、これからは僕も気をつけるとしよう。
「あ。ちなみに私Dカップだから」
「訊いてないってば、そんなこと!」
と、いつも通り平然と言葉を返したが、実のところは胸の鼓動が激しくなっていた。Dカップの明里の裸体を想像して、ドラミングのようにドキドキと。
「おお、宮部。それに宮部の嫁さんも。おはようさん。相変わらず仲が良いな、お前ら。しかし、結構久し振りだよな。ここで会うのも」
「あ、田西先輩! おはようございます!」
朝の挨拶と共に、僕は深くお辞儀。体育会系の部活あるあるだけど、先輩に対しては絶対服従であることが基本だ。上下関係が厳しいので。少なくとも、僕が所属するバスケットボール部では当たり前のことである。
「いつも言ってるだろ。俺にはそんな気を遣う必要なんかないって。先輩も後輩も関係ない。だからもっと気楽にいこうぜ」
やっぱり違うな、田西先輩は。人としての器の大きさが。だからこそ、この人に惹かれるんだけど。
「――ありがとうございます」
田西先輩と僕は学校までの経路が途中から同じため、こうしてたまに朝の登校時に会うことがあった。だから入学してからというもの、雑談をしながら一緒に歩いて学校へ行く機会がやたらと多かった。
「いやーん、田西先輩ったら。私のことをお嫁さんだなんて。照れちゃうなあ。でも事実だから仕方がないよね。えへへ」
田西先輩は気にしてないけど、相変わらずこっちがヒヤヒヤするよ。先輩に向かってタメ口とか。明里らしいと言えば明里らしいんだけど。
「あははっ! うん、そうだね。事実だから仕方がないよね。しかし明里ちゃんは今日も朝から元気だね。半分でいいから分けてほしいよ」
相変わらずの優しさが伝わってくる。全く偉ぶらないし、物腰も柔らか。それに、常に後輩のことを気遣ってくれる。だからこそ、僕はこの人を心底尊敬している。選手としても、人間としても。
だからこそ気になるんだ。どうして今度の練習試合から外されたのか。そして、昨日の練習に来ていなかったのか。訊きたいけど、訊けない。明里も言っていたけど、『訳あり』なのだろうから。
「ねえ、田西先輩? 昨日はどうして部活来なかったんですか?」
いきなりそれ訊いちゃうのかよ! コイツ、本当に怖いもの知らずだな。自分で『訳あり』だって言っていたにもかかわらず、馴れ馴れしく切り出すとか。
「んー。まあ、いつか話さなきゃいけなかったからいい機会かな。俺さ、落ちたんだよ。バスケでの推薦入学に」
「え!? お、落ちた!? 田西先輩がですか!?」
「まあねえ。バスケには結構自信あったんだけどなあ。井の中の蛙とはまさにこういうことを言うんだろうね」
ショックだった。同じシューティングガードとして、田西先輩よりも上手い選手を僕は知らない。少なくとも県内では。なのに、落とされた。信じられないし、信じたくなかった。
「あ、あの。落ちたってどういうことですか? あと、井の中の蛙って……」
さすがの明里も動揺しているようだった。さっきまでの明るい表情が消え、声にも戸惑いの色が滲んでいる。
「どういうことって、そのままの意味だよ。一応、最終テストまでは行ったんだけどさ。でも、俺の実力不足が理由で落とされちゃった」
「実力……不足……」
「まあ、そういうこと。当たり前だよな。全国から上手い選手が集まってくるんだから。その人達と比べたら、俺程度の実力じゃ全く太刀打ちできなくてさ。勝負にもならなかったよ。情けないったらありゃしない」
一切暗い顔を見せず、田西先輩はいつもと変わらぬテンションで僕達にそう教えてくれた。
「……そんなに上手かったんですか? 他の皆さんは」
