テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
七亡
1,516
めい
1,041
私を生涯悩ませてきた問いは、今解決する。
死んだら私は、どこへ行くのだろうか。
魂は、どこへ行くのか。
白い天井を見つめながら小さく息を吐いた。
長い人生を、かけても見つからなかった答えが今、ようやく_。
死を初めて理解したのは、私が六歳の夏の日だった。
母の葬式の帰り道。
私は、父の手を小さい手でぎゅっと握りしめた。
「・・パパも死んじゃうの」
父は、少し困った顔をして答えた
「うん。死んじゃうよ」
「私も?」
「うん。みんなだよ」
その時のパパは、何を考えていたのか私にはわからない。
ただ、静まり返った帰り道に私の心臓の音が聞こえたのははっきりと覚えている。
「ゆきさん!利用者さん対応お願いします!」
慌ただしいスタッフの声がユニットに響き渡る。
「はい、今行きます!」
私は返事をして、その場へ走った。
⸻
高校を卒業し、介護士として働き始めていた。
急変したのは、86歳の女性の利用者さんだった。
その方は、午前中に体調を崩し、病院へ搬送された。
搬送されたあとの施設は、さっきまでの慌ただしさが嘘のように静かだった。
⸻
数日後。
回復の見込みがないと判断され、「看取り対応」として施設へ戻ることになった。
看取り対応とは、延命を目的とした治療ではなく、最期の時間を住み慣れた場所で、その人らしく過ごせるよう支えること。
痛みを和らげ、そばにいて、呼吸のひとつひとつを見守る。
⸻
その三日後の朝方。
その方は、静かに息を引き取った。
⸻
「利用者さん……」
そっと名前を呼びながら、私は手を握った。
もう動かない手は、驚くほど軽くて、そして温かかった。
(そっちは、どうですか)
心の中で、誰にも届かない言葉をつぶやく。
⸻
それから私は、何度も誰かを見送り、何度も誰かを迎えた。
慣れたわけではない。
ただ、「死」というものが、日常の中に増えていった。
⸻
何度目かの見送りのあと、私はふと思う。
目の前で息を引き取った人たちの顔は、どれも穏やかだった。
苦しみの途中に見えても、最後には静けさだけが残る。
それでも私は、わからないままだった。
最後は、つらくなかったですか。
後悔はなかったですか。
⸻
動かなくなった体。
しわの寄った顔。
そこにあるのは、あの日の帰り道とよく似た静けさだった。
私を生涯悩ませてきた問いは、今解決する。
死んだら私は、どこへ行くのだろうか。
魂は、どこへ行くのか。
白い天井を見つめながら、小さく息を吐いた。
長い人生をかけても見つからなかった答えが、今、ようやく——。
“この答えのない問いを、あなたはどう抱えて生きていきますか。”
コメント
1件
第1話、拝読しました。 「死んだらどこへ行くのか」——幼い日に父から突きつけられた逃れられない問いが、人生のラストシーンまで続く静かな衝撃でした。母を亡くした六歳の女の子が「パパも死んじゃうの?」と尋ねる場面、握る小さな手の力と心臓の音だけで心情を伝えてくるところが、とても丁寧で好きです。この先、答えへの到達とともに語られる“生”にも深く惹かれます。続きが楽しみです🌷