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アンミン
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#主人公最強
杯雪乃
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「人面樹、ですかい。
これまた珍しい物を見つけましたね」
「にんめんじゅ?」
ここは公都『ヤマト』の、パック夫妻の
屋敷兼研究施設兼病院。
例の、『片羽のハニー・ホーネット』デザインの
名札の素材収集から戻った私は、
一度ギルド支部に依頼の完遂を報告。
メル、アルテリーゼ、ラッチはそのまま
児童預り所へ、
そして私だけ、その過程で手に入れた
顔のある実を夫妻に見せに来たのだが、
ちょうどその場に居合わせた鬼人族の青年が、
それを見て話に入って来た。
「知っているんですか?」
「鬼人族の里にもこのような木が?」
夫婦共にシルバーの長髪を持つ、パックさんと
シャンタルさんが彼に問うと、
「いや、先祖の言い伝えにあるんですよ。
南方の暖かい地方に、こんな顔のある実がなる
木が存在すると。
実際に目にしたのは初めてですが」
う~ん……
言い伝えという事は彼の先祖の故郷、つまり
昔の日本にあったという事も考えられるな。
という事は鬼と同じく妖怪とか物の怪の類
なのだろうか。
「その、本体というか木はどうしました?」
両親と同じく長い銀髪をした少女、レムちゃんが
弟・リクハルド君を抱いたまま、私を見上げる
ように聞いてきて、
「多分、王都・フォルロワの方へ移送したんじゃ
ないかな。
見つけた研究者が、かなりご執心の
ようだったから―――」
私の言葉に、複雑そうな表情になる3人。
公都に持ってきて欲しかったんだろうなあ。
「そういえばコレ、食べられるんですか?」
人面樹とやらの実を持ち上げて、鬼人族の
青年に向けると、
「ど、どうでしょうかねえ。
『秋頃に熟し、味は甘酸っぱい』と
言われているようですが……
見た目が―――」
そう言いながら彼は、その2メートルは
あろうかという長身を顔ごと横にそらす。
まあ、食欲をそそる見た目ではないのは
確かだろう。
「鬼人族の里で、誰か詳しい人は」
「もしくは残っている書物とかは」
研究者夫婦が続けて彼に質問すると、
「そうですねえ。
里の古老か、もしくは記録があるかも
知れません。
送って調べてもらったらどうでしょうか」
「そうですね。あ、あと……
王都から枝の1本でも頂いて、土精霊様に
頼めば」
鬼人族の意見の後にレムちゃんが続けて提案し、
「えっと―――
アレを公都で育てるつもりですか?
こういうのが本当に数十個もなっていたん
ですよ?
子供が見たら泣くレベルです」
私は両手でその実を差し出すようにして、
やんわりと、公都での栽培を止めるも、
「じゃあ、ウチの庭でやるしかないか」
「実験畑の一角に植えてみましょう」
と、その程度では彼らを止める事は出来ず……
ひとまず研究素材を渡した後―――
とにかく冒険者ギルドへ戻る事にした。
「おう、パック夫妻に渡して来たか。
何か知っていたか?」
アラフィフの、白髪交じりの頭をした
筋肉質のギルド長が片手を振り、
「いえ、やはり2人にとっても未知の魔物だった
ようです。
ただその場にたまたまいた鬼人族が、どうも
知っていたようでして」
私の言葉に、次期ギルド長の褐色肌の青年と、
その妻であるタヌキ顔の丸眼鏡の女性が顔を
見合わせて、
「あんなのが鬼人族の里にいるッスか?」
「海の向こうですから、何がいてもおかしくは
ないですけど」
そう言う2人に私は首を左右に振り、
「どうも口ぶりからすると、私の地球にいた
可能性もあるんですよね。
まあ、お化けとか伝説上の怪異とか、
そういった類のものですけど」
ふむふむとそこにいたメンバー3人は
うなずいて、
「まっ、そういうこちらだって全部の魔物を
把握しているわけじゃねーしな。
現にありゃ、国内の未開拓地で
見つかったんだろ?」
ジャンさんがそう語り、
「それでその鬼人族の説明は?」
「他に何か情報は」
レイド君とミリアさんが先を促すと、
