テラーノベル
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これは、最近演技が話題になっている目黒と阿部が、主演で共演した恋愛映画の話。
仕事を終えた目黒が自宅へ帰ってきたのは、日付が変わってしばらく経った頃だった。
「疲れた……」
小さく呟きながら廊下を歩く。
早くシャワーを浴びて眠りたい。
そんなことを考えながら自宅の前まで来て――足が止まった。
玄関の横。
女の子がいた。
壁に背中を預け、膝を抱えて座っている。
長い髪は乱れ、服も汚れていた。
顔を伏せたまま、ぴくりとも動かない。
「……大丈夫ですか?」
目黒が少し離れたところから声をかける。
反応はない。
「すみません。」
もう一度。
それでも起きない。
近付いて様子を見ると、微かに寝息が聞こえた。
「寝てる……?」
こんなところで。
しかも深夜に。
どうするべきか迷った。
考えて、考えて。
結局、目黒は女の子をそのままにはできなかった。
「……ごめんなさい。」
声をかけてから、そっと抱き上げる。
それでも女の子は目を覚まさなかった。
「どれだけ疲れてるんだよ……」
目黒は玄関を開けた。
それが。
二人の出会いだった。
___________
「……ん。」
阿部が目を開けた。
知らない天井。
「……?」
ゆっくり体を起こす。
柔らかいソファと毛布。
綺麗なリビング。
一瞬、何が起きているのか分からなかった。
最後の記憶を思い出す。
知らない家の玄関の前。
歩けなくなって。
座り込んで――。
「……っ!」
慌てて立ち上がった。
「起きた?」
突然聞こえた男の声に。
阿部の肩が跳ねた。
キッチンにいた目黒も、それに気付いてすぐ立ち止まる。
「ごめん。びっくりさせた。」
阿部は警戒しながら周囲を見る。
「……ここ……。」
「俺の家。」
「え……?」
「玄関の前で寝てたから。」
阿部の顔が青くなる。
「ご、ごめんなさい!」
深く頭を下げた。
「本当にごめんなさい!」
「いや――」
「すぐ出ます。」
阿部は荷物すらないまま玄関へ向かう。
「待って。」
目黒が呼び止める。
阿部は振り返った。
「もう夜中だよ。」
「……でも。」
「行くところある?」
答えられない。
「家族とか友達に連絡できる?」
答えられなかった。
目黒はしばらく阿部を見てから言った。
「今日だけでもここにいれば?」
「……知らない人の家にはいられません。」
「それはそうだよね。」
目黒は苦笑する。
自分でも怪しいことを言っている自覚はあった。
「でも俺も、この時間に女の子一人で外に出すの怖いんだよ。」
「……。」
「何もしないから。」
阿部は迷っていた。
「……本当に、ごめんなさい。」
「謝らなくていいよ。」
___________
目黒は風呂を貸した。
着替えがないという阿部に、自分の服も渡した。
しばらくして。
「……お借りしました。」
お風呂から出てきた阿部を見て、目黒は一瞬固まった。
自分のTシャツ。
大きすぎるスウェット。
袖も余っている。
「……大きいね。」
「当たり前じゃないですか。」
初めて。
少しだけ阿部が笑った。
その表情に。
目黒も安心した。
「何か食べる?」
「大丈夫です。」
その直後。
小さく。
お腹が鳴った。
「……。」
「……。」
阿部が真っ赤になる。
目黒は笑いを堪えた。
「俺も夜食食べるから、一緒に食べよう。」
「……すみません。」
「また謝った。」
___________
二人で向かい合って。
簡単な夜食を食べる。
最初は。
ほとんど会話がなかった。
阿部は目黒の様子を窺いながら、少しずつ食べている。
目黒も無理に事情を聞かなかった。
やがて。
阿部の方から口を開いた。
「……阿部です。」
「え?」
「名前。」
目黒を見る。
「阿部。」
「俺は目黒。」
「……目黒さん。」
少しだけ。
距離が縮まった。
「目黒さん。」
「うん。」
「本当に……ありがとうございます。」
そして。
阿部はぽつぽつと話し始めた。
「俺……地方から来たんです。」
「うん。」
「逃げてきました。」
目黒の表情が変わる。
「彼氏から。」
阿部は俯いた。
「暴力、振るわれてて。」
目黒は何も言わずに聞く。
「最初はそんな人じゃなかったんです。」
「でも少しずつ酷くなって。」
「逃げようとすると見つかって。」
阿部は自分の腕を抱く。
「だから今回、何も持たないで出てきました。」
「何も?」
「はい。」
「財布も?」
首を振る。
「スマホもありません。」
「……。」
「追いかけられるのが怖かったから。」
目黒は箸を置いた。
「どうやってここまで?」
「歩いて。」
「……歩いて?」
「はい。」
「地方って、どこから?」
阿部が答える。
その場所を聞いて。
目黒は絶句した。
「そこから……ずっと?」
「途中で休みながら。」
「何日?」
阿部は曖昧に笑った。
その顔を見て。
目黒はそれ以上聞けなかった。
「仕事もないです。」
阿部は続ける。
「お金もないし。」
「知り合いもいない。」
「今日もずっと歩いてたんですけど……。」
恥ずかしそうに俯いた。
「もう限界だったみたいで。」
「気付いたら、目黒さんの家の前で寝ちゃってて。」
「本当にごめんなさい。」
目黒はしばらく黙っていた。
そして。
「阿部さん。」
「はい。」
「もう謝らなくていいよ。」
「……。」
「少なくとも今日は。」
目黒は穏やかに笑った。
「ちゃんと食べて。」
「お風呂入って。」
「暖かいところで寝て。」
「明日のことは明日考えよう。」
「……。」
阿部の目に。
少しずつ涙が溜まった。
「……なんで。」
「ん?」
「なんでそんなに優しくしてくれるんですか。」
目黒は少し考える。
「玄関の前で寝てる人を放っておけなかっただけ。」
「……。」
「それに。」
目黒は笑った。
「困ってる人がいたら助けるでしょ。」
その言葉に。
阿部は俯いた。
目黒には見えないように。
静かに涙を拭う。
逃げてから。
ずっと怖かった。
誰にも頼れなかった。
何も持っていなかった。
これからどうすればいいのかも分からなかった。
それなのに。
ようやく辿り着いた場所で。
知らない人が。
温かいご飯をくれた。
「……美味しいです。」
阿部が小さく言う。
目黒は笑った。
「よかった。」
この時の阿部は、まだ知らなかった。
偶然、力尽きた玄関が。
これから先。
阿部の人生を変えることを。
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kaede🍁
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コメント
1件
うわ、これめっちゃ良かった……。深夜の玄関先で倒れてた阿部を、目黒が助けるところから始まるんだけど、その「困った人を助けるでしょ」って自然な優しさにグッときた。暴力彼氏から逃げてきて、何も持たずに歩き続けてた阿部の事情も重くて。お腹鳴っちゃうシーンちょっと笑ったけど、そこからの距離の縮まり方が自然で、続きがめっちゃ気になる!