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ショコラ🐤
68
#キャラ崩壊注意
stpr 緑赤 様
誤字脱字注意
日本語おかしい
第3話 今の俺が好きなのは
休日の朝。
こえは、鏡の前で三度目の着替えをしていた。
「……これでいいかな」
白いシャツ。
淡い色のカーディガン。
少しだけ整えた髪。
鏡に映る自分を見つめる。
今日は、ゆうと出かける日。
ただそれだけ。
それだけなのに。
「……なんでこんな緊張してるんだよ」
大学の友達と遊ぶときなら、こんなに服装を気にしたりしない。
けれど今日は違う。
ゆうに会う。
そのことを考えるだけで、胸がそわそわする。
スマートフォンを見る。
『駅に着いたよ』
ゆうからのメッセージ。
「……っ」
こえは慌てて靴を履いた。
『今行きます!』
送信。
*
「こえくん」
駅前。
ゆうはすぐに見つかった。
「おはよう」
「……おはようございます」
「今日はちょっと遠くまで行こうか」
「どこですか?」
「秘密」
「秘密?」
「うん」
そう言って笑う。
その笑顔を見た瞬間。
こえはまた、昔の記憶を思い出した。
『ゆうせんせー、どこいくの?』
『秘密』
『ひみつ?』
『うん。こえくんには内緒』
『……やだ』
『ふふ、じゃあ教えてあげようかな』
小さな自分が笑っている。
その隣には、若い頃のゆう。
「……」
「こえくん?」
「え?」
「ぼーっとしてたけど、大丈夫?」
「……はい」
こえは慌てて笑った。
「大丈夫です」
「そっか」
ゆうは何も聞かなかった。
ただ、こえの歩く速度に合わせて歩いてくれる。
そのことが。
昔と同じだった。
*
二人がやってきたのは、水族館だった。
「わあ……」
こえの目が輝く。
「好きそうだと思って」
「……覚えてたんですか?」
「昔、魚の絵ばっかり描いてたから」
「そんなことまで?」
「先生、意外と覚えてるんだよ」
こえは照れながら笑った。
「……ありがとうございます」
「うん」
館内に入る。
大きな水槽の前。
青い光に照らされながら、二人で魚を眺める。
「綺麗……」
「ね」
こえは夢中になっていた。
ゆうはそんなこえを横から見ている。
楽しそうに笑う顔。
少し驚いたときに丸くなる目。
昔の面影がある。
でも。
昔とは違う。
当然だ。
あの小さかった子は、もういない。
今隣にいるのは、大人になったこえだ。
「……こえくん」
「はい?」
「写真撮ろうか?」
「え?」
「水族館来た記念に」
「……二人で?」
「うん」
「……」
こえは一瞬固まった。
「嫌だった?」
「違います!」
慌てて否定する。
「……嬉しいです」
「そっか」
ゆうがスマートフォンを取り出す。
並んで写真を撮る。
画面を見る。
二人の顔が近い。
「……」
こえの頬が赤くなる。
「どうしたの?」
「なんでもないです」
「また?」
「……はい」
ゆうが笑う。
「こえくん、昔から照れ屋だったよね」
「……昔からですか」
「うん」
「じゃあ、今も変わってないんですね」
「そうだね」
その言葉が。
なぜか嬉しかった。
*
昼食を食べて。
館内をゆっくり回って。
気づけば夕方になっていた。
「疲れた?」
「ちょっとだけ」
「じゃあ、休もうか」
二人はベンチに座った。
こえは隣に座るゆうを見る。
横顔。
長い睫毛。
優しそうな目。
昔と同じ。
だけど。
昔よりずっと近く感じる。
「……ゆうさん」
「ん?」
「僕のこと、本当に覚えてたんですね」
「もちろん」
「どうして?」
「どうしてって?」
「僕、そんなに目立つ子じゃなかったと思うから」
「そんなことないよ」
ゆうは少し笑った。
「こえくんは、よく僕のところに来てくれたから」
「……」
「泣いてるときも」
「……」
「嬉しいときも」
「……」
「何もないときも」
ゆうがこえを見る。
「いつも、僕のところに来てた」
胸が痛い。
こえは俯いた。
「……僕」
「うん?」
「ゆうさんのこと、大好きだったんですね」
ゆうが少し驚く。
「昔のこえくんはね」
「……」
「たぶん、大好きだったんじゃないかな」
「……そうですよね」
こえは小さく笑った。
「僕も、そう思います」
けれど。
そのあと。
こえは少しだけ眉を下げた。
「でも……」
「?」
「今の僕が、ゆうさんのことを好きなのかは……分からないです」
ゆうは黙っていた。
こえは自分でも驚いていた。
こんなことを本人に言うつもりなんてなかった。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいよ」
ゆうの声は穏やかだった。