「ん~……
どうも暖かい地域に生息しているようだとか、
食べたら甘酸っぱい味がするとか―――
あちらも言い伝えで知っていただけで、
詳しく知りたければ里に送って、古老や
記録をあたってみてはと言われました」
するとギルド長が口元を歪め、
「うえっ、食えるのかよアレ」
「俺は遠慮したいッスねえ」
「同じく!」
3人は揃って否定的な意見を述べる。
公都に戻って報告した際、現物を見ている
からなあ。
自分も気持ちはよくわかる。
「あとパック夫妻が公都内で栽培したいと
言ってました。
もちろん、あの研究施設限定で、ですけど」
そこに追い打ちをかけるような情報を
共有すると、
父親・息子・娘のように、『よーやるわ』と
口には出さずとも家族単位で表情に表れ……
「ま、まあそういう事ですので―――
後で『ゲート』を使って、鬼人族の里に
行ってみます」
「あー……
まあ、頼むわ」
ここでようやく、素材探しの依頼は一段落
したのであった。
「ふーん、パックさんやシャンタルさんも
わからないものだったんだ」
「だが、ちょうどそこにいた鬼人族が
知っておったというのは面白いのう」
妻2人―――
共に長い黒髪の、童顔と彫りの深い顔立ちの
女性が、それぞれ感想を述べる。
夕方、自宅の屋敷で食事がてら、私は家族と
情報を共有していた。
「じゃあ次は、鬼人族の里に行くんだ?」
黒髪ショートに真っ赤な瞳を持つ娘が、
興味津々な目で見つめてきて、
「その前に一度、土精霊様に見てもらいたいと
思っているけど。
ただ彼は今、王都にいるからなあ」
そう、あくまでもあの依頼の本命は、
名札の素材である樹脂であって、
今土精霊様は、その木を大量生産させるため、
王都まで同行しているのだ。
「んー、でも鬼人族の祖先の言い伝えって
事は……」
「元はシンの世界のものかも知れないと
いう事か?」
メルとアルテリーゼはすぐに私と同じ
考えに行き着いて、
「まあ、あったとしても―――
伝承や伝説の類だと思われるけどね。
私も、そのテの話や妖怪とかを、
全部知っているわけじゃないし」
そう答えると今度はラッチが、
「じゃー、鬼人族とか、おとーさんの
世界から来たっぽい種族に聞けば、
わかる人がいたりして」
その言葉に、私はハッとなる。
実際、鬼人族を始めとして……
私と同じ日本から来たと思われる種族は、
天狗が元であろう天人族もそうだし、
鬼人族の里には土蜘蛛のつっちーさんもいた。
それに布ゴーレムも今公都にいるけど、
あれ、どこからどう見ても一反木綿だしなあ。
妖怪というカテゴリーでいえば、雪女さんも
それに加わるし。
「そうだなあ。
公都にも、つっちーさんや雪女さんもいるし、
まずはそっちから聞いてみた方がいいかも」
こうして次の方針が決まり、私は彼女たちと
接触する事となった。
「うお、人面樹じゃない。
こっちの世界にもあったんだ」
「これが、ですか?
ぞっとしないものですね」
白装束の黒髪ロングの和風美人と、
透き通るような白い長髪に、普通の洋装をした
女性が、例の実を前に目を丸くする。
土蜘蛛のつっちーさんと、雪女さんだ。
そしてもう1人―――
「はぁ、わらわ、こんなの見た事ないけど」
透き通るようなミドルショートの髪をした、
露出の多い衣装を着た、12・3才くらいの
少女……
氷精霊様が宙に浮かびながら答える。
「久しぶりー、みんな」
「とはいえ、2人は1ヶ月ぶりくらいかの?」
そこへ私の妻2人が、それぞれ自分の息子、
シンイチとリュウイチを抱いて登場すると、
「おー貸して見せて触らせてぇ~♪」
「しかしいつまでも赤ちゃんのままですねぇ。
他はもう立ち歩きしている童もいるのに」
そう言ってメルとアルテリーゼから赤ん坊を
受け取ると、2人とも満面の笑顔となり、
そして氷精霊様は上から、赤ん坊の顔を
のぞき込む。
「そういえば、時々2人の面倒を見て
くださっているとか」
「児童預かり所にも顔を見せるしねー。
シンイチとリュウイチに取っても、
もう顔なじみだよー」
私がその事でお礼を言うと、ラッチが
後ろから続く。
人面樹を見てもらうため、どこで待ち合わせ
するのか悩んでいたところ、
メルとアルテリーゼが、この屋敷で
いいんじゃない?
