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――僕は常々想っていた
トモダチと言うのは余りにも退屈で不要な存在だ。
所詮人と人を繋ぐだけの恋人以下の下位互換に過ぎない、契約書の無い暗黙の共犯者の様な関係
一言、たったそれだけで断ち切れる脆弱な糸
そんなものになんで皆縋るのだろう、と
「…とお考えなら僕の元に訪れるのも辞めるべきでは?」
「ん〜、ドス君は僕の特別なんだよ。きっと」
「そうですか」
目の前の彼は余りにも暇を持て余しているようだ、絶対に合っている自信がある問題の答えを見る必要は無い。彼は案の定関心を示さない。代わりに指先で紅茶の湯気と戯れては唇を尖らせている
「親友を大切にするのは当然だろう?下らなくても君に無性に会いたくなるのさ。」
私の唯一無二の共犯者と郊外の適当な喫茶店でこうして雑談している。天人五衰の任務の打ち合わせでもなく、自らお互いを選んで今ここに居る
「そういえば貴方、食べないんですか?それ」
「嗚呼…君と話すのが楽しくて忘れていたよ」
と言う割には彼は私には目もくれず、私も彼の葡萄色の瞳には目を合わせない。
まるで壁に対して話し掛けている様に彼は椅子に腰掛けて紅茶を啜るだけで私が一方的に疎らに言葉を投げつけているだけ、それでも私は確実に彼に特殊な感情を抱いていた。
それが彼が自分の親友という自覚だ。
「……冷めてしまいますよ。早くお食べなさい」
「君だって、紅茶が冷めてる。紅茶には口煩い癖に」
自分の時間を彼という溝に捨てると共に彼も私という溝に貴重な時間を捨てている。これを親友と言わず何と言うか私には分からなかった
「随分と私の事が大好きじゃないか。」
だからこそ、少し寂しかった。彼が私の”特別”になってしまったあまりに私は彼を殺さなければならない
この寂しささえも殺せない人間を簡単に見捨てて飛び去っていくのが自由というものだから
「そうですよ。僕は貴方を愛しています、だからこんなくだらないことにも付き合ってあげているんですよ」
「そりゃあ有り難いね」
僕は彼を殺す事で自由になる、彼は自由の証人だ
何事もなく夕焼けが沈み、また朝日が浮かび、くだらない映画を見ているような人生が幕を開ける
虐げられた人生だった。幼少の頃、親は僕に暴力を振るった。僕は悪魔に取り憑かれているやら適当な文句を垂れては理不尽に僕を痛めつけていた
窓の外に見える景色にずっと憧れていた。特に空を滑る鳥、何にも縛られず虐げられず。謳歌する姿を憧憬していた
「ねぇ、ドス君。僕達にも最期が来てしまったね」
僕は退屈そうな彼を掌握していた。華奢な彼の上に馬乗りになってしまえば彼は身動きができない
もう、彼の命は僕の中にあった
「これでやっと自由だ」
喉の奥から響き渡る甘美な悲鳴、濁点を挟まぬ母音だけの啼泣の様な情け無い声
その出処は彼ではなく僕だった
確かに彼は僕の手の中にいた。僕は彼を撃とうとしていた、しかし血反吐を吐いてのたうち回っているのは僕で彼は僕を尻目に嗤っている
三つ編みを強く引っ張り彼は僕の目線を自分に合わせた
そして、恋人みたいに甘いキスをして、退屈で不要な物を捨てたあとかのように平然としていた