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四枚目の絵には椅子に縛りつけられた男が描いてあった。その口には馬鹿に大きな漏斗が差し込まれていて侍姿の役人らしき人物がその漏斗に何かをバケツみたいなでかい容器からその人物の口の中に注ぎ込んでいる。湯気が立っているように見えるから熱湯か? 残酷な事をするもんだな。だが母ちゃんの言葉は俺をさらに身震いさせた。
「それは熱して溶かした金属よ。スズとか鉛とか」
五枚目の紙には、藁で出来た蓑を着せられた男が描いてあった。だがその蓑には火がついている。その人物は立ってはいるが熱さにのたうち回っているようだ。また母ちゃんが言う。
「それは結構有名よ。蓑踊りと言うの。苦しんで暴れ回る様子がまるで踊っている様に見えるから、って事でね」
そして六枚目。十字型に組んだ材木に女の人が磔の形で縛りつけられている。どうやら戸外でしかも雪が降っているようだ。
「ひでえな……」
俺はだんだん気持ちが悪くなってきた。
「これじゃ凍死しちゃうんじゃ……」
「だから、凍死させたのよ。どう何か気付いた?」
母ちゃんにそう言われても俺にはピンと来ない。なんだってこんな時にこんな気味の悪い絵を俺に見せるんだ。首をかしげている俺を見て母ちゃんがしつこく訊く。
「細かい部分は忘れて、どんな死に方か、を考えてごらんなさい。特に五枚目と六枚目をよく見てみなさい」
どんな死に方? 俺は目をそむけたくなるのを必死に我慢しながら五枚目の絵をもう一度見た。これは要するに背中に火をつけられて……!
じゃ、じゃあ、六枚目は……磔の格好で凍死……そうか!これは!俺はもう一度一枚目から絵を見直した。一枚目は胴体を捩じられて内臓破裂。二枚目は高い所から突き落とされて。三枚目は胴体を串刺し。四枚目は口から融けた金属を腹に流し込まれて……
「母さん! まさか、今度の連続殺人事件の犠牲者の……」
「そう。全く同じじゃないけど何となく似てるでしょう? 特に悟君と隆平君の死に様はあんた、その目で見たのよね」
「この絵って、何なの?」
「それはね、江戸時代に捕まった隠れキリシタンに対して行われた拷問や処刑方法を描いた絵よ。あたしの大学の資料の中にあったからコピーを取って来たの。どう? あくまで状況証拠にしかならないけど、純君のお母さんがあの直前に隆平君の家の近くにいた。そして深見百合子さんは隠れキリシタンの子孫。そして今回の連続殺人事件の被害者の死に方は全て昔の隠れキリシタンが殺されたやり方にそっくり」
「じゃあ、純のお母さんが自殺に追い込まれた息子の復讐のために?」
母ちゃんは無言でうなずいた。
「で、純のお母さんは隠れキリシタンの妖術とかを使える霊能力者だった……」
だが母ちゃんは今度は大きく首を横に振った。
「そこだけは違うわね。隠れキリシタンの妖術なんて話は、江戸時代に取り締まる側の役人がでっち上げた作り話よ。そもそも隠れキリシタンは争いごとを好まない、ひっそりと生きてきた集団よ。まあ、時の権力者から隠れてキリスト教の信仰を二世紀以上もの間こっそりと守り通したわけだから、それなりに秘密めいた儀式ぐらいはあったかもしれないけどね。でもキリスト教の一派である以上、人を呪う妖術だの呪術だのとは最も縁がない人たちだったはずよ。ただ、これで謎が解けたわ」
「謎?」