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ショコラ🐤
68
#キャラ崩壊注意
stpr 緑赤 様
誤字脱字注意
日本語おかしい
第2話 思い出せない気持ち
再会してから、一週間。
こえは、スマートフォンを眺めていた。
画面に表示されているのは、ひとつの名前。
『如月ゆう』
あの日から、ゆうとは何度かメッセージを交わしていた。
といっても、内容はいたって普通だった。
『大学どう?』
『今日は講義が長かったです』
『お疲れさま。ちゃんとご飯食べた?』
『食べました』
『えらい』
そんなやり取り。
たったそれだけなのに。
こえは、ゆうからメッセージが来るたびに少し嬉しくなった。
「……何してんだ、俺」
ベッドに寝転びながら、こえはスマートフォンを胸の上に置く。
大学三年生。
もう子どもじゃない。
なのに、ゆうから「えらい」と言われるだけで、どうしてこんなに胸が暖かくなるのか。
自分でもよく分からなかった。
そして、もうひとつ。
最近、昔の夢を見る。
保育園。
小さな自分。
そして、ゆう。
『こえくん、おいで』
『……や』
『どうして?』
『……みんな、こわい』
『そっか』
そこで、ゆうが手を差し出す。
『じゃあ、先生と一緒にいようか』
小さな自分は、泣きながらその手を握る。
その記憶を見るたびに。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
「……何だったんだろ」
こえは目を閉じた。
すると、また別の記憶が浮かんだ。
雨の日。
園庭で遊べなくて、みんなで部屋の中にいた日。
他の子どもたちが楽しそうに遊んでいる中。
小さなこえだけが、窓のそばに座っていた。
『こえくん、どうしたの?』
『……つまんない』
『じゃあ先生と遊ぶ?』
『……いい』
『ふふ、そっか』
ゆうは隣に座ってくれた。
何も言わずに。
ただ、一緒に窓の外を見ていた。
それだけの記憶。
でも。
小さなこえは、その時間が大好きだった。
「……」
こえは目を開ける。
「好き……?」
その言葉が、頭に引っかかった。
誰が?
何を?
――ゆうを。
そんな考えが浮かんで。
「……っ」
こえは慌てて首を振った。
「違う、違うだろ」
子どもの頃の「好き」。
先生が好き。
優しい先生が好き。
それだけ。
きっと、そうだ。
そう思おうとした。
けれど。
胸の奥は、なぜか納得してくれなかった。
*
「こえくん」
「……はい?」
数日後。
大学帰りに立ち寄ったカフェで、ゆうと向かい合っていた。
再会してから二度目の食事。
ゆうが誘ってくれたのだ。
「この前話してた保育園の写真、持ってきたよ」
「写真?」
「うん。昔のアルバムを整理してたら、こえくんが写ってるのがあって」
「えっ」
ゆうがスマートフォンを差し出す。
画面には、保育園の集合写真。
その中に。
小さなこえがいた。
髪は今よりずっと短くて。
頬は丸くて。
少しだけ不安そうな顔をしている。
「……これ、俺?」
「そう」
「ちっちゃ……」
「かわいいでしょ」
「……」
こえは黙り込んだ。
「どうしたの?」
「……恥ずかしいです」
「そう?」
「こんなの見せないでください……」
頬が熱くなる。
ゆうは楽しそうに笑った。
「でも、こえくんらしいよ」
「今の俺と、どこがですか」
「泣きそうな顔」
「泣いてません」
「昔もよくそう言ってた」
「……」
「『泣いてない』って言いながら、目にいっぱい涙ためて」
「やめてください……」
こえは顔を伏せる。
ゆうは笑っていた。
その笑い方が優しくて。
こえは、なぜか安心した。
すると。
「そういえば」
ゆうが写真を拡大する。
「この頃、僕の後ろから離れなかったんだよね」
「……本当に?」
「本当」
「なんで?」
「さあ」
ゆうは少し考える。
「こえくん、知らない人が苦手だったからかな」
「……」
「でも、僕のところにはすぐ来た」
「……そうなんだ」
「うん」
ゆうが笑う。
「『ゆうせんせー』って呼んで、袖を掴んでた」
「……」
その瞬間。
また記憶が蘇った。
『ゆうせんせー』
『なあに?』
『……あのね』
『うん』
『せんせーのおよめさんになる』
「――っ!」
こえは思わず顔を上げた。
「どうしたの?」
「……なんでもないです」
心臓がうるさい。
今のは何だ。
自分は、何を言った?
