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木にもたれて穏やかな寝息をたてている鳴海。
そこから少し離れた場所に、彼によって治療を終えた屏風ヶ浦と等々力、そして鳥飼の血蝕解放で運ばれてきた一ノ瀬が寝かされていた。
全員の避難が完了し、無陀野と皇后崎が研究所のデータについて会話をしていると、落下していたロケットがついに地面に激突する。
だが事はそれでは終わらなかった。
ロケットが激突した箇所から地面に亀裂が入り、地鳴りのような轟音と共に水が溢れ出す。
その水は崖を流れ、かつてのような美しい滝が見事に復活したのだった。
滝復活という大イベントにより、浅いところを漂っていた鳴海の意識が覚醒する。
しかし目が覚めたのはいいが、極度の貧血のため立ち上がることができない。
それでも何とか体を起こすと、起きた事に気が付いた天乃の肩を借りて一ノ瀬の元へと向かった。
血液量の少なさや外傷はもちろんだが、鳴海が何より気になったのは思い詰めたようなその表情だった。
痛みや苦しさから来ているものではない。心の奥深くから血が流れていることを、鳴海は本能的に感じ取った。
「(これは治るのに時間がかかるかもな…)」
治療をしながら、鳴海もまたツラそうな表情を見せる。
いくら援護部隊と言えど、治せない傷もある。これはその類だ。
「(抱え込み過ぎないでね、四季…)」
そっと髪を撫で、鳴海は一ノ瀬の手をギュっと握り締めた。
と、そこへようやく現地の医療部隊が到着する。
到着が遅れたことを謝りながら倒れている3人に駆け寄ったものの、その半分以上が治療済であることに驚く。
「えっ、治療…終わってる?」
「あ、遅〜〜い!!なんで現地隊員が遅くて私たち牙の方が速いワケ!!?この子血が足りないの!しっきーのこと診て!!」
「遅れたことに対してはぐうの音も出ないです…はい…すみません」
「俺もなにか手伝うかなー」
「隊長は絶対安静ですよ???」
「はい…」
ガンギマった目をする薬師からそう言われ、鳴海はさっきまで座っていた木のところへと戻る。
背を預けると同時に薬師に輸血の処置を施された。
お礼を伝えてから、軽く目を閉じる。
意識はあるものの、まだ頭がボーッとしていて何かを考えることは難しかった。
そうしてまた少し眠っていた鳴海。
不意に近くに人の気配を感じ、静かに目を開ければ、そこには見知った顔があった。
「…羽李ちゃん」
「平気?」
「まぁ、ぼちぼち。まだ少し胸焼けがする」
「良かった。…少し話したいんだけど大丈夫?」
「もち」
「あー…っと、その前に…ごめんな。そんな状態になってんの、俺らを治療しまくったからだろ?」
「謝んないで…むしろ謝らなきゃいけないのは俺の方…蛭沼ちゃんのこと。俺がもっと早く到着してたら、救えたかもしれない…鬼國隊は仲間を失わずに「それは違う」
「…」
「蛭沼さんは鳴海のせいで死んだんじゃない。そんな風に思ってる奴、鬼國隊の中に1人もいない」
「でも、やっぱり…」
「んーじゃあ、鳴海に1つお願いしていい?」
「お願い?」
「うん。蛭沼さんの死を背負うんじゃなくて…普通に覚えててやってよ!鬼國隊の良心と言われた優しい男がいたって」
「!」
「その方が蛭沼さんも絶対喜ぶ」
「そうだね。そうするよ」
いつもの表情に戻った鳴海を見て、鳥飼もまた嬉しそうな顔で優しく彼の頭を撫でた。
片膝を立ててしゃがんでいた鳥飼は、本題に入るためそのまま鳴海の近くに腰を下ろす。
