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「聖壱さん、先にお風呂頂いたわよ。貴方も温かいうちにどうぞ」
「ああ、そうさせてもらおうかな。香津美も湯冷めしないようにしろよ?」
そう言って着替えを持ってバスルームに向かう、ハンサムな長身の男性は私の愛しい旦那様。いつもこうやって私の事を気遣ってくれる優しい人。
「ええ、そうね。じゃあ今日は先にベッドに入って本でも読んでいようかしら」
「へえ、香津美にしては大胆な発言だな。そういう誘い方も俺は嫌いじゃないけれど」
私は本当に本を読もうと思っただけなのに、どうやら聖壱さんは別の事を考えたみたいね。私に対する彼の溺愛っぷりは相変わらずで、時々こっちの方が恥ずかしくなるくらいよ。
「くだらない事を言ってないで、お風呂を済ませて頂戴。あんまり待たせると先に眠っちゃいますからね?」
「それは駄目。明日は休みなんだし、しっかり夫婦の甘い時間を過ごさないと」
そう言ってさっさとバスルームへと歩いて行く聖壱さん。夫婦の甘い時間は嫌いじゃないけれど、休み前は聖壱さんは手加減をしてくれなくなるからちょっと困ってる。
私は夫、狭山 聖壱との契約婚を解消して、彼と本当の夫婦になってもう一か月が経ったのだけど……
私達の新婚生活はびっくりするほど順調で、毎日こんなに幸せでいいのかと思ってしまうくらいなの。
明日の朝食の材料は何かあるかしら?
今夜の聖壱さん次第では作れなくなってしまうかもしれないけれど、冷蔵庫のチェックだけはしておかなくては。
冷蔵庫の中身を確かめながら作れそうなものを考える。
「明日は聖壱さんと買い物に行かなくっちゃね……」
資格などの為なら一生懸命になって勉強したけれど、あまり料理は練習してこなかったのよ。
だから作れる料理のレパートリーが少なくて最近ちょっと困ってる。聖壱さんには毎日美味しくて健康にいいものを食べさせたいと思っているんだけれど……
「料理教室に通うとかはどうかしらね?」
聖壱さんの幼馴染の二階堂 柚瑠木さん、その奥さんである月菜さんは柚瑠木さんの子供の頃からお世話をしている使用人の女性に料理を習っているそうなの。
仕事にも少し慣れてきたし、私も聖壱さんのために出来る事をしようと思ってる。
冷蔵庫を閉じると、スマホを取り出し検索を始める。確か近くに先生が人気で通いやすい料理教室があると聞いた覚えがあったから。
良さげな所を見つけ、内容を確認していると……
「何を見ているんだ、香津美?」
いきなり聖壱さんに画面を覗かれて、驚いて持っていたスマホを落としそうになってしまう。ああ、でもちょうど良かったわ、料理教室に通うには聖壱さんの許可が必要だし。
「ああ、今ちょうど聖壱さんに聞こうと思っていたことがあって……きゃあっ!」
振り返りスマホの画面を見せようとすると、いきなり身体が宙に浮いた。話している最中なのに、聖壱さんが私の事を抱き上げたのだ。
「その話は後で、だな。今週は香津美が随分お預け食らわせてくれたから、こっちが先だ」
そう言うと、聖壱さんは私を抱いたまま寝室に入りそのままベッドの上へ。この状態ではきっと「待った」は聞いてくれ無さそうね。だけど……
「本当に優しい夫は先に妻の話を聞いてくれるんじゃないかしら?」
「本当に夫の事を想う妻なのなら、こんな時は素直に相手からの愛情を受け止めるべきだろう?」
相変わらずどっちもどっち、俺様な聖壱さんと性悪な私に変わりはなくて……こんな言い合いも毎日の事だったりするのよ。
「そんなのは……キャッ!」
それでも抵抗しようとすると、パジャマの中に手を入れられて。まだ私が話をしているのに! そう言いたかったけれど……
「香津美、今は大人しく俺に愛されていろ」
貴方はいつもそうよ。そんな風に強気で囁いて、私の理性を役に立たなくしてしまうんだから。私はもうパジャマのボタンを外す聖壱さんの指をボーっと見ている事しか出来ない。
私の肌の隅々まで丁寧になぞる長い指と手のひらに翻弄されて、この夜も聖壱さんの良いように乱されたのだった。
「本当に意地悪になったわ、聖壱さんは! 全然手加減してくれないんだから」
温かい湯船に浸かりながら、私はグチグチと聖壱さんに文句を言っている。だって文句の一つや二つ言いたくもなるわよ、さっきまで聖壱さんは私を抱いて離してくれなかったのよ?
私を抱く聖壱さんは最近とても意地悪で、今日もベッドの上で何度も私を泣かせてくるのだから。最後には理性も無くなってしまいそうになるくらいで。
「手加減出来ない程、俺を煽っているのは香津美の方だろ? あんな可愛い姿見せられたら、こっちだって余裕がなくなるんだよ」
浴槽で私を後ろから抱きしめている聖壱さん。彼の大きな手のひらが私の胸を包んでいるように感じるのは、きっと気のせいじゃない。
「すぐそうやって私の所為にするのよね、聖壱さん。この前だってバスルームでまで……」
それ以上は恥ずかしくて言えなかった。この明るいバスルームの中で私はあんなにもはしたなく乱されてしまって……
「あの時の香津美は凄く……なあ、もう一回ダメか?」
「ちょっと待って、私はまだ話したいことが……んっ!」
余計な事を言ってしまったと気付いた時にはもう遅くて、またも私は聖壱さんに執拗に愛されてしまったのだった。
「平日の仕事終わりに料理教室に通いたい? なんでまた……」
「聖壱さんはいつも仕事が終わるのは遅いし、私も一人でいるのは少し寂しいのよ。それだったら時間を有効に使いたいじゃない? 週に二日間だけだしね」
私も仕事が終わって家事を手抜きはしたくないから、毎日通うのは無理だって分かってる。
でも一番の理由の、聖壱さんに美味しくて栄養のあるものを食べさせたいのだと素直に言う事が出来なくて。相変わらず素直になれない私……
「香津美は一人で料理教室に通うつもりなのか?」
「ええ、妹も誘ったけれど忙しいって断られてしまったし。ここまで通うのは大変でしょうしね」
少し前まで一緒に暮らしていた可愛い妹と会えないのは少し寂しいけれど、今は聖壱さんが私の事を凄く大切にしてくれてる。
恋をして誰かを愛しいと思う事で、もうそれだけで十分だと思えるようになった。
「柚瑠木に月菜さんを誘ってみていいか聞いてみる」
聖壱さんの幼馴染の二階堂 柚瑠木さんと妻の月菜さん。そりゃあ月菜さんと仲良くなりたい気持ちはあるわよ。せっかく同じレジデンスに住んでいるんだもの、お友達になりたいわ。
「でも柚瑠木さんが許してくれるかしら?」
なんだかんだ言って柚瑠木さんは過保護なくらい月菜さんを守っているような気がするから、簡単に「はい」とは言ってくれない気がするのだけどね。