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「この人に見覚えある?」
「いや知らない……待てよ。そう言われてみるとどこかで見たことがあるような気がしないでもないんだけど。だいたい何なの、その写真は?」
「隆平君が死んだ後、警察でコピーさせてもらった物よ。隆平君の家のすぐ近くの銀行の防犯カメラに偶然映っていたの。この日付と時間をよく見てごらんなさい」
そう言われて俺は写真を手に取り、左下の隅っこに小さく印字されている数字の列を見つめた。そして気づいた。それは俺たちが隆平の家であの殺人鬼に出くわした時から、ほんの二十分ほど前だ。しかも撮影されたのが隆平の家のすぐ近く。という事は……
「まさか、この女の人があの殺人鬼だってんじゃ……」
「その人の名前はね、深見百合子」
「深見……まさか?」
「そう、行方不明になっていた、深見純君のお母さんよ。そしてこの島原はね、百合子さんの故郷なのよ」
そうか! 見覚えがあるような気がしたわけだ。純のお母さんとは直接話したりしたことはなかったが、小学生の頃に授業参観とか運動会の時とか、何度か姿を見たことぐらいはあったはずだ。
じゃあ悟や隆平や、純の遺書にあった俺の小六のクラスメートを次々に殺して回っていたのは、純自身の幽霊じゃなくてあいつのお母さん?
さらに畳かけるように質問を浴びせかけようとする俺を制して母ちゃんが腕時計を見ながら言った。
「まずは駅に戻って電車に乗りましょ。話はその中でゆっくりしてあげるわ。夕方までに長崎市へ行って人に会わなきゃいけないからね」
そういうわけでまたローカル線で長崎市へと向かう。田舎のローカル線でまだ昼間だったから電車はがらがらに空いていた。その座席に固まって座り、俺と美紅は母ちゃんから話の続きを聞いた。
「警察もね、今回の事件では純君のお母さんの行方を捜していたのよ。まあ関係があるかどうかは分からなかったけど、純君の母親なら一応動機はあるしね」
そう母ちゃんは切り出した。
「そして深見百合子さんの実家は隠れキリシタンの家系だったのね。もっとも百合子さん自身はそんな信仰とはもう関係はなかったと思うけど」
それから母ちゃんはまたショルダーバッグから数枚のやや大ぶりな紙を取り出して俺に渡した。白黒の絵をコピーした物のようだ。
「何これ?」
「いいからその順番によく見てみなさい。その順番にね」
またかよ。何が何だか分からないまま俺はその一枚目の絵を見る。ずいぶん古い時代の物のようだ。だが俺は一目見てぞっと身の毛がよだった。ちょんまげ姿の男が太い柱のような物に縛りつけられていた。そしてその柱、腰の高さあたりで二つに分かれて回せるようになっているようで、その人物の上半身と下半身が信じられない程反対向きにねじられている。俺は顔をしかめて思わず母ちゃんに文句を言った。
「なんだよ、こんな時に。こんな悪趣味な物見せて」
だが母ちゃんは妙に真剣というか深刻そうな表情でいつになくきびしい口調で俺に言った。
「いいから、とにかく最後まで見なさい」
俺は仕方なく最初の紙をめくって二枚目に目を落とす。それには大勢の男女が高い崖から突き落とされる様子が描かれていた。崖の底の方からは煙が上がっているように見えた。
「これってひょっとして火山の噴火口?」
「そう。多分この近くの雲仙岳とか普賢岳とかのね」
また母ちゃんが目で促すので三枚目を見る。それはさらにおぞましい絵だった。縛られた男が太い木の幹に槍で串刺しにされている。槍はちょうどへその辺りに突き刺さっていて、よく見るとその人物の足は地面から浮いている。また母ちゃんの解説が入る。
「人間てね、腹の部分を貫かれると即死はしないものなの。何時間も苦しんでゆっくり死んでいく。そういう効果を狙った処刑方法ね」