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洸夜は全力で日和を好きだと言ってくれているけれど、自分は洸夜のことが未だに好きなのかハッキリとよく分からない。凄く愛おしいと思うことはたくさんある、守ってあげたくなるくらい母性をくすぐられた。だけどハッキリ好きなのかはよく分からない。今まで何人かと付き合ってはきたものの、好きだと言われてまぁいいか、くらいの気持で付き合っていたから好きという感情がいまいち思い出せない。この関係は一体なんなんだろう。精気を提供する間柄? セフレ? 婚約者……とはまだ認めていない。 ましては相手は淫魔とか言っている。夢に現れるくらいでネットで調べると出てくるような怖い感じでもない。本当に精気を吸ったりしているのかも謎だ。淫魔と結婚したら子供は淫魔が生まれるのだろうか? そもそも本当に淫魔なのかも考えれば考える程不思議になってくるが、不感症だった日和をあれ程に濡らして感じさせるのだから本当に淫魔なのかもしれない。
もやもやと雲がかり晴れない気分のまま仕事が終わり店を出た。
十二月の夜はコートを羽織り、マフラーをして完全防寒しないと寒くて体の芯から震えてしまう。そのくらい寒いのに見覚えのある姿が寒そうに肩をすくませながら立っていた。
「……なにしてんのよ」
おもわず声をかけてしまった。鼻の頭を真っ赤にして、どれくらい外にいたのだろうか。
「なぁ、日和はいつになったら俺だけのものになる?」
腕を捕まれ洸夜の胸元に引き寄せられる。頬に当たった洸夜のブラックのロングコートが氷のように冷たかった。
かなりの時間外で日和を待っていたのだろうか。連絡してくればいいのにと思ったがお互いに連絡先を交換してない、今までこうして会えているのは洸夜が日和に会いにきてくれているからだ。
「俺はこんなに日和が好きで好きで堪らないのに」
冷たい手のひらが日和の頬に触れる。ひやっとしたが振りほどく気にはならなかった。むしろこんなにも身体を冷やしてまで自分に会いたくて待っていてくれたのかと思うと嬉しくて、胸の奥からじわじわと湧き上がる感情をそのまま口にした。
「私はあんたしか見てない……こうやって触れるのもあんただけだから」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔とはこのような顔か、洸夜は大きく目を開き薄い色素のブラウンの瞳がまっすぐ日和を見つめている。いつだってそうだ、この男は出会った時からずっとブレずに真っ直ぐにこの瞳で日和だけをしっかりと見つめてくる。
言った後にハッと自分は何を言っているんだと恥ずかしくなり顔を俯かせた。みるみるうちに顔に熱が集まっていき火を吹き出しそうだ。
頬に触れていた手はスッと下に降りてきて日和の顎を捉え、クイッと上げられる。バチッと合った洸夜の瞳は嬉しそうに目を細め、好きだと声に出して言われたわけではないのにそう表情が言ってくる。
日和、好きだ、と。
ゆっくりと近づいてくる洸夜の顔から一ミリたりとも逸らすことが出来ない。そっと触れる唇。唇もまた凄く冷たい。けれど二度、三度と唇の角度を変え唇が少し開く頃にはその冷たさはどこかに消え去っていた。熱いくらいの洸夜の舌が日和の舌を絡め取る。
身体が引き寄せられ腰を抱かれた。自分も洸夜の背中に両手をまわして抱きしめる。
息継ぎの合間に何度も何度も「好きだ」と愛を囁く洸夜に頭が沸騰してのぼせそうなくらいクラクラして、ギュウッと洸夜の服を掴んだ。
「はぁ、なんだか日和、最近更に甘くなったんだよな」
「……んん、……ぁっ……」
離れたのは一瞬、また重なる優しい唇。まるで恋人同士がするような甘い甘いキス。
「ふ……んぅ……すっ……」
日和の口の端から漏れる甘い声。湧き上がる感情が止まらない。言葉に出しそうになって、急いで飲み込んだ。
――好き。
そう言いそうになってしまった。
(へ? 待って、私ってこいつの事好きなの……? 淫魔とか言ってる変態を!?)
急に自分が洸夜を好きだと自覚した日和は動揺が隠せない。この湧き上がる激しい感情は好きと言う感情だったんだ。洸夜のことが愛おしく思ったり、守ってあげたいと思ったのは自分がこの傲慢で俺様なくせに少し弱い男を好きだと思っていたから湧き出た感情だったんだと今、気づいてしまった。
動揺と焦りから洸夜の胸を押し離しパッと顔を逸らす。恥ずかしくて顔が見られない。今自分がどんな表情をしてしまっているんだろうか、おもいっきり顔に洸夜が好きと書いてあったりなんかしたら……
「も、もう帰るからっ!」
久しぶりの熱い感情に身体が、心がいっぱいいっぱいだ。早まる鼓動、上がり続ける体温。このままじゃ身体が破裂してしまうんじゃないかというくらいバクバクと盛大に音を鳴らし続けている。
「そうか、送るよ」
「い、いいっ! 大丈夫です!」
一歩踏み出し足早にあるき出す。その一歩後ろを着いてくる洸夜。背が高いから足も長いせいで日和が急いで二歩歩いても、たった一歩で追いつかれてしまう。
「なんで着いてくるのよ」
「夜道は危ないだろ」
振って歩いていた右腕をパシっと握り取られ「本当は手を繋ぎたかっただけ」と少し頬を赤らめながら隣を歩き始めた。
(な、なによ! か、可愛すぎるでしょう!!!)
キュウっと絞られるように胸を締め付けられた。
指と指が一本ずつ絡み合い、恋人同士のような甘い絡み方。今まで腕を引っ張られたりして手を繋いだ事はあったが、こうして恋人のように優しく握られたのは初めてだ。指の先からも、指の間からも、手のひらからもこうしてジワジワと洸夜の温度が伝わってくる。
お互い繋いだ手を楽しむように一言も話さずただ歩いた。日和の歩幅に洸夜が合わせてくれている。冬の寒い夜道、日和と洸夜だけが別空間にいるかのように寒さを感じなかった。
「じゃあ、着いたから……」
「ん、あぁ、じゃあ明日のパーティーまたよろしくな。変な男に話しかけられてもシカトするんだぞ」
「なに言ってんだか」
嬉しくてホロッと笑みが溢れる。
軽く頬にキスをされ、「じゃあな」とヒラヒラ手を振りながら来た道を戻っていく洸夜の後ろ姿を小さく消えるまで見送った。
胸に手を当てるとドクドクと心臓が跳ね動いている。