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自分の仕事が終わった。
ふうっと一息つきながら壁にもたれ掛かる。
周りはここに来た時の騒がしさは無く、ただただ静かな部屋になってしまった。
さてこれからどうしようか。
辺りを見渡しても時間が潰せそうなものなんてなくてそれじゃあと左手に持ったままだった淵天を振って刃についた物を飛ばし鞘に収める。
そして、ゆっくりと窓際まで近くにあった椅子を持って歩き、適当に足を振って靴に着いた物を飛ばしつつ椅子に座り窓の外を眺める。
空は視界いっぱい真っ暗で、月が今日も光を反射させ明るく周りの星々を霞ませている。
それを、見ながらのんびりとしていると体がどっと重くなった気がした。
あぁ、疲れた。
いつになったら帰れるかな。
あの幸せだった日々に、父の元へと帰りたい思いを募らせながら自分の頭を膝にのせて、勝手に閉じようとする瞼に抗いきれず目をそっと閉じた。
「千鉱ォ、帰るぞ」
聞き慣れた声だ。
閉じていた瞼を開け声のした方に顔を向けるとそこにはこっちも終わったと入口の扉を開けて、俺に声をかける双城さん。
ガシガシと自分の頭を掻きながら、ダルそうにコイコイと手招きをしてくる。
俺は一つ頷くと椅子をそのままに、彼の元へと向かう。
その時に、足元からピシャっと水が跳ねてコートの隅を汚すがまあいいかと足元だけ見て彼の元へと向かった。
「お疲れ様です。双城さん」
「あぁ、さっさと報告して温泉行くぞ」
「はい」
疲れたと言いながら俺の頭をひと撫でして満足したのか、長い廊下を通っていく。
気だるそうなのはいつもと変わらないが普段よりは少し機嫌が良さそうだ。
それも、最近幽さんから受け取った物が関係しているのだろう。
そしてそれを使って結果を出しているのを見ると、幽さんへの報告はいつも通りで大丈夫だなとなんとなく考えた。
「千鉱置いてくぞ、早く来い」
扉の前から立ち止まって考えていたから大分距離が出来てしまった。
「今行きます」
そう答えて、自分がさっきまでいた部屋から長い廊下を走る。
そして、双城さんの隣に追いつくとまたもう一度ガシガシと撫でられては足を出口の方へと進む。
「結果良しと」
そう彼は言うと、外に待たせていた部下にあとを任せ本人は車に乗り込むので自分も隣に座ると車は目的地へと進み始めた。
車の中で揺られてる時も、自分の膝に頭を預けてまぶたを閉じる。
すると、先程自分がいた血の海と死体の山の部屋が現れた。
そこから、右手左手と手を伸ばし俺の足を掴みながら海中へと引きずり込もうとしてくる。
夢だと分かってはいるが、俺は声を出して必死に助けを求める。
なのに、声は出ず只々沈んでいくのをもがき足掻くだけで周りには誰も助けてくれる人がいない。
それでもと手を伸ばすと、そこにはもうずっと会っていない父の姿が現れた。
「______」
お父さんの口が動くのが見える。
何かを俺に話しかけているが、何も聞こえない。
「父さんッ」
そう呼びかけても答えは返ってこない。
次第に周りが暗くなっていくのをただた受け入れるしかなかった。
「千鉱」
自分の名を呼ばれた。
うっすらと目を開け声のする方へと顔を向けると統領が立っており、おはようと俺の額にキスをした。
それをまだ覚醒していない状態で受け入れる。
「魘されてる様だったが大丈夫か。」
「だいじょうぶ…です」
ふっと、小さく笑うと統領の冷たい手が左の頬を撫でる。
「まだ意識がハッキリしていないな。千鉱こっちにおいで」
「はい…」
呼ばれて統領の首に手を回すと、俺を抱き上げ腕を回して抱っこ状態になる。
そのまま持ち上げられては車の中から出された。
近くで統領の匂いがして、体の緊張感が少しづつほぐれていくような気がした。
ああ、俺は緊張していたんだな。
「今日はどうだった」
これは、双城は使えたかと監視してどうだったかという問いだ。
屋敷へと向かう足は止めずにそう聞いてくるのは毎回のことだ。
