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俺と勇斗は恋人だ。
毎朝、彼の優しい笑顔で目が覚める。そんな幸せな日常が、これからもずっと続いていくと信じていた。
――あの日までは。
それなのに、あの日を境に、その幸せはあっさりと消え去った。
勇斗がドラマの収録で家を空けていて、俺が家で留守番をしていた日のことだった。
「勇斗の好きな料理を作ったら喜んでくれるかな」
「明日は二人ともオフだし、どこかデートにでも行こうかな」
そんなことを考えながら、夕飯の準備をしていた。
その時、突然スマホが鳴った。
画面に表示された名前は、柔太朗だった。
「え、な――」
山中「仁ちゃん!!!!」
電話に出た瞬間、柔太朗の切羽詰まった声が耳に飛び込んできた。
山中「さっき! 勇ちゃんがッ……事故にあって……! 今、○○病院に搬送されたらしくて……! 急いで来てッ!!」
「……は?」
頭が真っ白になった。
なんで。どうして。
勇斗が事故に遭ったなんて、信じられない。
どうして勇斗が、そんな目に遭わなきゃいけないんだ?
「……早く、行かなきゃ……」
震える手で荷物を掴み、家を飛び出した。
――勇斗が、無事でありますように。
そう何度も心の中で願いながら、病院へ向かった。
医師から聞いた話によると、勇斗の命に別状はないらしい。
その言葉を聞いて、ひとまず胸を撫で下ろした。
回復が早ければ、あと数日もすれば目を覚ますだろう、と。
「よかった……」
勇斗が起きたら、美味しいご飯を食べさせてあげよう。
できなかったデートだって、その時にすればいい。
そう思えば、少しだけ前を向ける気がした。
けれど、やっぱり勇斗のことが心配で、その日からの仕事にはあまり身が入らなかった。
プロなら、どんな時でも最高の状態でファンの方に見てもらわなきゃいけない。
分かっているのに、どうしても気持ちが追いつかなかった。
「……俺、まだまだだな」
こんな時でも、勇斗ならもっと上手くやるんだろうな。
そんなことばかり考えてしまった。
そして、数日後。
山中「仁ちゃん! やっと来た!! 勇ちゃん、目覚めたんだよ!」
「……え?」
山中「ちゃんと話もできたし、リハビリをしていったら活動もちゃんと再開できるって!」
「……よかった……」
まだ勇斗と話せる。
また、歌って踊ってる、一番かっこいい勇斗を見ることができる。
それだけで、胸の奥から込み上げてくるものがあった。
曽野「ほんまは恋人の仁ちゃんに一番最初に会ってほしかったんやけど、俺らの方が早く仕事終わったから、もう会っちゃった! ごめんなぁ」
「全然いいよ。勇斗が元気そうって知れて、よかった……」
塩﨑「けど、吉田さんが来るってこと、勇ちゃんにも言ってへんからドッキリできるで!! 勇ちゃん、めっちゃ喜ぶんちゃう?」
「そぉーか? 喜んでくれたら嬉しいけどなぁ……」
山中「もー、ほら! 早く行きな! さっきは三人で行ったから、勇ちゃんも仁ちゃんに早く会いたいって思ってると思うし!」
「おぉ、そーするわ!」
少しだけ緊張しながら、俺は勇斗の病室へ向かった。
そして、ゆっくりと扉を開ける。
「………勇斗。その……久しぶり……」
ベッドに横たわる勇斗を見つめる。
「俺、勇斗が無事で本当に良かった……」
すると、勇斗が不思議そうな顔をした。
佐野「あ、あの……誰ですか?」
「……は?」
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自分夢の中
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#ご本人様には関係ありません
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一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「……おれのこと、覚えてねぇの?」
声が震える。
「柔太朗と太智と舜太のことは覚えてるのに……?」