と、提案し、
こちらの用件で呼びつけるのはちょっとなあ、
と私が迷っていると、
シンイチとリュウイチを見る事が出来るのなら、
喜んでくると思うとラッチも後押しして、
それで連絡を取ってみたところ―――
2人とも即行でやって来てくれたのである。
「んで何だっけ?
この人面樹について聞きたい事でも?」
つっちーさんがシンイチのほっぺたを
ぷにぷにしながら聞いて来て、
「あー、ええと……
やはり日本の妖怪、ですかね?」
「わらわは知識としてはありましたが、
実際に見るのは初めてです」
私の問いに、今度は雪女さんが答える。
そんなやり取りの中、手持ち無沙汰のように
宙を漂う氷精霊様に視線を向けると、
「そういえば、今はお2人とも公都に
おりますが―――
住んでいる山を空けても大丈夫なんですか?」
もともと、雪女さんとの出会いは、分体である
氷精霊様が、住処の山を放置し過ぎていた事で
出来たようなもので、
(■295話 はじめての こうさつ参照)
その事について触れてみると、
「あれはねぇ、この子があんまり山を
空け過ぎるからです。
適度に戻っていれば、問題は無いんですよ」
と、雪女さんは氷精霊様をリュウイチと一緒に
胸に抱く。
「そういえば、今日は普通の格好なんだね」
「いつもの……
あの鬼人族のような衣装はどうしたのだ?」
妻2人が彼女の服についてたずねると、
「今、わらわは『神前戦闘』に出て
いますから―――
あの格好だと公都の中では目立ち過ぎまして」
「あー……
今、すごい人気だもんね」
そういえば彼女、公都では『神前戦闘』の
選手やっていたんだった。
女子選手はみんな人気が高いけど、
雪女さんは唯一、獣人族でも鬼人族でもない
中で、かなりのスーパースター選手に
なっているとの事。
まあ今はその話は置いておいて―――
「ところで、つっちーさんはこれをどこで?
やはり『あちら』の世界で、でしょうか」
この人たちには、自分が『境外の民』だと
伝えてある。
また、彼女たちも言って見れば同じような境遇。
自分の屋敷だし、特に秘密にする必要もなく、
その前提で質問してみると、
「まあ、そうだね。
『こっち』の世界に来てからは、ずっと
鬼人族の鉱山に引きこもっていたから。
さすがに食べた事はないけど……」
「あ、鬼人族の言い伝えによりますと、
甘酸っぱいらしいですよ、それ」
「本当ですか!?」
つっちーさんに私が返すと、その言葉に
雪女さんが驚いて声を上げ―――
そしてまじまじと人面樹の実を見つめる。
「それで、他に知っている事とかは」
その問いに彼女はう~ん、と両腕を組み、
「物好きな人間が扱っているところは
見た事があるよ。
ただ、食べるために使うとか、そんな
感じじゃ無かったけど」
「こんな見た目ではなくとも、他にたくさん
果物はありますらからねえ」
土蜘蛛と雪女、2人の人外女性の言葉に
ふむふむと私はうなずき、
「やっぱり、鬼人族の里まで行って
調べた方がいいかな。
別に、特に急ぐ理由とかは無いんだけど」
ただアングア大陸のルガシオン公国……
そこのコボルト自治区の件がまだどうなるか
わからないからなあ。
こっちは興味本位、好奇心によるものだから、
後回しでいいんだが。
「んー、それもいいけど、やっぱり
土精霊からも話を聞いておいた方が
いいんじゃないの?
あのコ、確か植物とお話し出来るでしょ?」
と、氷精霊様から提案され、周囲もそれも
そうかと同意し―――
ひとまず土精霊様の帰還を待つ事となった。
「これですか―――」
「造りはとてもシンプルに見えますが……」
ルガシオン公国・首都オルレニア。
酒場のような建物の一室で、男か女か
わからないほどの中性的な顔立ちをした、
ミドルショートの赤髪の人物と、
ローブを全身にまとい、外見がほとんど
わからない従者らしき者が、
一つの魔導具を前に佇んでいた。
「驚くほど安い値段で買えましたね、
バンディーニ様」
「虫除けの魔導具、という事でしたが―――
どうやら植物系の素材を内部で熱し、
それで虫の嫌いな匂いを出している、
というところですか」
小さな丸テーブルに置かれた、その魔導具を
観察しながら、冷静に分析していく。
「効果は確かなのでしょう……
現に、コボルト自治区から首都オルレニアに
戻るまで、虫刺されはおろか―――
虫を見かけなくなりましたから……」
「ですが、それにしても強力過ぎます、
ギムリ。
通常、そこまで強力であれば―――」
言葉と同時にバンディーニは、網目で構成された
小さな虫かごを魔導具のそばに置く。
その虫かごには、甲虫のような虫が入っていて、
「……!
