pnside
病室は、昼を過ぎると静かだった。
窓の外はまだ明るいはずなのに、光は柔らかく抑えられている。
カーテンが閉められていて、強い日差しが差し込まないからだ。
そのカーテンは先生が来たときにそっと引いてくれたもので、薄い布越しに映る影だけが、外に流れる時間を教えていた。
rd「明日診察の日だね」
先生が言う診察は整形外科ではなく精神科の診察。
先生がしてくる質問に答えるという簡単なもの。
俺はまだ動けないし車椅子にも乗れないから病室で行われると言われた。
pn「… うん」
先生が俺の様子を見に来ることが多くなったし食事を手伝ってくれるのも先生だから俺は先生と過ごしている時間が1番長い。
ここ1ヶ月ずっと緊張していたはずなのにそれは少しずつ解けつつあった。
rd「最近ちょっと心許してくれるようになったよね」
rd「俺めっちゃ嬉しい」
俺がじみじみと感じている安心感を見透かしたように先生は笑った。
暖かく、俺の冷めきった心を芯から暖めてくれそうな笑みだった。
こん x3 ヾ
看「失礼します」
看「検温と血圧を測りに来ました」
rd「あ、はーい」
看護師の人がカートをカタカタと押しながら部屋に入ってくる。
やっぱり先生とはどこか違ってうるさいと感じた。
検温するときもどこかよそよそしくて慣れない手つきで血圧計を巻こうとしていた。
その全てが不快に感じてくる。
看「ッあ 、 すみません … 」
rd「…」
rd「あ、俺変わりますよ」
看「ありがとうございます …」
看「すみません ..」
rd「いえいえ」
俺が不快感を感じているのを察したのか先生は看護師に変わって俺の血圧計を巻こうと近づいてきた。
細くて長い指がそっと俺の腕に触れて優しく支えてくれる。
rd「力抜いて大丈夫だよ」
その声すらも優しくて自然と脱力していくのが分かった。
俺の左腕を優しく持ち上げると器用に血圧計を巻いて固定する。
最初から最後まで優しくしてくれた。
rd「… うん 、 血圧も問題ないです」
看「ありがとうございます ..」
もう一度俺の腕に触れると締め付けていた血圧計を外した。
看「失礼しました」
血圧計と体温計をカートに乗せて看護師は俺らがいる病室から出ていった。
今日の先生は俺に付きっきりだった。
rd「ッあ、座りたい?」
俺がベッドのリモコンを取ろうとしていることに気づいてはすぐにリモコンのスイッチを押してくれた。
rd「ちょっと動かなきゃだから … 」
rd「痛かったら言ってね」
「痛かったら言って」
この言葉が俺には嬉しかった。看護師は痛みなんか気にしてくれなくていつも激痛に襲われる。
rd「大丈夫?」
pn「うん ..」
rd「ふ っ 、 よかった」
優しく微笑む先生の表情は俺の脳裏に焼き付けられだと思う。
他とは違って心から暖かく優しく接してくれているような気がした。
ベッドの角度がちょうどよくなった頃、廊下の向こうからばたばたとした足音が響いてきた。
金属のカートを押す音、誰かの小さな笑い声。
それが近づいてくるたびに、胸の奥がざわつく。
病院にいる限り、こういう音は当たり前だと分かっているのに、どうしても落ち着かない。
rd「気にしなくていいよ」
先生は、当たり前みたいにそう言った。
声の調子は低く、穏やかで、音よりも先に耳に染み込んでくる。
ただ一言、それだけで肩の力が少し抜けた。
さっきまで血圧計の締め付けに合わせて張りつめていた神経が、ふっと緩んでいく。
足音はやがて遠ざかり、代わりに時計の秒針がやけに大きく聞こえるようになった。
気づけば、昼だと思い込んでいた時間がもう傾き始めている。
窓はカーテンに覆われているから、光の強さでは判断できない。
けれど壁掛けの時計は確かに午後を指していて、思わず小さく声が漏れた。
pn「…もうこんな、」
rd「ん?」
先生は俺の視線を追ってから、すぐに笑った。
rd「ほんとだ、もうこんな時間か」
rd「一緒にいると早く感じるね」
その言葉に、心臓がわずかに跳ねる。
返事をどうすればいいか分からなくて、口を閉じたままにした。
けれど先生はそれを責めることもなく、続ける。
rd「昼の後ってさ、どうしても眠くなるんだよね」
rd「俺も座ってるとウトウトしてきちゃう」
冗談めかしたような口調に、思わず目を伏せた。
看護師や医師の言葉には常に“評価”や“指示”が含まれていたけれど、先生の声にはそれがない。
ただ自分の感覚をぽつりとこぼしているだけで、俺に答えを求めていない。
それが心地よかった。
秒針がまた一つ進んで、病室に静かな間が落ちる。
でもその静けさは重たくなかった。
むしろ、昼下がりの柔らかさに似ていた。
rd「眠くなったらそのまま寝てもいいからね」
rd「俺いるし」
たったそれだけの言葉で、胸の奥に積もっていた不安が少しだけ溶けていく。
先生は俺の表情を見ていないのに、なぜか気持ちを先回りするように言ってくれる。
それが不思議で、そしてありがたかった。
俺は小さく呼吸を整える。
喉に言葉が引っかかる感覚はまだあるけれど、ほんの少しなら出せそうな気がした。
pn「…うん」
たった一言。
けれどその瞬間、先生が軽く目を細めたのが分かった。
rd「そっか」
短くそう返す声が、胸の奥に静かに残った。
時計の針は止まらずに進んでいく。
外の景色は見えなくても、確かに時間は流れていて、俺と先生はその中に並んで座っていた。
コメント
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今回も良すぎた、!! 今更だけどこのお話pnちゃんの思ってることいっぱい書かれててすごい読みやすいです!