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鼻血が止まらない。
視界がゆらゆらと揺れて、世界の輪郭が溶けていく。
床に膝をついた俺の肩を、誰かが強く揺さぶった。
「おい! 元貴! しっかりしろ!」
若井の声だ。耳の奥で反響して、現実感が薄い。
冷たい布が鼻に押し当てられる。
若井は震える手で俺の顔を支えながら、口元まで真っ赤に染まったタオルを何度も替えた。
キッチンから氷を持ってきて、額と首筋に押し当てる。
「意識飛ばすな! 飲め!」
紙コップを口に押し付けられ、冷たい水が喉を滑り落ちていく。
気管に少し入り、むせながら咳をすると、若井が背中をさすってくれた。
数分後、呼吸が少しずつ落ち着いてきた。
鼻血も止まり、視界の端にあった暗い影が薄れていく。
「……助かったな」
安堵したように笑う若井の額には、びっしょり汗が滲んでいた。
でも俺は、その笑顔を見ながらも分かっていた。
これは一時しのぎでしかない。
俺の中の渇きも、衝動も、何ひとつ消えちゃいない。