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少女が家のお金を勝手に使ってしまったと聞いた彼女は「やりたい時にやりたいことをして、自分の自由を最大限満喫したほうが人生楽しいよ。それを止めるようなことはしたくないよ」怒るでもなく見放すでもなく。かつての自身の体験と同じ目に遭わないようしてあげたいという彼女なりの考えが伝わってきた。「どういうこと?」少女は自分が怒られると思っていたのだろう。そんな様子の少女を見て彼女はリュミエールの森を見つめながら「それを今日は教えてあげようと思ったんだよ」少女の頭を撫でイタズラっぽく笑ったかと思うと俺が止めるまもなく話が始まった。
俺はそこそこ頭も良く小遣いも人よりは多くもらっていたと思う。だが俺は捨てられた。捨て子だったんだ。今の時代足りないものは色々ある。知力、推察力、経済力、技術力、コミュ力。だがその多くは後からでも付け加えることのできる付け焼き刃だと俺は思っていた。生まれ持った才能には勝てないと勝手に思い込んでいた。その思い込みで何度も失敗した。それからは自分の才能に磨きをかけるようになった。優れた刃には優れた手入れが必要だ。それからは失敗しない訳では無いが前よりかは幾分マシな生活を送れている。無駄なものに金を使わず自身の徳や利益を生みそうな物にのみ金を使ってきた。今日も今日とで道先の町にいるシュリメルドと商談をする予定が入っている。そのために2000金貨という大出費をしたのだ。貴族の国、白都イルヴェナで2カ月も生活できるほどの大金だ。この商談が失敗すれば俺はたちまち地下労働か商業組合の管理局の人間に地獄の果てまで取り立てられる生活になる。だがそんな想定ばかりしていては何にもできなくなってしまう。どんな商売も危険に満ちている、と。そんな考えに囚われていては商人は到底務まらない。だから迷わないように、仮説を立て過ぎないように自分なりにルールを決めておくといい。とにかく今回の商売は比較的安全だ。何せ2000金貨より高く売れば損はしない。それだけのことだった。村に入ると早速シュルメルが声をかけてきてくれた。「ハヤセル!久しぶりだな!?」「おぉシュリメル、お前こそ元気そうじゃん」「今日は泊まっていくのか?」「あぁそうするつもり」「それは良かった」「何で?」「いや…その…そう!最近近くの森でクマがよく出るらしくてな?お前いつも森とか川辺で野宿してるだろ?」「うん」「だから今日泊まるんだったら安心だなぁと思っただけだよ」相変わらずの優しさに少し安堵しながら俺はシュリメルの家へ案内された。「随分大きな家になったな。前はこんなに大きくなかったじゃないか」「へへっ、な〜に商談が少しばかりうまくいっただけさ」「それは誇れることだよ」少しばかりうまくいっただけとは到底思えない広さだ。わらしべ長者的なことが起こったのかと想像を膨らませていると「なぁハヤセル」「なんだ?」「俺はここしばらくずっと考えていてな。俺もお前みたいに色んな奴らと仲間になってみたい、色んな景色を観てみたいってな。だから俺はお前と一緒に旅をしながら商人をしたい」「ん?」「そんなに驚くなよ」いきなりそんなことを言い出すのだから驚くに決まっているだろうに。その男は悪戯っぽい笑いながら言ってきた。「仕方がないからこの2000金貨分の皮防具一式を3000金貨で買うこととお前の扱っている小麦2000金貨分を俺にただで渡すこと。これが条件だ」「冗談じゃない!せめて1000金貨分だ」「いや1800」「1300!」「じゃぁ1500でどうだ?」「まぁそれなら…仕方ねぇか」「こっちは人っ子一人分の命を預かるんだぞ?これくらい安いもんだ」「お前がその気なら少しは安心できるな」「そう、なら良かったね」そう言って俺は部屋に入った。「にしても大量の荷物だな。前はもっと少なかったろ?」「前って言ってもいつだ?もう1年も前のことじゃないか」「俺たちからすると1年なんてあっという間さ。種まきだけで春が終わり、雑草やら害虫やらとの戦いで夏が終わり、収穫と祭りだけで秋が終わる。唯一冬だけは多少のんびりできるかな」「農民も忙しいんだな。行商人はその大半を荷馬車の上で過ごすから、覚悟するんだな」「わかってるよ。でなんだ?その大量の荷物は」「これは各国の入国許可書や通行証明書、身分証明やらなんやらで見ての通り大荷物だ。最近は偽造書も増えているらしいからなおさらな。お前も商人になりたいならまず組合に所属するだな」「組合?」「あぁ、個人も組織も国が管理してるのもあるぞ。組合っていうのは言わば実家みたいなものだ。借金の一時的な肩代わりや手形などもくれる。でも1番は同じ組合に所属してるやつらとの関係だな…。一緒に酒を飲んだり、情報交換をしたり、つまらない雑談なんかもするな」「お前にとっちゃ尚更か」「やめろ。昔話は勘弁だ」「悪いって。そろそろ日没だ。夕食は村長宅で出してくれるってよ。村長も久しぶりにお前と話したいって」「わかった。準備ができたら向かうよ」