これは……」
その虫かごの中で、狂ったように甲虫は
飛び回り続ける。
そのうち疲れたのか、虫かごの中で最も
魔導具から遠い位置に移動し、そこで
ジッとして動かなくなった。
「……死んだのでしょうか?」
「いえ、生きています。
つまり、この魔導具には本当に
虫除けの効果しかないという事です。
逆に言えば、殺虫成分が入って
いないのでしょう」
その言葉を聞いたギムリは考え込み、
「……そちらの方が難しくありませんか?
かなり強力な効果があるのは実感して
おりますけど、
殺さずにただ、本当に虫を寄せ付けない
だけの性能なんて……」
「調べれば調べるほど、意味がわからなく
なってきますね。
ですが、これだけの効果があるのであれば、
あの商人たちが―――
これを持ってコボルト自治区内の各地に
散らばるだけでも、相当の効果を発揮出来た
のではないかと」
それを聞いた従者はバンディーニと目線を
合わせ、
「だとしたら……
あの商人がこの虫除けの魔導具を持って、
自治区に来た時点で……
我々の計画は全て阻止されていたという事に」
「まあそういう事になるのですが―――
それにしても、やり方が回りくどいと
いいますか、何というか。
過ぎた事を言っても仕方ありません。
何も計画はコボルト自治区ではないのです。
『次』に進むとしましょう」
「ハッ!!」
それを聞いたギムリは一礼して退室し、
部屋には1人、赤髪の人物が残される。
そしてしばらく魔導具を見つめ……
「この魔力―――
どこか覚えがあるような気がするのですが。
まさか……」
独り言のようにつぶやいた後、軽く首を振って、
その人物もまた部屋を後にした。
「おう!
その子たちがシンイチとリュウイチか!」
「ほんまに可愛らしいですなぁ。
歓迎しますわ」
数日後、鬼人族の里―――
長である、2メートルはあろうかという
ヤマガミさんと、その妻である同じくらいの
身長のシャーロットさんが出迎えてくれて、
「お、お久しぶりです」
「うわー!
本当にちっちゃいね!」
そして彼らの娘夫婦である、中学生くらいの
狐耳の少年、テン君と、
両親と同じく二本の角がある、十才くらいの
肌の赤い少女、パチャママちゃんが出て来て、
さっそく息子2人を抱いているメルと
アルテリーゼに近寄って、
そして母親の方はシンイチを、娘の方は
リュウイチを抱き上げ、
「ああ、パチャママが赤ちゃんやった頃、
思い出しますわぁ」
「ねーねー、テン様。
あちきとの最初の子はやっぱり男の子が
いいですか?」
そこにラッチが割って入り、
「どうかなー。
でも、弟は最高だよ!!」
と、2人のお姉ちゃんになった彼女は
自慢するように胸を張り、
「そういえば、まだまだシャーロットさんだって
若いでしょー?」
「頑張ればあと1人や2人、望めるのでは
ないか?」
と、続けて妻2人が語り……
盛り上がっている女性陣を後にして、
「で、ではあの―――
例の件で」
「う、うむ」
「あ、お、お供します義父上」
と、私を含む男性陣はこっそりその場を離れた。
「人面樹……
名前はにんめんじゅ、またはじんめんじゅと
読むらしいが。
笑う事はあるがしゃべる事はなく―――
笑い過ぎてそのまま落ちる、とあるな」
ヤマガミさんがそのゴツい手で、何らかの
古い書物をめくりながら説明する。
ここは鬼人族の書庫で、長の住んでいる
屋敷とつながっており……
祖先は日本から来たというのは間違いない
ようで、あちこちに時代劇で見るような
書物が大量に保管されていた。
「やはり、昔の日本語で記されているの
ですか?」
私が鬼人族の長を見上げながらたずねると、
「ご先祖様のいた世界の言葉か?