佐野「……三人のこと知ってるってことは、三人の友達ですか?」
「お……れは……M!LK……の、リーダーで……吉田仁人って……」
自分の名前を口にすることすら、怖くなっていた。
佐野「……え?」
勇斗が眉を寄せる。
佐野「M!LKは四人ですよ? リーダーは俺だし……」
――その瞬間。
胸の奥が、ぐしゃっと潰れたような気がした。
大好きな勇斗に、忘れられた。
それだけじゃない。
「M!LKは四人」
そう言われたことが、どうしようもなく苦しかった。
気づけば、俺はその場から逃げ出していた。
「……柔太朗に、連絡……しとこうかな」
震える手でスマホを取り出す。
(もう帰った笑、三人が勇斗の傍に居てやって)
送信。
その瞬間、なぜか涙が止まらなくなった。
「……なんで……」
どうしよう。
早く止めなきゃ。
感情的な自分なんて、誰も求めてない。
いつでも冷静な俺でいなきゃいけないのに。
勇斗は悪くない。
そんなこと、分かってる。
分かってるのに――
「……なんで、俺のこと忘れるんだよ……」
叫びたかった。
もしかしたら、勇斗は本当は俺のことを忘れたいくらい嫌いだったんじゃないか。
そんな考えまで浮かんできて、さらに涙が溢れた。
どうしよう。
このまま上手くM!LKを続けるには――
俺がM!LKを抜けるべきなんだよな。
三人になんて言えばいいんだろう。
「……まだ、M!LKでいたかったな」
その言葉を呟いた瞬間。
ピンポーン。
「……っ」
こんな時にインターホンが鳴った。
今は、誰とも会いたくない。
「……はーい。今出ます」
重たい足取りで玄関へ向かい、扉を開ける。
塩﨑「吉田さん!!!」
「ッ……え、? 太智? なんでここに……」
塩﨑「柔ちゃんに、吉田さんが帰るって連絡来たって教えてもらって……なんでやろって思って、佐野さんに聞いてみたら……」
一度言葉を詰まらせる。
塩﨑「『吉田仁人って誰?』って言われて……」
「……」
塩﨑「吉田さんが心配で……すぐ駆けつけた!」
塩﨑「柔ちゃんとか舜ちゃんよりも、同期の俺の方が話しやすいかなとも思ったし……」
「ッ……だ、いち……」
声が震える。
もう、耐えられなかった。
「泣ッ……おれ、どぉしよ……」
声が途切れて、涙が頬を伝っていく。
「はやとに忘れられて……不安で……みるくだって、辞めなきゃいけないのかもって……もう、わかんなくて……っ」
涙を拭おうとしても、次から次へと溢れてくる。
「はやとが悪いわけじゃないのに……なのに、おれ……はやとに対して怒ってて……っ」
「こんなの……おれ、最低じゃん……」
「……やだ……泣、止まんない……」
そんな仁人を見て、太智の表情も歪んだ
。
塩﨑「ッ……そんなん、みんな思うに決まってるやん……!!」
塩﨑「俺やって、許されへんもん!!!!」
塩﨑「勝手に吉田さんのこと忘れた勇ちゃんのことなんか……っ、許せるわけないやろ!!!」
太智の声も震えていた。
塩﨑「それに……M!LK辞めるなんて、もう言わんといて……っ」
仁人が顔を上げる。
塩﨑「仁人が居るからこそ、今のM!LKがあるんよ?」
塩﨑「やから……やからさ……」
一度、涙を堪えるように息を吸う。
塩﨑「みんなで頑張って、勇ちゃんの記憶……戻そうや……」
塩﨑「お願いやから……勝手に一人で諦めんといてよ……」
「……っ、そんなこと……簡単に言うなよ……」
俯いたまま、仁人の声が小さく震える。
「俺だって……勇斗が忘れたくて忘れたわけじゃないって分かってる……」
ゆっくりと顔を上げる。
「……怖かったんだ」
「このまま勇斗が、何も思い出せなかったら……俺たち、どうしたらいいんだろうって……」
言葉に詰まり、唇を噛む。
しばらくの沈黙のあと、仁人は小さく息を吐いた。
「でも……太智がそこまで言ってくれるなら……」
「……俺も、もう一回……信じてみてもいいのかな」
涙で濡れた目で、太智を見る。
「みんなで頑張ったら……勇斗、思い出してくれるかな……」
塩﨑「……うん。思い出すに決まっとる」
太智は、迷うことなくそう言った。
塩﨑「だって勇ちゃんやもん。俺らのことだって覚えてたんやろ? だったら、仁人のことだけ思い出せへんなんてこと、絶対ないって」