「上手いどころじゃなかったなあ。スリーポイントだけならまだしも、ハンドリングが凄まじくてね。この人達の目は一体いくつあるんだよって思った。パスを出す時なんてほとんどノールックだよ? なのに、ノーマークになってる選手にピンポイントで鋭いパスを出したりしてさ。『あー、俺じゃ勝ち目ないなあ』って痛感させられた」
言葉にならなかったし、かける言葉が見つからなかった。それに今、僕が何を言っても意味がない。
もう、結果は出てしまったのだから。
「そう、ですか……痛っ!」
田西先輩は僕の額にデコピンを食らわせた。いつもの優しい笑顔を浮かべながら。
「宮部が落ち込んでどうするんだよ。それよりも、俺のことなんか気にしないで練習に励んでくれよな」
そして田西先輩はぽんっと僕の肩に手をかけ、続けて言葉を紡いでいった。
「お前には才能があるんだからさ。俺みたいにならないように、今のうちに『自分』を知っておけ。落ちた奴が言ってもなんの説得力もないけどね。ははっ!」
推薦の話がなくなって辛いはずなのに、どうしてこんなにも温かい言葉をかけてくれるんだろう。
だからこそ、伝えよう。どんなに辛い状況でも笑顔を絶やさないこの先輩に。
「田西先輩。僕はいつまでも追いかけますよ。目標にしてる先輩の背中を」
それだけ。たったそれだけ伝えたかった。僕にとっての田西先輩は、いつまでも僕の目標だ。
この気持ちが伝わってくれることを、僕は信じるしかない。
「――ありがとうな、宮部。お前に託すことにしてよかったよ」
「僕に、託す?」
僕のそれを聞いて、田西先輩は明里に向かって目配せをした。下手くそなウィンクで。そして明里は僕に顔を見られないよう、そっぽを向いた。
もしかして明里、『それに関して』何かを知っているのか?
そんな疑問を遮るかのようにして、田西先輩はさっきまでとはまた違ったニヤケ顔を僕に向けた。
「あ、あの! 田西先輩! 僕に託すってどういう――痛っ! 痛いってば!!」
僕の右腕に激痛が走ったと思ったら、明里が力いっぱいそこをギュッとつねってきたのだ。
「な、なんでつねるんだよ明里!」
「別にー。あ、そうだ! 私、ちょっと先に行ってるね。ひとつ用事を忘れててさ。ごめんね」
その言葉だけを残し、明里は学校へと駆け足で行ってしまった。
「相変わらず、空気を読むのが上手いな、明里ちゃんは。まあ、俺はまだ宮部に言うつもりはないんだけどね」
そう言ってから、田西先輩は内緒話でもするかのようにして、僕の耳元まで顔を近づけた。
「まあ、俺のことはいいじゃん。それよりも、いつ告白するのかな? 『あの』マネージャーちゃんに」
一気に赤面した僕である。
「は、はあ!? な、ななな、何言ってるんですか田西先輩! ぼ、僕は別に明里のことなんか――」
「ん? 誰が『明里』ちゃんなんて言ったの? 俺は『マネージャーちゃん』としか言ってないんだけど。おかしいなあ。マネージャーだったら他にも二人いるはずなんだけどなあ」
「え……。そ、そうですよね……」
――それから。
僕は恥ずかしさのあまり、田西先輩に顔を見られないように俯きながら学校まで歩き続けた。
やっぱり先輩は侮れない。
【続く】
#ラブコメ
奏多
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#大人の恋
月詠 涼
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コメント
1件
第4話、読み終えました! 田西先輩の推薦落ちの話、すごく胸にきましたね……自分が目標にしてきた人の挫折を目の当たりにした時って、何て声かければいいか分からなくなりますよね。でもそんな時こそ先輩が「お前には才能がある」って励ますシーンが沁みました。そして最後の「マネージャーちゃん」のくだりで思わずにっこり。明里ちゃん以外に気になる人がいるのかな…続きが気になります!