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とある日の夜。仁人は勇斗を完全に諦めさせるための最後の嘘の仕上げとして、一般人の知人に付き合っているフリをして欲しいと頭を下げ、恋人として駅前の人通りの少ない通りを歩いていた。
並んで歩くその姿は、遠目から見れば仲睦まじい恋人同士そのものだった。
自分の嘘がこれで本物になり、勇斗が諦める決心を付け、前を向いてくれれば良い。
そう願っていた。
その時、前方から荒い息を吐きながら歩いてくる影があった。
目を凝らして見つめると、それは勇斗だった。
仁「っ、勇斗……!?」
何度も俯き、一人で悩み、絶望の底に沈みかけた勇斗が、仁人を見つけ出したのだ。
仁人は、どうしてこの場所が分かったのかと驚くがそんな暇は無い。
何故なら勇斗の瞳は、今までに見たことがないほど本気で、どこか狂気を孕んでいたからだ。
息を呑んだ瞬間、勇斗は隣にいる偽りの恋人の存在など一切目に入らないかのように、真っ直ぐ仁人との距離を詰めた。
そして、その手首を骨が軋むほど強く掴み、恋人と一緒にいるこの場所から強引に奪い去るように、そのまま夜の街へと走り出した。
背後で恋人のフリをした知人が驚いた声をあげたが、勇斗は一歩も歩みを止めない。
仁「おい、待て! 何考えてんだよ勇斗! どこ行くんだ、っ…離せって!!」
仁人がいくら叫んでも、勇斗は一切耳を貸さず、前だけを見据えて走り続ける。
冷たい夜風が二人の髪を激しく揺らし、街灯の光が瞬く間を二人の影が駆け抜けていく。
掴まれた手首から勇斗の熱い体温と狂おしいほどの執念が痛いほど伝わってきた。
力強く手を引いてくれる勇斗の歩みは止まることを知らず、仁人は夜空の下を走り続けるしかなかった。
息が切れ、視界が涙で滲む。
夜空に浮かぶ月だけが、必死に手を繋いで疾走する二人を優しく照らしていた。
やがて勇斗が仁人を連れて辿り着いたのは、街の明かりが眼下に広がる、誰もいない静かな高台だった。
仁人は激しく上下する肩を抑え、乱れた息を吐き出しながら、怒りと隠しきれない悲しみが混ざった声で叫んだ。
仁「何なんだよ一体、っ…!いきなりこんな所に連れて来て…!彼女もびっくりしてただろうが!大事なデートの邪魔すんなよ!!」
その瞬間、勇斗が仁人の両肩を壊れそうなほど強く掴んだ。
その瞳には滲んだ涙が浮かんでいた。
勇「嘘つくな!! さっき一緒にいる時だって、全然嬉しそうな顔してなかっただろ! 俺を見てるときの目と全然違う!それに今までのこと、全部なかったことにできるわけねえだろ! 俺が、ずっとお前に告白するつもりでいたことだって、気づいてたんだろ!? それなのにこんなの…有り得ねぇって!」
勇斗の怒声が夜空に響き、その熱い本音が一気にぶつけられる。
一瞬、仁人の身体がびくりと跳ねた。
胸の奥が激しく揺さぶられ、今すぐ全てを白状して、勇斗の腕に飛び込みたい衝動に駆られる。
しかし、仁人はグッと奥歯を噛み締めた。
ここで流されてしまえば、今までの苦しみが、自分が殺してきた感情が無駄になってしまう。
勇斗の未来のために、ここで絶対に突き放さなければいけない。
仁人は涙をボロボロと流しながら、勇斗の手を強引に振り払おうと身をよじった。
仁「うるさい…っ、!気づいてたら何なんだよ! お前が何を考えてようが俺にはもう関係ないだろ! 俺はあの子と付き合ってんだよ…お前なんか、大嫌いだ…!だからもう、俺を追いかけるのなんてやめろ…!」
溢れ出た涙が頬を伝う。
それは怒りの涙ではなく、これ以上自分を揺さぶらないでくれという悲痛な叫びだった。
必死に防壁を築き、これまでの嘘を守ろうと、ボロボロになりながら拒絶を続ける。
それでも手を離さない勇斗に、仁人は更に感情を爆発させた。
仁「離せって!なんで分かってくれないんだよ…俺は、お前の顔なんて見たくない… !もう、ほっといてくれよ…!」
叫びながら、仁人は掴まれた手を全力で振り解き、来た道を帰ろうと走り出した。
悲しみで胸が張り裂けそうになりながら、仁人は夜の闇へ逃げ出そうとした。
だが、そんな仁人を、勇斗が許すはずがなかった。
今ここで逃がしてしまえば、二度と手に入らない場所まで行ってしまう。
そんな気がして。
勇「逃げるな!!」
背後から追いかけてきた勇斗の両腕が、仁人の身体を後ろから強引に抱きすくめる。
逃げ出そうともがく仁人の身体を、勇斗は自分の胸へと無理やり引き寄せ、絶対に離さないと言わんばかりに力任せに抱きしめた。
仁人は勇斗の胸の中で、狂ったように暴れた。
仁「離せ、 っ…!頼む、から…!」