「……太智……」
塩﨑「それに、俺ら五人でM!LKやろ?」
その言葉に、仁人の胸が締めつけられる。
――五人。
さっき勇斗が否定した言葉。
本当なら、何よりも嬉しいはずなのに。
今はその言葉を聞くだけで、涙が出そうになる。
「……うん」
小さく頷く。
「……俺、もう一回頑張ってみる」
塩﨑「……おう!」
太智が嬉しそうに笑った。
塩﨑「ほんなら、病院戻ろ!」
「……え、今?」
塩﨑「当たり前やん! 勇ちゃん、仁人が帰ったって知ったら絶対気にするって!」
「……でも……」
さっきの勇斗の顔が頭に浮かぶ。
『あの……誰ですか?』
胸がまたズキッと痛んだ。
塩﨑「怖い?」
「……まぁ……うん」
正直に答える。
「……また、知らない人を見るみたいな目されたらって思うと……怖い」
太智は少し黙ったあと、優しく笑った。
塩﨑「じゃあ、俺も一緒に行く」
「……え?」
塩﨑「一人で行かんでええよ。俺が隣におるから」
「……っ」
また、涙が溢れそうになる。
「……ありがと」
塩﨑「泣くなって! また俺まで泣きそうになるやん!」
「……太智も泣いてんじゃん」
塩﨑「これは……汗!」
「ふふ……何それ」
久しぶりに、少しだけ笑えた。
それだけで、ほんの少しだけ胸が軽くなった。
二人で病院へ向かう。
まだ怖い。
まだ苦しい。
それでも――
もう一度だけ、勇斗を信じてみようと思った。
そして病室の前に着く。
「……太智」
塩﨑「ん?」
「……俺、ちゃんと笑えてる?」
塩﨑「……うん。大丈夫」
「……そっか」
深く息を吸う。
そして、ゆっくりと三人がいる病室の扉を開けた。
佐野「……あ」
勇斗と目が合う。
ほんの一瞬、身体が固まった。
さっきと同じ目。
俺のことを知らない人を見るような目。
それでも――今度は逃げなかった。
「……勇斗」
佐野「……吉田、さん」
名前を呼ばれただけなのに、胸が苦しくなる。
それでも、俺は笑った。
「うん。そうだよ」
塩﨑「ほら、勇ちゃん。仁人戻ってきたで」
佐野「……」
勇斗は少し困ったような顔をして、俺を見る。
佐野「……さっきは、ごめんなさい」
「……ッえ?」
佐野「俺……吉田さんのこと、知らないって言って……」
「……ああ」
佐野「傷つけた、よね」
「……」
本当は、傷ついたなんて言葉じゃ足りなかった。
大好きな人に忘れられる。
自分が今まで一緒に過ごしてきた時間そのものを否定されたような気がした。
でも――
「……勇斗は悪くないって」
そう言って笑った。
「事故のせいなんだから」
佐野「……ありがとう」
太智が俺の肩を軽く叩く。
塩﨑「俺ら、ちょっと飲み物買ってくるわ」
「え?」
塩﨑「な?」
山中「うんうん。俺らが居ない方が話しやすいでしょ?」
曽野「じゃあ、行ってくるな!」
吉田「ちょ、待っ――」
三人は俺が止める間もなく病室を出ていった。
扉が閉まる。
病室に、二人きり。
気まずい沈黙が流れた。
「……」
佐野「……」
何を話せばいい。
今までなら、こんな沈黙なんて気にしたこともなかった。
一緒にいるだけで安心できた。
なのに今は――
勇斗の隣にいることさえ、少し怖い。
佐野「……吉田さん」
「ん?」
佐野「俺たちって……その……」
勇斗が言葉を探すように、少し俯く。
佐野「どういう関係だったんですか?」
心臓が跳ねた。
「……」
言っていいのだろうか。
『 恋人だった』
そう言えばいいだけなのに。
喉が詰まる。
「……大切な友達だったよ」
佐野「……友達?」
「うん」
嘘をついた。
いや。
今の勇斗にとっては、本当にそうなのかもしれない。
佐野「……なんか」
勇斗が俺を見る。
佐野「友達って感じじゃないんですよね」
「……え?」
佐野「吉田さんを見てると……なんか、変な感じがする」
「……変?」
佐野「安心するっていうか……」
その言葉に、胸が締め付けられた。
佐野「初めて会ったはずなのに……ずっと前から知ってるような気がするんです」
「……」
涙が出そうになる。
慌てて顔を逸らした。
「……そっか」
佐野「……泣いてます?」
「泣いてない」
