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哀情

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哀情

6 - 手紙

♥

574

2022年12月17日

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「うっっ、ぐ」


腹部から徐々に血が流れだし、僕はその場に立っていられなくなった。

地面に膝をつき、血だらけの腹を両手で抱えた。


な、何が起こった。

わからない。わからない。わからない。

巫はサーニャと戦っていて、上空に向かう途中に目が合って、えっと、それで、

頭が回らない。それどころではないのだ。

腹部には激痛が走り、息がうまくできない。

腹部からの大量の出血、なぜ、腹部。


__思い出した


あの、悪夢だ。何故忘れていたんだ。

夢の中で葛葉が、殺されたあと、僕もあいつに殺されたんだ。


そう、確か。

腹部を目には見えないようなもので、1突きにされたんだった。


あ、葛葉。葛葉は、どうなって、、


駄目だ。出血量が多すぎる。意識が今にも消えそうだ。

視界がぼやけ、痛感も和らいでいく。

鉄のような血の匂いも分からなくなっていく。


あ、これ、死ぬんだ。

僕は、これから死ぬんだ。

サーニャに、謝れずに死んじゃうんだな。

まだ、ありがとうも言ってないし、大切な存在だとも言ってない。

戦いが終わったあとに、声で伝えたかったのに。

未練は山ほどあるのに、教会にシスターや子供たちがいるのに。

伝えなきゃいけないことも、伝えられずに死ぬのかな。


でも、うん。


もう十分か。


最後に聖職者らしく、祈ろう。


ほぼ感覚のない震える手で十字架のネックレスをとり、胸にそっとあてた。


そうだなぁ。僕の、最後の、、願い。


声にならないような、力無き掠れた声で願った。


「ど、どう、、か。サーシャに、、さ、、


幸多からんことを__。


僕はそれを最後に意識を手放した。

もう、溢れていた涙も死への恐怖も生に縋る心もいの間にか消えていた。




くっそ、巫のやつ全然隙がねぇな。

予定よりもこいつを始末するのに時間がかかっている。

このままだと、俺の体力も魔力も底をつく。

血が足りねぇ、俺は人様の血を飲むのが好きじゃない。


夕食には毎日ワインと共に顔も知らないやつの血がグラスに注いであった。

その血は、ラグーザ家専用に開発された高品質な血で、巫一族と人間の中でも稀な血を持つ一族を掛け合わせたもの。

家族は、皆当然のように飲み、その血を評価をした。


「これは不味い」「一昨日のものは、中々だった」「悪くない」


俺は、血を美味しいと思ったことがない。

いつも出される血は生温く、さっきまで生きていて、殺したばかりと言うような温度、新鮮な味をしていた。

俺は、吸血鬼として不合格。

しかし、俺は運良く血を多く飲まなくとも生きていける身体に生まれた。

だから、質のいい血肉を食べるようにしていた。

血を好まない吸血鬼など吸血鬼ではない。

しかし、飲まねば困るのも死ぬのも俺であることに変わりは無い。


今は、その血がほしくてたまらない。

かなり、魔力を消費しているからだ。たとえ、強かろうが嫌いだろうが本能には逆らえない。


「クソがっ!さっさと潔く死ね!!」


「ソンナに、感情を露にするモノではありマセんよ。ラグーザ家三男坊」


何だ、こいつ。俺の事わかってたのかよ。

しかも、流暢に言葉まで話すのか。


「なぜ俺を知っている」


「何もおかしいことハゴザイません。私一族のチヲお飲みにナラれていたのは、ラグーザ家でスよ」


は?こいつ、こいつらの血を俺のラグーザ家一族が飲んでいた?