勇「離すわけねえだろ! !」
抱きしめられた背中から、勇斗の激しい鼓動と腕の中の仁人を失うことを恐れる震えが伝わってくる。
そんな勇斗に、仁人の暴れる力が徐々に失われていく。
そして勇斗は息を吸い込み、精一杯の想いを叫んだ。
勇「俺の幸せを、勝手に決めるな…っ!!」
夜空の下に響いた勇斗の声は激しく震え、涙に濡れていた。
勇「俺にとっての幸せはお前が隣にいることなんだよ…!お前と一緒に笑って、お前と一緒に傷ついて、お前と一緒に歩いていけることが、俺の何よりの幸せだってのに…!」
叫びながら、勇斗は仁人の身体を自分の方へ向けさせ、その大きな手で仁人の濡れた頬を優しく、しかし逃がさないように包み込んだ。
勇斗の掌は驚くほど熱かった。
その熱が仁人の凍りついた胸の奥深くを一気に溶かしていく。
絶対に離さないという強い意思が、その掌から、震える指先から、痛いほど伝わってくる。
ずっと一人で耐えてきた。
自分の心に何度も刃を突き立てて拒絶の壁を築いてきた。
なのに、勇斗は傷つきながらもその壁を素手でぶっ壊し、仁人の嘘も、独りよがりの覚悟も、全てを振り払ってして抱き締めてくれたのだ。
俺を一人にするな、と乞うような勇斗の濡れた瞳。
身体越しに伝わる鼓動とその体温に触れた瞬間、仁人が作り出した壁は音を立てて崩れ去っていく。
ボロボロになりながらも真っ直ぐに向けてくれる勇斗の愛。
どんなに拒絶しても、どんなに冷たい嘘で遠ざけても、勇斗の体温を求めてしまう。
仁人の冷え切ったままだった心が、勇斗の言葉と体温で急速に満たされていく。
もう、自分に嘘はつけなかった。
仁「……勇斗……ごめん、ごめんな…。俺、やっぱり…お前のこと、好きだ…」
仁人が泣きじゃくりながらそう呟いた瞬間、勇斗の瞳から堪えきれなくなった涙が一気に溢れ落ちた。
勇「仁人……!」
勇斗は掠れた声で愛しいその名前を呼ぶと、仁人の身体を折れそうなほど強く抱きしめた。
仁「あの子とのこと、は…うそ、で…お前に、諦めて欲しくて…」
勇「……そうだと思った」
夜風が二人を包み込み、勇斗は安心した表情で仁人を愛おしげに見つめる。
そして勇斗は徐ろに仁人の唇に、己のそれを重ねた。
長いすれ違いの間に積み重なってしまった壁紙を打ち砕くかのような、蕩ける二人だけのキス。
仁人は勇斗の首に細い腕を必死に絡みつかせた。
唇が重なる度に、今まで自分を縛っていた嘘も、怯えも、全てが勇斗の熱で消え去っていく。
何度も何度もお互いの存在を確かめ合うように深く深く重ね合っていく。
仁人の口から切ない吐息と小さな甘い声が夜空へと零れ落ちた。
勇「…もう絶対離さねぇから。何があっても、お前は俺のもんだ」
口付けの合間、勇斗は熱く息を吐き出しながら独占欲を剥き出しにして囁いた。
仁人はその言葉に、胸の奥が熱く灼かれるような感覚を覚えながら、勇斗の首後ろに回した両手を背中へと降ろし、そのままぎゅっと抱きしめた。
仁「離さないで……もう、どこにも行かないから……」
その言葉を聞いた勇斗の瞳に、更に深い愛おしさが灯る。
勇斗は仁人の濡れた目元や頬の涙の跡を、優しく慈しむような口付けで拭っていった。
勇「仁人、好きだ。」
仁「…うん、俺も。」
勇「俺と…付き合ってくれるか?」
仁「当たり前だろ」
勇「ふっ、だよな」
高台の夜空の下。
遮るもののない月の光に照らされながら、二人はいつまでもいつまでも強く抱き合い、深く繋がり合っていた。
それから数日後の楽屋にて。
仁人はメンバーに(元々付き合っていたわけではないが)付き合っていた人と別れたことを報告した。
と同時に今まで冷たくしていたはずの勇斗との距離が異常に近かった。
太「あれ……なんか二人距離近くない?」
柔「やっぱりね。勇ちゃん、さっきから顔がニヤけすぎ。隠せてないよ」
舜「よかったぁ。仁ちゃん、やっぱり勇ちゃんといる時が一番良い笑顔やで」
メンバーたちの温かい、全てを察したような視線に包まれながら、仁人は顔を真っ赤にする。
そして机の下で嬉しそうに自分の手を握る勇斗の手を、力強く握り返した。
コメント
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しらすさん🙌後編更新ありがとうございます‼️🥹🫶 勇斗さんの一筋縄では崩せない愛最高でした😭🙏✨️ 作品によく夜関係の言葉が使われていて儚くどこかロマンチックに感じられました🥹🫶 本当にしらすさんの書く作品が大好きです🥲🙌 改めまして更新感謝です🙇
#さのじん
自分夢の中
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