栄島時海(さかえじまときみ)は仕事をしながら沢山の動物の命を救ってきた。今飼っている四匹の猫と一匹の犬は時海が救った子たちなのだ。
秋のある夕べ。自宅で動物たちとスキンシップを取っていた時海の耳に子猫の鳴き声が聞こえてきた。ここらへんの猫はすべてTNR(トラップ・ニューター・リターン)をしており、何匹かは里親がいるはず。気になって時海は外へ出た。すると、空耳かと思った鳴き声は、より大きく、悲痛に聞こえてくる。
早くしなければ。
それだけを思って時海は探すことにした。夜目は長男の時松のほうがきくので、時海、時松、そして夫の朗松(ろうまつ)と探すことにした。この時期、とても寒いので保護する時間が物を言います。
翌日、捕獲器も使ってやっとのことで見つけ、保護した猫。キジトラ猫で人懐っこい子だった。目をくりくりさせて遊んで、構ってと言わんばかりに捕獲器のケージ越しに甘えてきます。生後一半月も経っていないと思われる、捨て猫だった。
とても小さく、「くるみ」と名をつけられた子猫は時海が保護した。毎回、保護猫たちの先輩となり、よき友、先生となってくれるのは「アクア」というラグドール。繁殖場から保護され、ズタボロだったのだ。そんなアクアはくるみに優しく接した。いつも毛づくろいをし、遊んでやり、くるみが尻尾を強めに噛んでも、怒ることはなかった。そして、色々なことをくるみの頭に教え込んだ。里親を募集した初日。なんと申し込みがあった。
申し込んでくれたのは小暮穂斗音(こぐれほとね)、小暮雅人(こぐれまさひと)、長男の小暮貫汰(こぐれかんた)、長女で貫汰の姉、小暮心(こぐれこころ)一家です。元野良猫の白茶猫、こはく、繁殖場から保護されたノルウェージャン・フォレスト・キャットのミンティ、同じく、同じ繁殖場から保護されたノルウェージャン・フォレスト・キャットのカルーラを飼っています。ただ、この先住猫が、くるみを受け入れないとトライアルは失敗ということになります。慣れる、慣れないの問題もあるため、トライアルは一ヶ月ということになりました。
トライアル、ミンティ、こはくはくるみを受け入れました。しかし、カルーラはなんと、くるみが大好きになったようで、ぺろぺろ毛づくろいしたり、遊んでやったり。くるみは時々、カルーラのご飯を横取りしたりしますが、ちょっと止めるだけて手荒なことはしません。
そのため、トライアルは無事終わり、正式譲渡となりました。
しかし、一家はあることを決め、約束していました。
それは先住猫だった三匹を優先すること。帰ってから話しかけるのは、三匹が最初。ご飯も、トイレの掃除もです。先住が寂しい思いにならないように、家族みんなで考えました。
くるみは、小暮一家に漢字をもらいました。「胡桃」です。名前はくるみのままですが、家族になった証として、胡桃という漢字を授けたのです。
くるみは、正式に小暮一家の家族になりました。
穂斗音さんはにこやかに笑って言います。
「三匹の時もそうでしたけど、くるみが来てまたもっともっと笑顔が増えました。本当に嬉しいです。動物を捨てたりするのは誰一人喜びません。でも、動物が楽しそうに暮らしていたらみんな喜びます。ちょっと笑顔が増えただけ。そうかもしれないけど、これが本当の『幸せ』って言うのかもしれませんね。」
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