“大将が目を覚ました”と切り出せば、鳴海はパッと笑顔を見せた。
「本当!?良かった!」
「鳴海のお陰だよ。俺らの大将を守ってくれてありがとな」
「治療したのは藍だけどね」
「で、その大将が鬼國隊を解散したんだよ」
「えっ!?」
「誰かを助けるために力を使う、新しい鬼國隊にするんだと」
「最高じゃん!…もちろん、颯ちゃんについて行くんだよね」
「あいつは俺らがいないと危なっかしいからな」
「ふふっ。颯ちゃん、愛されてるね!」
「…だから、もうすぐ鳴海とはお別れだ」
そう言って顔を覗き込んで来る鳥飼は、さっきまでとは違う色気のある表情をしていた。
一方、羅刹学園サイドにも動きが…
離脱していた矢颪が、無陀野を中心とした同期たちの前で膝を地面につけて頭を下げた。
謝罪の言葉を口にする彼に対し、無陀野はいつも通りの冷静な声音で言葉を投げかける。
「何に対してだ?」
「俺のせいで皆に迷惑かけちまった…」
「要件は手短に言え」
「羅刹に戻らせてください…!」
「なぜその答えに辿り着いた?それともただ居場所が欲しいだけか?」
「居場所は欲しい…欲しいって素直に思えるようになった… 死んだ仲間引きずって、また失うのが怖くて…そうゆう居場所はいらねぇって…壁を自分で作ってたけど… 壁超えるどころか、ぶち壊して入って来た奴がいた…自分の身が危ねぇかもしんねぇのに、ずっと俺の傍にいてくれた奴がいたんだ…
嬉しかったし…何より思ったんだ。失うこと怖がって手を伸ばさないより…掴んだ大事なもん失わない強さが欲しいって…!
だから強くなりてぇ…!仲間を…もう二度と失わないように!そのためにも戻らせてください…!」
「お前の制服はもう無い」
「…っ」
「鞄に入れてたが、滝に飲まれてしまったからな」
「……え?」
「明日新しい制服を取りに職員室へ来い。それと1か月校内の雑用係だ」
「ありがとうございます!」
担任からの一言に、矢颪は驚きながらも全力でお礼を伝える。
笑顔の同期たちに囲まれて照れ臭そうな表情を見せる彼は、以前とは比べ物にならないほど、柔らかい雰囲気をまとっていた。
「羅刹に帰るぞ。俺は屏風ヶ浦を背負う。矢颪は四季を頼む」
「おう!」
「皇后崎」
「?」
「お前は鳴海を迎えに行け。…絡まれてる」
無陀野に言われ振り返った先で、鳴海が鬼國隊の人間と話している姿が見えた。
男が鳴海を憎からず思っていることは、遠目で見てもすぐに分かった。
返事をするのももどかしく、皇后崎は速足で彼女の元へと向かった。
“もうすぐ鳴海とはお別れだ”
そう告げた鳥飼は、熱を帯びた目で鳴海の顔を見つめる。
「羽李ちゃん」
「ん?」
「そんなに見られると穴が空く」
「ふっ。だって鳴海の顔焼き付けとかねぇと」
「さっきも言ったけど、俺の顔は大層な顔じゃないわけよ」
「んなことねぇよ。…傷があっても無くても、鳴海のこと天使に見える」
「!」
「…俺のことも忘れないで」
「え?」
「俺の”初めて”が鳴海だってこと、覚えてて欲しい」
研究所内で鳥飼の治療をしていた時、彼とそんな会話をしたことを思い出した鳴海。
なんの事かとポケーっとする鳴海に、鳥飼は穏やかに微笑みかける。
「鳴海」
「ん?」
「俺のお願い聞いてくれる?」
「お願い?」
「……抱き締めていい?」
言っておきながら動こうとはしない鳥飼に、鳴海はふわっと彼を抱き寄せる。
仲間たちとは違う少し大人っぽい雰囲気に、鳥飼の心拍数は跳ね上がった。
彼の速い鼓動を感じながらも、鳥飼は落ち着いた声で言葉を紡ぐ。