それに、俺は思ったままのことを報告する。
「問題なしです。刳雲も力を発揮してました。」
「そうか…なら次の段階に移ろう。ここまでスムーズだと少し疑いたくなるがまあいい。」
あっ今、口角が少し上がった気がする。
それに少し声が上がっている。
統領の目的へと計画が少しずつ進んでいっているのだろう。
俺は、その目的_真打を振るえるようにする為にいる。
その目的を成せば、父の元に帰るんだ。
そう約束を交わしたんだ、重症の父を庇い俺自身を犠牲にだ。
それまではどんなに嫌でも、人を殺したり父さんの刀の行く末を監視しなければ。
「なんだまだ眠そうだな。部屋に戻るまで眠ってていい。何ちゃんと連れて行ってやる」
「眠くない」
「意地っ張りだな。なに、刀を取り上げたりはしないさ。 」
取り上げてしまったら、お前が金魚達と戯れているのが見れなくなってしまうからな。
まさか見られてるとは思わず、統領の方を勢いよく顔を動かし見る。
「とうりょッ」
「千鉱。」
何を言いたいか分かるなと目で語りかけてくる。
この渦を巻いている目でジッと見られるのが俺は苦手だ。
それを分かっていてしてくるのだから胸糞悪い。
そう思いながらも、抵抗できないし機嫌を損ねるのも、後の自分が不利になってしまう。
「幽さん…」
目を逸らし、小さく零すと前髪にキスを落とす。
「いい子だ。お前の唇から、口から名を呼ばれるのは嬉しいものだ。」
「そうですか」
毎回するこのやり取りにため息を吐きつつ、頭を体を幽さんに預けつつ目をそっと閉じる。
「眠るのか…では良い夢を」
革靴の音を廊下に響かせながらいつもの部屋へと進むのだった。
小さな呼吸の音が聞こえ始めた。
俺の手の中には、中々人には懐かない黒猫が眠る。
普段は警戒心が強くでているのを本人は分かっているのかどうなのか。
先程の車の中でも魘されていたようで、双城からの報告の電話口からも声が聞こえた。
「お前がより美しく舞えるように舞台は用意しておこう」
心配はいらない。
そこに父国重やその仲間がいても、お前は綺麗に躍るだろう。
いや踊るしかない。
その為には、下準備を滞りなく行い本番へと舞台へと続けていこう。
「最後までお前と共に」
後日
「よぉ」
今日は双城が行っている実験の報告の日。
俺は早く来ないかなと、報告中の双城が出てくるのを待っていた。
いつもなら、幽さんから任務をいい渡されてるところだが今日は何も言われずだった。
それだったらと、千鉱は前回の任務後そのまま寝てしまったので温泉の約束を守れなかった。
それを気にしていたのを察したのか、朝になって幽さんから突然、今日何時頃に来るからと教えてくれた。
そして今に至る。
壁に背を預けて床に座り、いつも所持している淵天から金魚達を出してやる。
すると、ふよふよと浮きながらも俺の頬を突いたりくるくる廻ったりして可愛らしい。
「よぉ」
金魚たちを構っていると、上の方から声が響く。
待ちに待っていた人の声だ。
「双城さん」
「久しぶりだな、なにやってんだ」
シャツをズボンに入れず、適当にスーツを着崩した双城が立っていた。
千鉱は、立ち上がると金魚を消し双城の方へと進む。
「あの…この前の温泉…すみませんでした。」
折角のお誘いだったのにと双城に頭を下げる。
「あぁ?あん時はまぁお前疲れてたしなぁ」
そういうと、目の前にある千鉱の頭を雑に撫でる。
中々千鉱の様子も変わらないので、じゃあと次の提案を持ちかける。
「今日行くかァ?」
パチリと瞬きをすると、勢いよく双城に顔を向ける。
「いいんですか?」
「いいもなにもお前次第だけどな」
普段は無表情な千鉱の顔が少し嬉しそうな表情に変わった。
「統領の許可貰ってきます」
「おう、入口で待ってる」
そう言葉を交わした後、千鉱は統領の元まで行き外出許可を得て双城の所に向かう。
「よろしくお願いします」
「おぉ」
そして、その後2人して温泉に入り千鉱は双城の刺青を観察をし双城からさっさと湯に浸かるぞと怒られるのだった。