「気持ちは、無理に決めるものじゃないから」
「……はい」
「ゆっくりでいいと思うよ」
その言葉に。
こえは少し安心した。
*
帰り道。
駅まで歩いていると、雨が降り始めた。
「あ……」
「傘、持ってる?」
「……持ってないです」
「僕も」
「えっ」
二人で空を見上げる。
「困ったね」
「……どうしましょう」
雨は少しずつ強くなっていく。
「駅まで走る?」
「無理です」
「じゃあ、待とうか」
二人は駅前の屋根の下に避難した。
こえは濡れた髪を手で整える。
「……寒い」
「大丈夫?」
「はい」
ゆうが自分のハンカチを取り出した。
「これ使って」
「でも……」
「いいから」
「……ありがとうございます」
こえはハンカチを受け取った。
その瞬間。
指先が触れた。
「……っ」
こえが固まる。
ゆうも、一瞬だけ動きを止めた。
「……ごめん」
「い、いえ」
二人とも目を逸らす。
妙な沈黙。
こえの心臓は、さっきからずっと騒がしい。
――昔とは違う。
今感じているこの緊張は。
子どもの頃の「先生が好き」とは違う。
もっと近くにいてほしい。
もっと自分を見てほしい。
他の誰かと楽しそうにしているのを見ると、嫌だと思う。
そして。
今日撮った写真を。
何度も見返したくなる。
「……」
こえは自分のスマートフォンを見る。
さっき撮った二人の写真。
ゆうの隣にいる自分。
その写真を見つめて。
ようやく気づいた。
「……俺」
「こえくん?」
「……」
ゆうを見る。
優しい目。
穏やかな声。
昔から変わらない。
でも。
今、目の前にいるのは。
自分を守ってくれる「ゆうせんせー」ではなく。
自分より少し年上の、一人の男性。
その人を。
自分は――。
「……好き、なのかも」
小さく呟いた。
「え?」
「……なんでもないです!」
聞こえていなかったらしい。
こえはほっとした。
けれど。
胸の中では。
もう、誤魔化せなかった。
*
その夜。
こえは布団の中で、昼間の写真を見ていた。
そして。
昔の記憶を思い出す。
小さな自分。
ゆうせんせーの後ろに隠れて。
服の裾を掴んで。
『せんせー』
『どうしたの?』
『……ずっと、いっしょにいて』
『うん』
『ほんと?』
『本当だよ』
『……だいすき』
昔の自分は。
確かにゆうが好きだった。
でも。
今の自分が好きなのは。
保育園の先生としてのゆうだけじゃない。
優しくて。
穏やかで。
自分のことを大切にしてくれる。
今の。
如月ゆうという人。
「……好き」
口に出してみる。
顔が熱くなる。
「……やっぱり好きだ」
認めてしまうと。
少しだけ怖くなった。
だって。
ゆうにとって自分は。
今でもきっと。
――昔の教え子だから。
*
同じ頃。
ゆうは自宅で、今日撮った写真を見ていた。
二人で写った写真。
こえが嬉しそうに笑っている。
「……」
ゆうは画面を閉じた。
そして、また開く。
もう一度見る。
「……何してるんだろ」
自分でもよく分からなかった。
今日一日。
こえが楽しそうにしているのが嬉しかった。
もっと笑わせたいと思った。
もっと一緒にいたいと思った。
そして。
雨宿りをしていたとき。
指先が触れた瞬間。
ほんの少しだけ。
名残惜しいと思った。
「……こえくん」
名前を呼ぶ。
返事はない。
当然だ。
ここにはいないのだから。
それなのに。
ゆうの胸には。
小さな違和感が残っていた。
それはまだ。
恋と呼ぶには小さすぎて。
けれど。
ただの「昔の教え子」への感情として片付けるには。
少しだけ大きかった。
*
翌朝。
こえのスマートフォンが震える。
『昨日は楽しかったね。また遊びに行こう』
ゆうからだった。
こえは、そのメッセージを見て。
しばらく悩んだあと。
『はい。僕も、また会いたいです』
と送った。
送信した直後。
恥ずかしくなって、スマートフォンを伏せる。
けれど。
数秒後。
『うん。僕も会いたいよ』
返信が届いた。
「……っ」
こえは枕に顔を埋めた。
まだ。
ゆうの気持ちは分からない。
それでも。
もう一度会いたい。
もっと近くにいたい。
その気持ちだけは。
はっきりしていた。
コメント
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卯月めあ先生、第3話読ませていただきました…! 水族館デート、すごくドキドキしました…。こえくんが写真で赤くなるところとか、雨宿りで指が触れた瞬間の間、全部が甘くて切なかったです。 「今の俺が好きなのか分からない」って正直に言えるの、こえくんの誠実さが出てて好きです。 ゆうさんも小さな違和感を抱えてるのが…この先どうなるんだろう。続き、心待ちにしてます🌙