いつもより身だしなみを整えて退社しようとすると、エレベーターホールで五十嵐さんと八神さんと鉢合わせた。
「お疲れ様です。五十嵐さん、八神さん」
「あれ、今日何処か行くの?」
五十嵐さんは不思議そうに私を見た。今日は美穂さんから誘われた合コンに行く為、先ほど化粧室で簡単に化粧をし直し、髪型も綺麗にアレンジし直した。
「え、もしかして転職とかじゃないよね」
五十嵐さんは冗談ぽく言ってはいるが、心配そうに眉根を寄せた。
「えっ……?違います、違います!実はこの後、合コンに誘われていて……」
少し言い淀んでいると、五十嵐さんがいきなり目を見開いた。
「えっ……合コンってどうして……だって……」
五十嵐さんは何故か八神さんと私を交互に見ている。
「実は知り合いに誘われて……。行った事が一度もないんですけど、一度くらいは行ってみようかなと思って。社長にも何でも新しいことに挑戦してみろと言われましたし」
ちょっと照れ笑いすると、それを聞いていた五十嵐さんは何故か少し青ざめていて、八神さんを見ると頭痛がするのか目を閉じて目頭をマッサージしている。
「そ、そうだよね。やっぱり若い子はそういう所に行くよね。うん、まあ、でも変な人もいるから気をつけてね」
「ありがとうございます。ではお疲れ様でした」
不安そうに見ている五十嵐さんと八神さんにお辞儀をすると、美穂さんから教えてもらったレストランまで急いだ。
「いらっしゃいませー」
駅近くのイタリアンレストランのドアを開けた。
薄暗い店内は各テーブルの上にあるペンダントライトが周りをあたたかく照らしていて、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「お一人様ですか?」
「あ、いいえ。友人と待ち合わせをしているんですが……」
そう言ってうろうろと店内を見渡していると、美穂さんが私を見つけて手を振った。
「蒼ちゃん、こっちこっち!」
「ごめんなさい。少し遅くなって」
美穂さんがいるテーブルまで歩いた。
「大丈夫だよ。ごめんね、私達もう飲み始めちゃってるけど」
席に着くと皆一斉に私へ注目する。早くも『introvert』な性格が全開になり、ここへ来た事を後悔しだす。
「さっきも話したけど、こちら七瀬蒼さん。一緒に犬を保護するボランティアをやってるの」
美穂さんは私を一緒の席についているメンバーに紹介した。今日のメンバーは全員美穂さんと同じ三十歳前後の人達で、私達女性4人の向かい側には同じ様に4人の男性がいる。
「蒼ちゃん、こちらは有村さんと雪野さん。二人とも私の会社の同期なの」
美穂さんは医療機器メーカーに勤めている。同じ会社に勤めているという二人はとても感じの良い人達で、緊張している私に人懐こく微笑んだ。
「こんばんはー。いつも千歳さんから聞いてるよ。若いのにボランティアしてるなんて偉いね」
「ありがとうございます」
全員の視線が私に注がれ、こういう場に初めて来るということもあり緊張でカチコチになる。すると向かいに座っている男性がそんな私を見てふっと笑った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。俺、水樹です」
「はじめまして」
私はおどおどと挨拶した。もともと知らない人と至近距離で話すのが苦手なのに、それが男の人とあればなおさらだ。
「すごく可愛いのに控えめなんだね」
水樹さんは面白そうにクスリと笑った。
「実はこういう場にくるのは初めてで……」
「そっかー。それじゃあ緊張するよね」
彼は小さな子供でも見ているかのように、優しい笑みを浮かべる。
「こいつは遠野。それで、こっちが日下部、で、一番向こうが海崎ね」
水樹さんは隣に座っている残りの男性を順番に紹介した。皆とても落ち着いた大人の男性で、四人ともそれぞれ魅力のあるなかなかのイケメンばかりだ。
「初めまして。蒼ちゃんって言うの?可愛い名前だね」
遠野さんはニコッと笑顔を向けた。私も思わずつられて彼に笑顔を返す。日下部さんと海崎さんは向こうの方から私に軽く会釈をするので私も同じ様に会釈した。
「蒼ちゃんも好きなもの注文しちゃって」
美穂さんは私にメニューを渡すと小声で言った。
「ほらいい男ばかりでしょ?水樹さんなんてどう?なんか出来る男って感じでかっこよくない?」
私はメニューを見ながら目の前に座っている水樹さんを盗み見た。彼は癖毛の黒髪をかっこよくスタイリングしていて爽やかな王子様のよう。桐生社長とは少し違うタイプのイケメンだ。
彼の事をじっと見ていると、いきなり彼と目が合って慌ててしまう。そんな私を見た水樹さんはクスリと笑う。
なんとなく恥ずかしくなって、彼から慌てて目を逸らした。隣を見ると美穂さんと彼女の同僚の二人は、すでにそれぞれの男性と盛り上がっている。
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