「ありがとな。鳴海がいてくれて良かった」
「羽李ちゃん…」
「どれだけ感謝しても足りねぇよ。本当ありがと」
「俺の方こそ。ありがとね」
「…離したくねぇな~」
「!」
「このまんま連れて帰りてぇけど…迎えが来ちまったか」
「えっ?」
「いつまでそうしてんだよ。いい加減鳴海から離れろ」
「迅ちゃん!」
聞き慣れた声に顔を上げれば、鳥飼の肩越しに皇后崎を発見する。
少しイラついた雰囲気の皇后崎に、鳴海はクスッと笑みを漏らした。
「イカついボディーガードがついてんのな」
「そうだよ。めちゃ頼りになる子」
「じゃあしょうがねぇから、今回は大人しく引くわ」
「みんなによろしく言っといてね!」
「りょーかい」
そう言いながら笑顔で鳴海の頭をポンと叩いた鳥飼は、皇后崎に視線を送る。
鳴海のことを全く諦めてなさそうなその目に、彼はまたイライラを募らせるのだった。
鳥飼が去った後、皇后崎は鳴海の前に膝をつく。
数秒無言で見つめてから、彼は唐突に目の前の鳴海に向かって肩パンをお見舞いした。
“痛っ!”と驚きながら肩を押さえる鳴海に、皇后崎は不機嫌そうに言葉を漏らす。
「…あんま隙見せんなよ」
「え、な、何のこと?」
「誰彼構わず笑いかけんなってこと」
「それじゃ無愛想じゃない?」
「お前はそんぐらいでちょうどいいんだよ」
「え~そうかなぁ…」
「(あー…嫉妬とかダサ過ぎだろ)そうだよ。…ほら、帰るぞ。肩貸せ」
そう言って背を向ける皇后崎に最初は遠慮していた鳴海だったが、実際問題歩くことは難しくて。
小さくお礼と謝罪を伝えながら、彼の肩に腕を回した。
首元に想い人の腕が回されると、さっきまでの不機嫌が嘘のように皇后崎の顔は穏やかになる。
それを隠すため、彼はしばらく鳴海へ小言を言いながら足を動かすのだった。
3人の生徒を背負った羅刹組と、鬼國隊の面々が改めて向かい合う。
すっかり元気を取り戻した等々力は、この数日間のお礼を真っ直ぐに伝えた。
「本当にありがとう!貴方たちがいなかったら全滅してた!困ったことがあれば言ってくれ!いつでも駆けつける!」
「(颯ちゃん、いい顔してる!)」
「それと…鳴海!」
「は、はい!」
「お前は俺たちの命の恩人だ!鳴海に何かあれば、必ず助けに行く!だから…もう”簡単に死ぬ”なんて言うなよ!」
「! もちろん言わないよ。ありがとね颯ちゃん」
「うん!やっぱり鳴海は素直で可愛いな!大好きだぞ!」
「え?」
「それじゃあ…また会おう!」
等々力の衝撃的な発言に本人はもちろん、一部の人間は大いにざわめく。
だが火種を作った張本人は、何とも清々しい顔で新たな道へと歩いて行くのだった。
こうして華厳の滝での戦いは幕を閉じた。
残念ながら、全てが一件落着とは…言い難い。
1つの綻びは直ったが…
新たな綻びが生まれる結果となった。
鳴海ですら治せない一ノ瀬に生まれた綻び。
これがこの後、彼を酷く苦しませることになる。
それでも…
奪われた夜は終わり、解放の朝を迎えた。
そうして戦ったからこそ、見れる景色がある。
朝焼けに照らされながら、鳴海は皇后崎の背中で再び眠りに落ちた。
鳴海や四季が華厳の滝へ行っている最中…
杉並区の鬼機関は桃太郎機関に攻め込まれ、静かに暮らす鬼を含め死者32人、重軽傷者48人を出し…
杉並区の鬼は桃太郎に壊滅させられた。
「にぃ…助けて…はやくきて…」
次の戦いの火蓋は既に切られていた…
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