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やがて、私たちは那覇へ無事降り立った。
式場となるプライベートビーチのあるリゾートホテルに移動し、今は花斗とホテルの一室にいる。
「ええー、パパ、こないの?」
花斗が客室のベッドの上でうつ伏せになり、ブーブー文句を言う。手に持っている飛行機のおもちゃを、恨めしそうに見つめながら。
「仕方ないでしょう、お仕事なんだから」
壱月はあの後、私にメッセージを送ってくれていた。といっても、確認したのは飛行機を降り、移動している間だったのだが。
報告書やらなんやらで、今日は大阪に泊まること、そして明日中にはこちらに合流できる旨が書かれていた。
「明日にはちゃんと来てくれるから」
「……でも、ヤダ」
『ヤダ』かぁ。
私も、本音を言うなら花斗と一緒だ。
けれど、仕方ない。私は笑顔を浮かべて、花斗の頭を撫でた。
「会いたいよね。ママも、壱月に会いたい」
ポツリと私がそうこぼすと、花斗ははっとしてそれからふいっと向こうを向いてしまう。
そんな私は、壱月を心配していた。明日は、姉の晴れ舞台だというのに。
*
青い海、白いビーチ、カラッと晴れた青い空、照りつける太陽。
そこにならんだ、純白の衣装に身を包んむふたりを遠くに眺めながら、私は花斗と手をつなぎ、道路沿いでオドオドしていた。
「パパ、まだ?」
「さっきタクシーに乗ったって、連絡来たんだけど」
「ああ、もう! はじまっちゃうよ!」
白いシャツに黒い半ズボンでおめかしした花斗は、自分の首元につけられた蝶ネクタイを指で弄りながら言う。
「そろそろだって、愛音ちゃん」
「はい」
昨日同じ便に乗っていた君子叔母さんが、私を呼びに来てくれた。
事情を知っているからか、少し困った笑顔を浮かべている。
「今戻りますね」
そう言うと、「パパ!」と怒り出す花斗を抱き上げ、会場であるビーチへととぼとぼ戻った。
新婦側親族席に座らせてもらい、姉の門出を見届ける。
終始目に涙を浮かべていた姉の姿に、思わず私も涙ぐんでしまった。
今まで、さんざん迷惑をかけたけれど、それでも姉はたくさん支えてくれた。
子育ての悩みも、不安も、保育士である姉は聞くだけでなく、的確なアドバイスをくれた。
そんな姉が、世界で一番幸せそうに涙を浮かべているなんて。
そんな思いが胸にあふれるけれど、子連れではそう感慨に浸れないというのもまた事実である。
花斗が「せんせい、ないてる」「せんせい、チューした」と喋るたびに「しっ!」と人差し指を口元に立てる仕草を繰り返すハメになったのだ。
やがて、場所をホテル内の広間に移して披露宴が行われる。すると、やっと姿を見せた壱月は私たちを見つけて、その席に着いた。
「パパ、やっときた」
「ごめんな、花斗……」
花斗が寂しそうな声でそう言ったからか、壱月がその頭を撫でる。
「いいの。おしごとでしょ?」
花斗はそう言うと、ぎゅっと彼のタキシードの裾を掴み、壱月を見上げる。
「ぼくもいつか、パパみたいなパイロットさんになるから」
「花斗……」
複雑そうに笑みを浮かべた壱月は、花斗の髪をそのままくしゃくしゃ撫でた。
「ああ、そうだな」
「うん!」
ふたりが微笑み合って、私はほっと安堵の息をついた。
披露宴が終盤に差し掛かった頃、姉と榎田さんは周りに集まった友人や親族に挨拶をしたり話をしたりしていた。
私と壱月も、花斗とともに、この機会にと私側への親族へ挨拶をして周った。
「パイロットの海野さん……どこかで」
「昨日、那覇空港行の飛行機の機長を務めておりました、関空に緊急着陸した便で――」
「ああ、あの時のパイロットさんか」
昨日のあの便には、私たちや君子叔母さんのほかにも、何人かの出席者が乗っていたらしい。
その便に乗っていたという方に会うたびに、壱月は「申し訳ございませんでした」と頭を下げていた。
やがて人の波が落ち着いたところで、姉のもとへ駆け寄る。
「せんせい!」
「花斗くーん」
花斗と姉はまるで再会を果たした親子のように抱き合った。
昨日も一昨日も会ってたけどね、と私は内心苦笑する。
けれど、次の瞬間はっとした。
さっきのケーキ、花斗、手で食べてた!
「花斗、離れて! 先生のドレス汚れちゃう!」
「ドレス!」
花斗は慌てて離れると、姉はふふっと笑う。
「いいよ、花斗くん。お祝い、すごく嬉しいな」
花斗はその場にまっすぐに立ち、姉に笑みを向けている。
幸せそうに花斗に微笑む姉に、私は声をかけた。
「お姉、本当におめでとう」
「ありがとう。……愛音も、幸せになってよかったよ」
姉からのその言葉に、胸がいっぱいになる。
「うん、ありがとう」
幸せをおすそわけしてもらいに来たのに、姉のその言葉に私も幸せがあふれ出したのだ。
すると、隣にいた壱月が不意に姉に頭を下げた。
「ご招待いただいたにもかかわらず、式に間に合わず、申し訳ありませんでした」
「そんな辛気臭い顔しないで、壱月くん」
姉はふふっと笑った。
「愛音から事情は聞いていたから。それに、たくさんの人を、ここにも運んでくれたんでしょう? こちらこそ、ありがとう」
そう言われた壱月は、頭を上げるとはにかんで、「おめでとうございます」と呟いた。
コメント
1件
わあ、結婚式のシーン、すごく温かかったです…! お姉さんが「愛音も、幸せになってよかったよ」って言ったところで、私も胸がじんわりしました。花斗くんの「パパまだ?」から「いいの。おしごとでしょ?」って成長した姿に感動。壱月さんがパイロットとして謝罪して回る誠実さも、家族の絆も、全部素敵なエピソードでした🌷