幼い自分が。
ゆうに。
何を。
「こえくん?」
「……昔の俺、変なこと言ってませんでした?」
「変なこと?」
「その……」
言えるわけがない。
先生のお嫁さんになる。
そんなこと。
「……なんでもないです」
「ふふ」
ゆうはそれ以上聞かなかった。
けれど。
「こえくんは、昔から優しい子だったよ」
「……僕が?」
「うん」
「全然覚えてないです」
「先生は覚えてるよ」
ゆうは穏やかに笑った。
「こえくんが泣いてる子にティッシュ渡してあげてたこととか」
「……」
「転んだ子を心配して、先生に教えてくれたこととか」
「そんなの……」
「僕はちゃんと覚えてる」
その言葉に。
こえは胸がいっぱいになった。
自分が忘れていたことを。
ゆうは覚えていてくれた。
それが、嬉しかった。
*
店を出たあと。
二人は駅まで歩いた。
夕方の街は、人が多い。
こえはゆうの隣を歩きながら、何度も横顔を見ていた。
「……どうしたの?」
「え?」
「さっきから僕のこと見てる」
「……見てません」
「そう?」
「……はい」
嘘だった。
見ていた。
何度も。
ゆうは昔と変わらない。
優しい。
穏やかで。
誰に対しても親切で。
だからきっと。
自分だけが特別なわけじゃない。
「……ゆうさん」
「ん?」
「ゆうさんって、今、恋人いますか?」
聞いてしまった。
言った瞬間、こえは後悔した。
「え?」
「いや、その……」
ゆうが少し驚いた顔をする。
「いないよ」
「……そうなんですか」
「うん」
「……」
「どうして?」
「なんとなく……」
こえは目を逸らした。
「聞いてみただけです」
「そっか」
ゆうはそれ以上聞かなかった。
少し歩いて。
駅前に着く。
「じゃあ、またね」
「……はい」
ゆうが手を振る。
こえも手を振り返した。
そして。
「こえくん」
「?」
「次の休み、時間ある?」
「あります」
「じゃあ、また会おうか」
「……!」
「嫌じゃなければ」
「嫌じゃないです」
即答だった。
ゆうが笑う。
「じゃあ決まり」
「……はい」
その瞬間。
こえの胸は、また大きく鳴った。
*
帰宅すると。
家の中は静かだった。
「……ただいま」
返事はない。
こえは靴を脱ぎ、自分の部屋へ向かう。
親とは、昔からあまり仲がよくない。
必要な会話しかしない。
今日も誰とも顔を合わせることなく、部屋へ入った。
スマートフォンを取り出す。
ゆうとのトーク画面。
さっきまでの会話。
そして。
『次の休み、時間ある?』
その一文を見るだけで、嬉しくなる。
「……俺」
こえはベッドに座った。
「ゆうさんのこと……」
好きなのか。
そう思った瞬間。
顔が熱くなった。
「……ないない」
昔の先生だ。
自分にとっては、ずっと「ゆうせんせー」だった人。
そんな人を。
今さら。
恋愛対象として見るなんて。
ありえない。
そう思うのに。
翌日。
大学の講義中。
ノートの端に、無意識に書いてしまった。
『如月ゆう』
「…………」
こえは慌てて消した。
けれど。
消した文字の跡を見つめながら。
小さく呟く。
「……会いたい」
その言葉が自分の口から出たことに。
こえ自身が一番驚いていた。
*
一方。
ゆうもまた、帰宅後に昔のアルバムを開いていた。
ページをめくる。
小さな子どもたち。
その中に、こえがいる。
泣きそうな顔で。
自分の服を掴んでいる。
「……こえくん」
ゆうは懐かしそうに笑った。
再会できて嬉しかった。
大きくなったこえを見て。
元気そうで安心した。
それだけ。
少なくとも、今は。
ゆうにとって。
こえは、昔の教え子だった。
大切な。
可愛い教え子。
それ以上ではない。
――そのはずだった。
けれど。
写真の中の小さなこえを見つめているうちに。
ゆうは、ふと気づく。
「……次の休み、どこに連れていこうかな」
自然とそんなことを考えていた。
そして。
自分でも気づかないほど小さく。
「楽しみだな」
そう呟いた。
まだ二人とも。
この再会が。
忘れていた初恋をもう一度動かし始めていることを。
知らなかった。
コメント
1件
第2話、読み終えました!「思い出せない気持ち」というタイトルがじわじわ効いてくる回でしたね。ゆうとのやりとりに少しずつ嬉しくなるこえの心の揺れ方が繊細で…「えらい」と言われただけで胸が暖かくなる感覚、すごく伝わってきました。あと、ノートに「如月ゆう」って書いて慌てて消すシーン、最初の恋の訪れってこういう些細な瞬間に訪れるんだなあと。ゆうの方も無意識に「楽しみだな」と呟いていて、二人の無自覚な距離の縮まり方が丁寧に描かれていて好きです。次が待ち遠しい!