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コメント
1件
うわあ…、今回すごく切なかったなあ。両視点で書かれてるから、お互いの気持ちが痛いほど伝わってくる。R(るい様)が「離れたくない」って思いつつも、かのんを困らせないように身を引くところとか、かのんが「これくらいなら許されるだろうか」って着物の端を摘む仕草とか…もう、じーんときた。白檀の香りで思い出しちゃう切なさもリアルだった。次、どうなるんだろう…!
R side
目の前の光景を受け止められなかった。
かのんがあの場にいた。
理由を聞いても、その意味だけが頭に入ってこない。
どうしてーー。
どうして、あそこにいたのか。
どうして、かのんに聞かれてしまったのか。
そんな言葉が、頭を何度も巡っていた。
…嫌われたくない。
違う、あれは役目だ。
そう言いかけて口を閉ざす。
伝えた所で、かのんには関係の無いことだ。
呼吸が浅い。
髪をかきあげ、そのまま額を押さえて立ち尽くしてしまった。
かのんを責めたいわけじゃない。
この苛立ちをどこにぶつけたらいいのか分からなかった。
呼吸を整えようと、深く息を吐く。
…全然落ち着かない。
かのんはまだ頭を下げたままだ。
かのんの目の前でゆっくり膝を付く。
R「顔を…上げてくれ…」
優しさに努めた声でそう言うが、どうしても取り乱した様子が乗ってしまう。
かのんは小さく首を横に振る。
無理もない、怒った相手に強引に手を引かれたら、こんな反応になるにきまってる。
…最低だ。
かのんへの恋心に気付いてから、何もかもが噛み合わない。
ただ、大事にしたいだけなのに。
息を震わせるかのんをただ見下ろす。
次第に、暗さに目が慣れてきた。
かのんの肩が小さく震えているのが見える。
怖がらせてしまった…。
取り乱してる場合じゃない。
R「…ふぅ……」
目を瞑る。
俯き、もう一度息を整えた。
かのんの両肩にそっと触れると、その震えが伝わってくる。
R「かのん…すまない…」
触れた手に力を込めて、ゆっくりと上体を起こさせる。
かのんが顔を上げ、恐る恐る俺の顔を見た。
棚に置いた行灯の灯りで、顔の横が柔らかく照らされる。
やっと、目が合う。
その瞬間、思考が止まった。
R「…っ」
その顔は、泣き腫らした後のようだった。
赤みを帯びた瞳は、まだ少し濡れている。
R「…どうした?」
K「…っ…」
かのんの瞳が戸惑ったように、泳ぐ。
そしてまた俯いてしまう。
R「かのん?」
K「……」
R「俺の、せいか…?」
K「…違います…っ」
慌てたように顔を上げたかのんと、再び目が合う。
違う、の先を待つ。
だが、何か言いたげなかのんの瞳は困ったように揺れるだけだ。
R「…かのん…」
そっと、ゆっくりと手を延ばした。
かのんが嫌だったら身を引けるくらいの早さで。
頬に触れる。
さっきまで涙で濡れていたそこは、湿度と熱を持っていた。
親指の腹でそっと撫でる。
すると、雫のような涙が頬を滑った。
かのんがはっとして、涙を拭う。
K「…っ……」
真一文字に閉じられた唇。
何も聞かないで欲しいーーそんな沈黙だった。
どうしたら、かのんの心を軽くできるのだろう。
考えても、最良の方法が見つからない。
ゆっくりと距離を詰める。
かのんの背中に腕を回し、空気ごと抱え込むようにそっと包む。
R「…悪いな…、これ以外の方法が、わからない…」
腕の中で、かのんの力が少しだけ抜ける。
その身体は小さく感じられ、胸が締め付けられた。
K side
何故泣いたか…到底話せるわけがない。
お夜伽に傷付いたーー、なんて情けないにも程がある。
R「俺の、せいか…?」
K「…違います…っ」
咄嗟に否定して、るい様とまた目が合う。
あの時と同じ顔だった。
泣きそうな表情。それから、心配するように瞳が揺れている。
ギュッと胸が締め付けられる。
…また、こんな顔をさせてしまった…。
「…かのん」
るい様の指先がゆっくり近づいて来た。
そして、掌に優しく包まれ、親指が頬を柔らかくさする。
あまりにも優しい。
我慢していた涙を一つ、零してしまった。
K「…!」
慌てて涙を拭う。