「嘘を吐くな」


「嘘ではアリマセんよ」


うおっ、あぶね、こいつ隙を狙ってくる。

こいつは、目がいい。あの目、吸血鬼の目に似ている、暗闇にも強く、少しの動きにも敏感。

なにより、こいつ自信が俺の動きをよく見ている指先からつま先まで細部に至るまで。

だから、俺の攻撃を避けられる。

そして、隙を狙い攻撃をすることができる。


「ソンナコトヨリ、何かお忘れではありませんか」


「なんのことだ」


巫がニヤッと悪い笑みを浮かべた。


「フフ、マだ気づきませんか」


何か嫌な予感がする。

なんだ、何を忘れた?忘れている?


「ヒントです」


巫がゆっくり細い人差し指を下に向ける。


「まぁ、神父トハイえ所詮は人間、デスよね?」


子供が悪戯をしたような笑みを浮かべ、目元を細めた。


天使のような容姿は消え去り、悪魔に見えた。


その瞬間俺は、全てを察し、今までにない怒りと絶望と悲しみに襲われた。

色々な想いがごちゃごちゃに絡まり、収集のつかない感情を宿した。


今、俺は、確実に___。


高揚している巫と目が合った。


「お前は、俺の逆鱗に触れた」


次の瞬間、巫は声を放つこともできず、無惨に身を滅ぼした。


その瞬間巫は蔑むように笑っていた。


俺はほぼ落ちるような形で、叶の元に向かって今出せる最高速度で飛んだ。

叶の事にしか意識が向いていなかった。

巫など、報告など、仕事など今は死ぬ程どうでもよかった。


「叶!!叶!!返事しろ!!おい!!」


叫びながら探すと、赤い血溜まりを見つけた。

唾を飲み込んだ。


「か、叶」


名を呼んでも返事は無い。

もう一歩、進むとそこには目を閉じた叶がいた。


叶は、腹部に数箇所の小さな刺傷と一撃の大きな刺傷が体に刻まれていた。

辺りに血は飛び散り、残酷な姿となっていた。


「かなえ、かな、え、、おい、」


「チェスするんじゃないのかよ」


「俺に茶出すんじゃねーのかよ」


歩を進め、屈み顔を近づける。

十字架のネックレスが血色の無い指に握られていた。神父服も半分程血に染まり、綺麗な髪も髪先が血に染まっていた。


「なんで死んでんだよ」


「次は勝つんじゃないのかよ」


ただ、叶の表情は、優しく穏やかで死んでいるとは思えない薄い笑みを浮かべていた。


目の奥がじんとした。熱が奥からこもり、鼻先がツンとしたのを感じる。

視界が少しずつボヤけ、叶の表情も見えなくなった。

そして、叶の肌に一滴の水が落ち、また、叶の穏やかな表情が綺麗に目に入った。


ダメだ。泣くことは許されない。

こいつは、人間。どっちみち早くに死ぬ。

今死んでも後から死んでも何も変わらない。

大丈夫だ。冷静になれ。

せめて、こいつが綺麗な状態を保っているうちに、運ぼう。


完全に脱力し、冷たくなった叶を抱きかかえ子供たちやシスターの待つ教会に向かった。

叶を抱きかかえて飛ぶ体力は残っていなかったため、歩いた。


教会につき、姿眩ませる魔法をかけ、叶と最初に会った場所に向かった。

重いドアを開けると、あの時と同じく蝶番が小さな音を鳴らす。


もうすぐ夜が明ける。


叶を棺にゆっくりと寝かせる。


叶が紅茶を入れてくれていた景色が目の裏に浮かび上がる。

また、少し視界がぼやけた。


最後は、叶の部屋に連れていこうと思い、魔法で棺に入った叶と俺を瞬間移動させた。

そうすると、扉から1匹の黒猫が音を立てず静かに入ってきた。


「生きてたんだな」


俺の言葉を無視するように、机の上にひらりと飛び上がり一声鳴いた。


「なんだよ」


そこには、一枚の写真と手紙が置いてあった。


真っ白な便箋を開けると、中から4枚の紙が出てきた。

何度も見てきたからわかる。あいつの文字、書き方だった。


叶の元に、それらを持って行きそばの椅子に座った。


「お前は、こうなることを予想してたのか?」


何も言い返さない叶を見る。

手紙に視線を移した。


꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱


親愛なるサーシャへ


これを読んでいるということは、私は亡くなり、サーシャは戦いに勝ったのでしょうね。


これは、神父としてではなく、一人の友としてサーシャに宛てた手紙です。


私とサーシャは、偶然出会って種族も違うのにもかかわらず仲良くなりました。

これは、非常に稀なことで私はきっとこうなる運命だったのだと思います。


突然話が変わりますが、少し、私の昔話をしても良いでしょうか。

私は、元々孤児で親に捨てられていました。なんとか生きるために、毎日必死に命乞いをし、ゴミを漁り食べれる物を見つけては腐っていようと腹の足しにするため食べました。

そして、姿は汚れていて醜く誰も私のことを助けようともしてくれませんでした。

しかし、10歳の頃にたまたま村に訪れた一人のシスターが私に声をかけ、この教会に連れてきてくださいました。

それから私は、教会で暮らすことになりました。

暮らすために必要な全てをシスターに一から教えてもらいなんとか、人並みの生活ができるようになりました。

他の孤児とも仲良くなり遊ぶようになりました。

その日々は、とても楽しく穏やかで幸せでした。


そこから、四年の月日がたった頃森に魔物が住み着くようになりました。


その頃、私は同い年の孤児である赤毛の少年と意気投合し仲良くなりました。

彼は、いつも正義感に満ち溢れていました。

そんな彼は、なんとか森に住み着く魔物を倒し、平穏を再び手に入れ、皆を笑顔にしようと言いました。

あまりにも、無防備でしたが、まだ14の子供であった私達は、深く考えずにすぐに作戦を立て、夜中にシスター達の目を掻い潜り教会の外を出て、子供は行くことが禁じられている魔物の潜む森へ向かいました。

そして、禁じられている森にて作戦を実行しました。私と彼の作戦は、まさに単純でなんの捻りもないものでした。

彼が囮になり、気を逸らしている間に、私が隙を見て魔物を打つというもので、彼は正義感に満ち溢れた表情で先に森に入っていきました。そして、彼が入ってから2分ほどたったら後、私が入ろうとすると森の中から耳を塞ぎたくなるほどの悲鳴が聞こえてきました。


悲鳴の正体は、彼でした。


彼は、森に入り、魔物に襲われた。私は、彼の悲鳴を聞き恐怖でその場に居られなくなり、武器を捨て彼を見捨て、泣きながら全速力で走り教会にいるシスターに抱きつき「彼が森に入って魔物に襲われた。助けてください!!!お願いします!」とシスター達と神父様に必死に縋った。

シスター達は、飛び起き村人達に助けを求め、武器を持ち森に向かった。私は、教会にいることを命じられ、神父様になだめられながら彼が帰ってくることを心の底から神に祈った。

しかし、彼は帰らぬ人となり、私は、底のない絶望ともう取り戻すことのできない重い罪に縛られた。友を見捨て、亡くし、何の力もないことを痛いくらいに思い知らされました。

それから、彼の復讐、そして自身の罪を消すため聖職者という立場を利用し、魔物を無心で殺し続けました。私には、これでしか罪を消す方法が思いつきませんでした。時折、夢に彼が出てきて、私を泣きながら殺そうとする。私を憎んでいる。耳から彼の悲鳴が私に助けを求む声が離れないのです。

私の昔話はこれにておしまいです。今まで誰にも話すことのできなかった話をサーニャには、できるかもしれないと思って、万が一に備えここに記しました。




ーーー


作者 黒猫🐈‍⬛

「哀情」

手紙


※無断転載などの行為はお控えください

※この物語は、本人様との関係はありません

※ご感想や改善点などは、コメント欄までお願いします


続く

この作品はいかがでしたか?

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コメント

7

ユーザー

こうやってあなた様や多くのリスナーが考察された魔族の葛葉と、神父の叶の物語が公式の手によってアニメとなる喜びが……………

ユーザー

フォロー失礼します

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