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#ホラー
天野 夢縁
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#学園
大正
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#学園
要 九十九
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ハンスへの送金を終え、地下拠点に戻った俺は、戦術端末に映し出された準決勝のトーナメント表を凝視していた。
「……次戦の相手、か」
画面に浮かび上がる名前。
【爆破の魔女】シャーロット・ヴァルカ。
予選から本戦に至るまで、圧倒的な広域爆砕魔術で対戦相手をリングごと吹き飛ばしてきた。
先ほど渓谷でセリスとの関係を根掘り葉掘り聞いてきた脳天気な姿とは一転、戦闘におけるあいつは、ヴァルネ家に匹敵する名門ヴァルカ家の名に恥じぬ『爆殺の狂鬼』と化す。
「広範囲の連続爆破……か。大雑把だが、ジャン=リュックの血界魔法よりも面倒だな」
俺はパイプ椅子に深く腰掛け、煙草の煙を天井へ吹き上げた。
シャーロットの爆破魔術は、広範囲を無差別に巻き込む。俺の『局所遅延(ディレイ)』でコンマ01秒の隙を作ろうが、爆風と熱波そのものがリング全体を覆い尽くせば、回避する物理的スペースそのものが消失する。
大雑把な火力を誇る奴らの典型例だが、その火力が「広すぎる」のは厄介だ。
「……だが、爆破ってのはな。化学反応であり、物理現象だ」
俺は不敵に口角を上げた。
どれほど膨大な魔力を込めようが、爆発が起きるには「起爆の起点」と「酸素」、そして「魔力の励起時間」が必要になる。
「ハンス、届いた光学迷彩ユニットと、指向性吸音・減圧フィールドの調整は終わってるか?」
通信端末越しに、闇商人のニヤついた声が返ってくる。
『へいへい、バッチリだぜクロード! シャーロットの爆破魔術を局所的に減圧・鎮火させる特殊ガス弾も、お前の注文通りに用意してある。……しかしお前、あの爆破娘を相手にまた何かエグい仕掛けを打つ気か?』
「エグい? 滅相もない。ただの『適切な消化作業』だ」
通信を切り、俺は愛用の消音拳銃のメンテナンスを始めた。
爆発のエネルギーを逆手に取り、あいつ自身の爆風で自滅させるか。あるいは、光学迷彩と減圧ガスで爆発そのものを不発(不全)に追い込み、無防備になった喉元を撃ち抜くか。
大雑把な火力で街ごと吹き飛ばすような戦い方しか知らない魔族どもに、人間の作った冷徹な「爆発制御」の理論を叩き込んでやる。
「……待ってろよ、シャーロット」
そして、その準決勝の先で、冷酷な灼熱の殺意をみなぎらせて俺を待つ双子の兄、ルシアン。
あいつは今頃、俺がシャーロットの爆炎に呑み込まれて灰になるか、あるいは俺がどんな小細工でシャーロットを倒すかを、高みの見物と決め込んでいるはずだ。
「……オッズが何倍になろうが関係ない。回収して、次の兵器代にするだけだ」
静かな地下室に、銃の弾倉(マガジン)がカチリと装填される重厚な金属音が響き渡った。
「――私が勝ったら、貴方を私の好きにするわ」
コロシアムへと続く狭く暗い地下通路。すれ違いざま、甘い果実の香りと共に、耳元で吐き出された熱い吐息。
「……で、もし私が負けたら……私の『全て』をあげる」
シャーロットはクスクスと小悪魔のように笑うと、真っ赤な髪をなびかせて俺の横を通り抜けていった。その瞳には、予選での脳天気なゴシップ好きの顔ではなく、完全に獲物を前にした『爆殺の狂鬼』としての嗜虐的な光が宿っている。
俺は歩みを止めず、盛大に欠伸を噛み殺しながら、静かに首を横に振った。
(好きにする、ねぇ……。どいつもこいつも、試合前に妙な口約束(フラグ)を立てたがるのは魔族の病気なのか?)
セリスの妄想、エレナの理不尽な二択、ジャンの過激な嫉妬、そしてシャーロットのこの条件。
勝っても負けても俺の権利や選択肢がゴミ箱行きになるシステムは、いい加減にしてほしいものだ。俺が欲しいのは、そんな甘っちょろい条件でもヒロインどもの「全属性」でもない。
【準決勝・第一試合】
シャーロット・ヴァルカ(単勝:1.3倍)
vs
クロード・ヴァルネ(単勝:95.0倍)
掲示板に映し出された95倍というオッズ。
二回連続で下馬評を叩き潰したとはいえ、観客や胴元どもは「いくら不気味な暗殺術を使おうが、リングごと吹き飛ばすシャーロットの広域連爆からは逃げられない」と踏んでいるらしい。
「歓声がうるさいな……」
歓声とブーイングが入り交じる白銀のコロシアムへ足を踏み出しかけたその時、脇の影から冷気と共にセリスが姿を現した。
「……クロード。あいつの『爆破』は、今までの相手とは威力が違うわ。回避するスペースそのものを消し飛ばしてくる。……本気で死ぬわよ」
「セリス」
俺は立ち止まり、チラリと異母姉を見やった。
「お前、今回は俺の単勝にいくら賭けた?」
「な、なんですって……!? だから私は賭け事なんて――」
「ハンスから聞いたぞ。お前、前回のジャンの試合の時、こっそり俺の単勝に金を入れてただろ」
「〜〜っ!? あ、あの武器商人、余計なことを……ッ! 私がそんな真似をしたのは、アンタが負けてヴァルネ家の名を落とすのが腹立たしかったからで――!」
真っ赤になって取り乱すセリスを無視し、俺は外套の下で消音拳銃のグリップを握り直した。
「安心しろ。95倍の払戻金で、お前の懐も温かくなる。……シャーロットの爆風で自滅するのは、あいつ自身だ」
「……っ、バカクロード。絶対に生き残りなさいよ……!」
背後で悔しそうに叫ぶセリスの声を置き去りに、俺は大歓声が渦巻くリングの中央へと進み出た。
正面には、両手に眩い火花を散らしたシャーロットが、不敵な笑みを浮かべて立っている。
「準備はいい、クロード? 私の熱い爆炎で、貴方のその冷めた顔をドロドロに溶かしてあげる!」
「……手短に頼む。爆発の理屈を無視した大雑把な火炎(まほう)に、人間の作った『消火と減圧の科学』がどう働くか……見せてやる」
開戦を告げる大きな鐘の音が、コロシアムの空気を激しく振動させた。
コメント
1件
第28話、読み終えたよ……! シャーロットとの対決、めっちゃ楽しみ。爆破魔術vs科学の理論って、クロードらしい頭脳戦で熱いね。 「勝ったら好きにする」って賭けも、シャーロットの狂気っぽさと色気が混ざってて好き。セリスがこっそり賭けてた話も可愛かったな〜。 95倍のオッズ、覆す瞬間が待ち遠しいよ🥀