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「おかえり、ごはん、というかおつまみ作ってみた。一緒にどう?」
「お、ありがたい。今日は疲れたからどうしようかなって考えてたとこ」
「お風呂、先に入ったからどうぞ」
「そうするわ」
奥さんだったらこうしなければならない、こうでなければならないというシバリがなくなったら、家事が苦ではなくなった。
夫婦でいる間も、こんなふうだったらうまくいっていたのかもしれないな。
「あー、さっぱりした。風呂掃除はしといたよ」
「ありがと」
「ビール出すね」
「うん、ありがと」
一つ一つの小さなことにも、ありがとうが返される。
夫婦という枠に入ってしまうと、だんだんと馴れ合いになってしまって関係を雑に扱ってしまうのかなぁ。
「仕事はどう?アルバイトもやってるけど、キツくない?」
「体力的にはキツいけど、イヤじゃないかな。自分の生活のために働いてる実感あるし。進君こそ、どうなの?」
「俺は、家のローンがキツかったけど未希ちゃんが家賃くれるようになって楽になったよ。働けるうちは働いてあとは年金でやってくかな」
結婚してるあいだは、こんなふうにお金の話もほとんどしなかった。
だから大変なことになってたんだけど、今思えばそれは私にもおおいに責任がある。
「ねぇ、いまいい季節だから、バイクツーリング行かない?」
「ん?久しぶりにいいね」
にゃおーんとタロウも話に入ってきた。
「タロウにも美味しいおやつ、あげようか?」
穏やかな気分になると、猫にまで優しくなってしまう。
「あ、あのさ…」
確認だけはしとかないと。
「出て行かないといけない理由がどちらかにできるまで、このままここにいてもいいかな?」
こくこくこく、進君の喉仏がビールを流し込んでいく。
「いいよ、ていうか、いてもらいたい。色々助かるし」
「よかった。ただ自由になった分、保護されるものもなくなるよね?」
夫だから妻だからと、認められる権利のようなものが同居人だと何もない。
「その時はその時。あとは情みたいなもんでなんとかなるよ。なんてったって、元夫婦なんだから」
「そうだね。その時考えればいいか」
年を重ねたら出てくるいろんな問題も、その時に考えることにしよう。
病気とか入院とか万が一とか。
お金はいざとなった時の最終で最強の手段だから、貯めておく必要はあるけど。
結婚してても、そんなふうに逃げ道のようなものを作っておくとストレスも減らせるかもしれない。
いざとなったら、離婚してやる!くらいの覚悟で準備をしておく。
そうすれば、日頃の小さなことは流せると思う。
紙切れ一枚の契約は、紙切れ一枚で解消できる。
簡単だけどとても覚悟がいる。
「でもなぁ、夫婦としてうまくいってたら、問題なかったのになぁ」
「仕方ないよ、俺らは結婚に向かない人種みたいだから」
「そうだね、バツの数がそれを証明してる」
クスッと笑う。
「ま、今夜はゆっくり飲むか」
「…だね」
家で飲むお酒の味が、格段に上がったと思うのは進君との関係のせいかもしれない。
のんびり、夜は更けていった。
ーーーおしまいーーー