注意!
※キャラがイビト山に登る直前の夜の話です。
※捏造ありです。
※直接的な父親(名前:リアム)の描写、間接的な母親の描写があります。
※また、キャラと父親の関係性は悪くないどころか良い方です。
※キャラはいい子です。
※フランクとは率直、気さくという意味を持ちます。
キャラside
僕は物置でため息をついた。
キャラ:「…まだ夜中だ、誰も助けてくれる訳がないよな…みんな寝てるだろうし…」
母さんに殴られたところが痛い。
身体中が痛い。
泣き腫らした目が痛い。
お腹もすいた。
このまま死ぬのではないかと思ったその時、
グイッ
キャラ:「!?」
誰かに手を引っ張られた。
僕はそのまま物置の外まで出られた。
月明かりが出て誰が手を引っ張ったのかがわかった。
リアム:「大丈夫か、キャラ」
父さんだった。
キャラ:「…うん、ありがとう、ごめん」
僕は何かしらの罪悪感を感じてその場から立ち去ろうとした。
リアム:「なぜ助けを求めなかった。」
キャラ:「それはっ…!」
僕は父さんの方を見た。
…久しぶりにまともに父さんの顔を見た。
キャラ:「…その目…」
父さんの目が、いつもの茶色じゃなくて、オレンジと赤のオッドアイだった。
リアム:「ん?ああ…カラコンをつけ忘れていたよ。」
父さんは何事もなかったかのように言った。
リアム:「お前こそ、傷を隠すためにメイクしてるだろ。落とし忘れは肌に悪いぞ。」
キャラ:「…ごめん」
…僕は今度こそ、話すことも無くなったのでこの場を去ろうとした。
リアム:「待て、キャラ。」
キャラ:「…何?」
リアム:「ついてきて欲しい場所がある。」
キャラ:「…分かったよ。」
着いた場所は誰も使っていない、廃ビルのような場所だった。
リアム:「ここだったら気兼ねなく話せるだろ。」
キャラ:「……何を話すって?」
リアム:「他愛のない話さえできなかっただろ。」
キャラ:「うん…」
リアム:「まあ、僕相手にそう緊張しなくてもいいんじゃないか?こんな無様な姿しか見せられないとはいえ、僕はお前の父親なんだ、というかそうでありたい。」
父さんは瞬き一つせずに僕の目を見ていた。
その目は、僕の目よりもずっと綺麗な目だった。
リアム:「けど少し寂しいな。お前は最近僕を『父さん』と呼んでくれなくなっただろ?」
キャラ:「……」
どこかで母さんや村人が見ているかもしれない。
そこで父さんと話をしたなら僕だけじゃなくて父さんまで何かしらの被害を被ることになる。
リアム:「怖いか?僕をそう呼ぶのが。不安か?僕がいらない被害を被るかもしれないって。」
キャラ:「……」
僕は何も言えなかった。
図星だった。
リアム:「…じゃあ、こうしないか?別の二人称で呼ぶ。」
キャラ:「…例えば?」
リアム:「『あんた』とかな。」
…僕は驚いた。
親相手にそんな呼び方をしても良いのかと。
リアム:「それに、僕はもっとフランクに話したいんだ。」
試すような目で父さんは僕を見た。
キャラ:「…分かった。じゃあ、率直に聞くけどあんたは僕をどう思っている?母さんみたいに僕を殴るでもない、罵倒するでもない。そんなことしないのはあんたくらいだよ。」
リアム:「なんだ、そんなことを聞きたかったのか。そりゃあ、大事な我が子だろお前は。じゃないと僕はお前を助けたりしない。」
キャラ:「…」
信じることが怖かった。
裏切られたらどうしよう?
心底、そこが不安だった。
リアム:「…」
ギュッ
キャラ:「!?」
父さんが急に僕を抱きしめてきた。
リアム:「今までお前のことをちゃんと守ってやれなくてすまなかった。母親の暴力から子供を守れない父親ですまなかった。」
キャラ:「…父さんだって、暴力を振るわれているからそんな余裕ないじゃないか。」
リアム:「……キャラ。この村の状況も家庭の状況も悪くなっている。僕だけじゃ庇いきれないんだ。正直逃げた方がいい。」
…どこに?
僕は考えた。
…ああ、イビト山があるじゃないか。
誰も帰ってこれないっていう噂の。
キャラ:「……あんたは僕だけを逃すつもりなのか?」
リアム:「そうだな、お前を逃した後、隙を見て僕もお前のところに行く。お前の考えてることはわかる。どうせ行き場所はイビト山だろ?」
…ハハ、父さんはすごいや。
僕の考えそうなことはだいたいわかってるから。
キャラ:「じゃあ、賭けよう。無事に会えるか、それとも一生会えないか。会えないなら僕の勝ち、無事に会えたらあんたの勝ちだ。」
リアム:「それはまた大きな賭けだな。その賭け、乗った。」
キャラ:「言っとくけど、僕はあんたのことを完全に信用してるわけじゃない。なんせ今まで色々あって人間不信なんだ。」
リアム:「生憎、僕もなんだ。なんせこの村がトチ狂ってるものだからね。」
キャラ:「ハハっ、あんたもか!」
僕たちはしばらく笑っていた。
リアム:「…生きろ。死のうなんて考えるな。」
キャラ:「あんたこそ、僕に会えないからって絶望なんてするなよ?」
リアム:「そんなことわかってるさ。…行け、もうすぐ夜が明ける。見つかる前に逃げるんだ。」
キャラ:「ありがとう。また会おう、あんたも無事で逃げろよな。」
僕は父さんに別れを告げて、この建物を出た。
ポケットにナイフは入ってる、道は切り開けるはずだ。
何かあった時の護身にも使える。
僕は少しだけ希望を持って山の方へ一目散に走った。