佐野「いや、泣いてるじゃないですか」
「これは……」
何か言い訳を探す。
けれど、何も出てこなかった。
佐野「……ごめんなさい」
「謝らなくていいって」
佐野「でも……」
「勇斗が謝ることじゃないよ」
そう言いながら、笑う。
「俺が勝手に嬉しくなってるだけだから」
佐野「……嬉しい?」
「うん」
少しだけ勇斗の顔を見る。
「勇斗が、俺のことを少しでも知ってるみたいに感じてくれたことが……嬉しい」
勇斗はしばらく黙っていた。
そして、小さく笑った。
佐野「……じゃあ」
「ん?」
佐野「これから、少しずつ教えてください」
「……何を?」
佐野「俺と吉田さんが、どんな関係だったのか」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。
「……うん」
「いっぱい教える」
それから数日。
俺は仕事の合間に毎日のように病院へ通った。
勇斗に無理をさせないように、昔のことを少しずつ話した。
初めて二人でご飯を食べた日のこと。
仕事終わりに二人でコンビニに寄ったこと。
くだらないことで喧嘩したこと。
一緒にテレビを見ながら笑ったこと。
勇斗が好きな料理。
苦手なもの。
寝起きが悪いこと。
そして――
俺たちが恋人だったこと。
それだけは、まだ伝えられなかった。
言ってしまったら、勇斗を困らせてしまう気がしたから。
ある日のこと。
勇斗がリハビリを終えて病室へ戻ってきた。
佐野「……疲れた」
「お疲れ様」
佐野「仁人……」
「……え?」
思わず聞き返した。
勇斗自身も驚いたような顔をしている。
佐野「……あ」
「今……」
佐野「……なんで俺、仁人って呼んだんだろ」
胸が高鳴る。
「……」
佐野「ごめん。変だよね」
「……いや」
首を横に振る。
「変じゃないよ」
佐野「……」
「むしろ、嬉しい」
笑おうとした。
でも、目の奥が熱くなっていく。
「……すごく嬉しい」
勇斗はそんな俺を見て、少しだけ笑った。
佐野「じゃあ……仁人って呼んでもいい?」
「……うん」
佐野「そっか」
勇斗が笑う。
その笑顔は、俺がずっと大好きだった笑顔と同じだった。
それだけで、十分だった。
その日の帰り。
太智たちと病院の廊下を歩いていると、太智が突然俺の肩を掴んだ。
塩﨑「よっしー!」
「ん?」
塩﨑「今日、なんかあった?」
「……なんで?」
塩﨑「顔が違う」
「……そう?」
塩﨑「うん」
太智が嬉しそうに笑う。
塩﨑「ちょっとだけ、前の仁人に戻った気がする」
「……」
その言葉に、俺も小さく笑った。
「……勇斗がさ」
塩﨑「うん」
「俺のこと、『仁人』って呼んだんだ」
塩﨑「……え?」
「たまたまかもしれないけど」
塩﨑「……いや、それでも十分やろ」
「うん」
俺は病室の方を振り返った。
「……俺、待ってみようと思う」
塩﨑「うん」
「勇斗が思い出すまで」
塩﨑「……うん」
「急かさずに、もう一回、俺たちの時間を作っていく」
太智が何も言わず、俺の肩を抱いた。
その温かさに、少しだけ安心する。
まだ、勇斗は俺を覚えていない。
俺たちが恋人だったことも。
一緒に過ごした時間も。
全部、忘れてしまっている。
それでも――
今日、勇斗は俺を「仁人」と呼んだ。
それだけで、もう一度信じてみようと思えた。
――いつかきっと。
あの優しい笑顔で、俺の名前を呼んでくれる日が来る。
そう信じて、俺はまた歩き出した。
コメント
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読ませていただきました……胸がぎゅっとなりました。最初の幸せな日常の描写が温かかったからこそ、事故の知らせで一気に崩れる感じが切なくて。特に「M!LKは四人」って言われた瞬間の仁人さんの心情、ぐしゃっと潰れる表現が本当にリアルで、読んでるこっちまで苦しくなりました。でも太智が駆けつけて「一緒に行く」って言ってくれるシーンで、じんわり温かくなりました。最後に勇斗が「仁人」って呼んだ瞬間、もう涙腺が……。まだ始まったばかりですが、この先の二人のやり取りがすごく気になります。素敵なお話をありがとうございます。