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「陽さんってば、俺をやり込めたのが嬉しくて、そんなふうに笑ってるでしょ」
「それは違う。おまえがちゃんと彼氏らしく最初からアイツを牽制したり、追っ払ってくれたろ。前はそんなことすらできなくて、おどおどしていたじゃないか」
橋本に指摘された宮本は、あいまいな表情を作って黙り込む。
「なんだよ、褒めてやったのに」
宮本が形容のできない妙な表情をしているせいで、場の雰囲気があまりよくなかった。
「すみません。俺あまり褒められたことがないので、どんな態度をしていいのかわからなくて」
「だったらこれから、俺がうんと褒めてやる! そしたら慣れるだろ?」
「陽さんが俺を褒める……」
橋本が声高々に褒めると言ったのに、宮本の顔色は相変わらずだった。そのせいで無駄に上げた橋本のテンションも、だだ下がりする。
「なんだかなぁ。バレンタインには女からチョコ貰ったり、クリスマスイブには俺の前で男に誘われたりと、すげぇモテてるというのに、本人まったくその自覚がないっていう」
「確かに陽さんと付き合ってからは、服装に気をつけたりしましたけど、それ以外は全然変わってないんです。それなのに周りの扱いが一気に変わってしまって、困惑しているというか」
グラスを意味なくぐるぐる回しながら告げられたセリフを聞いて、橋本なりに考えながら語りかけた。
「なんつーか、ほら。ド近眼の眼鏡を外したらイケメンだったキャラみたいな感じで、雅輝も変わったんだと思う。冴えないモブキャラが、格好いい主人公に変身しちゃったと表現すればいいか」
「俺が格好いい主人公?」
目を大きく見開いて反応した宮本に、橋本はほっとする。このまま無反応を決めこまれてしまったら、正直持ち上げようがないと思っていたので、心底安堵した。
「だから、もっと自信を持てって。俺の彼氏!」
「陽さん……」
「もう少しだけ自信を持ってもらわないと、俺の実家に行ったときに、大事なところで下手こくのは、どこの誰だ?」
おどけた口調で問いかけた橋本に、宮本は満面の笑みを唇に湛えてまっすぐ前を見る。
「下手こかないように、陽さんの実家に顔を出すまでちゃんと練習して、自信をつけておきます」
「そうしてくれ。すみません、アップルタイザーください」
ちょうど料理を運んできたウェイターに、宮本と同じ物を頼んだ。
「あれ、もう飲まないんですか?」
「誰かさんが、夜の相手が困るって言ったからな。一応自重してやろうと思ってさ」
「それは助かります」
「本当に、助かりたかったのか?」
宮本の本音を聞き出すべく、意味深な笑みを浮かべて訊ねた。
「助かりたいに決まってます。「まだ足りねぇ、もう一回!」なんていうループをするのが、目に見えますからね」
「俺、そんなふうに強請ったりしないって!」
「酔ってるせいで、あちこちの感覚が麻痺してるみたいですよ。そういう絶倫もあるんですねぇ」
呆れ顔の宮本を前に、橋本はさっさと諦めて、出された料理に手をつけたのだった。