いや、こちらに来てからここの言葉を覚え、
それで写したと聞いておる」
彼は答えながらペラペラと手に持っている
書物のページをめくっていき、
「南方の食物であり、その実は秋ごろに熟し、
甘酸っぱい味とあるが―――
これは恐らく、ご先祖様が向こうの故郷を
思い出しながら書いたのであろう」
「どうしてわかるのですか?」
義理の息子がヤマガミさんに聞き返すと、
「『この世界にあるかどうか』と、但し書きが
追記されておるからな。
もしご先祖様がこちらの世界で見た事が
あれば……
それも含めて記録されているだろうし」
なるほど、とうなずく私に彼は続けて、
「後は―――
人間が時々採取していた事、
何らかの薬の材料になるのではないか、
それと、動物や人が接近しないと笑わない、
という事くらいしか書かれておらん」
「そのご先祖様は取ろうとしなかったの
でしょうか?」
そう私が疑問を口にすると、
「さすがにあの見た目ではなあ……
それに薬になると言っても、ワシらは鬼だ。
そうそう必要になるとは思えん」
それもそうか。
必要だから手を出すのであって、頑丈な鬼が
見た目的にも薬的にも、わざわざ手を出す
ものではなかったのだろう。
「当人に聞けたら一番いいのですが、
土精霊様でも意思疎通は無理だったし」
「あ、そういえば土精霊様は何と?」
テン君の言葉に私は頭をかいて、
「意思疎通が出来ない分、いろいろ調べて
くれたんだけど―――
どうもあの顔、実際にはただそのように
見えるだけらしくてね。
笑い声というのも、枝や幹を震わせて
それで出していたみたい。
ただ口は獲物をとらえる役割もあった
らしくて……
実ではあるんですが、その実に好奇心を持った
相手をおびき寄せて捕まえて、衰弱死するのを
待って養分にしていたっぽいです」
「肉食なのか、アレ」
「でもあんな、怪しげな木に近付く獲物なんて
いるんでしょうか」
長と跡継ぎが怪訝な表情になるが、
「薬の成分があるみたいですし、
貴重であればそれなりにいたんじゃ
ないですか?
現に、私が初めて見た時は研究者の1人が
捕まっていましたから」
それを聞いた2人は別の意味で複雑な
表情となり、
「あ、えーと―――
それでですね、出来ればその書物に書いて
ある事とか、持ち帰っても大丈夫でしょうか」
「うん?
そりゃあまあ、他ならぬシン殿の頼みで
あれば……
と言いたいところだが。
基本的にここの書物は門外不出なのだ。
あとはまあ古いのでな。
別に書いてある事自体は、公表しても
どうという事は無いのだけどなあ」
実際、先祖だの別世界だの言ったところで、
それはあくまでも古い言い伝え。
おとぎ話のようで、そちらは問題は無いの
だろうが。
目にするとボロボロになった本も多い。
物理的に持ち出せない、という方が正解だろう。
困った顔になるヤマガミさんに、私は
とある魔導具を取り出して、
「大丈夫です。
記録用の魔導具がありますから」
「あ!
確か、この里から着物を公都に送った際、
記念用に使われたという―――
写真機の魔導具ですね!」
テン君の言う通り、これは着物姿を残したい
という女性陣の承認欲求と……
それをビジネスとして取り込んだものだ。
(■299話 はじめての しゃしん参照)
もともとの目的は学術の記録用なので、
こちらが本来の使い道といえるが。
それに、アングア大陸で未知の敵対勢力と
また相対する可能性はある。
武器は多いに越した事はない。
私はヤマガミさんとテン君の協力のもと、
その書庫にある記録を撮影し始めた。
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読み終わりました。人面樹の調査を通じて、鬼人族や土蜘蛛、雪女といった日本由来の種族との繋がりがじわじわと浮かび上がってくる感じ、すごく好きです。特に「顔はただそう見えるだけ」「笑い声は枝を震わせて出してた」という土精霊様の分析が、怪異を合理的に紐解く面白さを引き立てていて、世界観の整合性が取れているのが気持ちいいですね。書庫の記録を撮影する段になって、これから先にどんな新しい発見が待っているのか、続きが気になります。