こんな所、見られたくなかった。
思わず唇を固く結ぶ。
すると、ゆっくりと近付いて来たるい様の腕に包まれた。
あの夜みたいな抱き締め方ではない、身体に触れるか触れないかくらいの優しい包み方だった。
K「……ふう…」
安堵したような息が漏れる。
温かい…。
るい様から柔らかい熱を感じ、肩から少しずつ力が抜けていく。
R「…悪いな…、これ以外の方法が、わからない…」
首を横に振る。
謝ってほしくない。
るい様をこんな風に迷わせてるのは俺だ。
るい様の大事なお役目に涙して、理由も話さず、困らせて…自分勝手すぎる。
そう思うのに…抱きしめられて心が満たされ始めている。
るい様の胸元で静かな呼吸を繰り返す。
……良い匂いだ…。
この香りを、あの女性も間近で感じたのだろうか。
白檀の高貴な甘い匂いは、胸を締め付け、 思わず身を引こうとした。
でも、るい様の温もりがその身体を引き留めた。
トン、トン…と、優しくさすられた背中から力が抜けていく。
R「かのん、すまない…」
るい様から溜息が漏れる。
R「お前を慰めるつもりが…離れたくなくなってしまった…」
困ったような声でそう言い、るい様の腕が優しく締まる。
近付いた鼓動が早く鳴っているのを感じた。
自分のと、同じくらいの早さだった。
俺も…離れたくない。
本当は、るい様にちゃんと寄り掛かりたかった。
俺が寄りかかれば、るい様はきっと受け止めてくれる。
でも、それでいいはずがない。
るい様が背負ってきたものまで、俺が揺るがせてしまう。
これくらいなら、許されるだろうか…。
手をゆっくり動かし、るい様の着物の端をそっと摘む。
それが、かのんにできる精一杯の甘えだった。
R side
かのんの強張っていた身体が少し緩んだ気がする。
それと同時に自分の乱れていた呼吸もいつの間にか整っていた。
温かい、ずっとこうしていたい…。
爺「若様ーっ」
そう思った矢先、 遠くから俺を探す声がする。
かのんが驚いて顔を上げたと思うと、すぐに立ち上がろうとする。俺はキツく抱き直し、その身体を引き留めた。
しまった、と思ったがやはり離したくなかった。
R「頼む…あと少しだけ…」
K「だめです、お戻り下さい」
かのんが毅然と言葉を投げてくる。
R「…わかった…」
かのんを困らせたくない。
惜しむように身体を離す。
かのんはもう大丈夫なのだろうか。
一人になって、また泣かないだろうか。
部屋を出る足が重い、進まない。
そんな俺を見兼ねて、かのんが背中を押してきた。
K「早く…っ」
R「お前が心配だ…」
グズグズしていると、
K「もう、大丈夫です。また会えますから」
そう言って力を込めて廊下に押し出された。
前のめりによろける。
爺「あっ若様!心配しましたよ!」
俺を見つけた爺が、早足に近付いてきた。
R「すまない、考え事をしていた…」
それを聞いて、爺が訝しげな顔をする。
爺「かのん殿と一緒と聞きましたが…」
爺の目が鋭い。
部屋の奥の暗闇を見つめる。
まずい…。
表情が固まる。
R「…いや…っ、あいつは急用ですぐに戻った…っ」
爺をチラリと見る。
爺「そうですか…」
そう言って、視線を俺に戻す。
まだ疑惑の目を向けていたが、ふいと身体を進行方向に向き直す。
爺「お客様を待たせてますから、すぐに戻りますよ!」
爺は勘繰る時間も無いというくらいに焦っていた。
R「あ、忘れてた…」
寝処に待たせたままだった…。
でも、もうそんな事はどうでもよかった。
かのんは大丈夫か…そればかり考えていた。
K side
廊下から2人のやり取りが聞こえる。
俺は真っ暗になった部屋の中で息を潜めた。
どうやら俺は急用で戻ったという事になっている。
2人が慌ただしく戻るのを見計らって、自室へ向かう。
正直、夜番をここで終えられてほっとした。
部屋に戻る足が速い。
きっと今晩は眠れないだろう。
あまりにも多くのことが起きすぎた。
あ…。
ふと気が付く。
最後、るい様に「また会える」と言ってしまった。
まるで、自分に言い聞かせるように出た言葉だった。
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