カーディガンを脱いで。_
⚠︎nmmn作品
昼休み、特別に鍵をもらっている屋上でカーディガンを脱ぎ涼しんでいると嫌いな君が扉の前にいた。
ごくりと息を呑む。体が動かない。
頭の中が『どうしよう』『こわい』という言葉で埋め尽くされる。指先が震え出す。
一歩、一歩とこちらに近づいてくる。やめて、来ないで、…。
ついに俺と30cm程の場所まで近づいてきた。
しゃがんで座り込む俺に視線を合わせる。
彼の瞳は淡い瑠璃色をしていて自信に満ち溢れている。やめて、その目で俺を見ないで。
彼が口を開く。
どうしよう、また容姿を虐げられるのだろうか。
桃 …
桃 大丈夫?
赤 んぇ、?
思わず間抜けな声を出す。
予想外の一言だった。
優しい音色で本当に心配してくれているのが伝わる。
赤 な、なにが…、
桃 わりぃ、屋上に人いると思ってなくて
桃 赤、体見られんの嫌なんだろ?
赤 へ、
赤 な、なんで知って…
桃 見てたらわかるよw
「わかるものなのか?」と考えたが気にしないことにした。
桃 今見た感じからして赤、体が華奢な方だから隠し たかった感じ?
赤 …うん、
驚いた。そこまで見抜かれていたなんて。
赤 見てて不快でしょ?こんな貧相な体…、w
赤 あは、…っ、
涙が頬を伝う。あーあ、泣くつもりなんてなかったのにな。君もきっとめんどくさいと思っているだろう。
赤 っ…、
でも涙は止まってくれなくて、俯いて静かに涙を流す。
桃 (抱
赤 、!
不意に俺より一回りほど大きい体が俺を包み込む。
彼のぬくもりが伝わる。
赤 …、
嗚呼、暖かいなぁ。優しくて、清純で、…。
こんなことされたらさ…、涙が止まらないよ。
赤 うっ、うぅっ…、…
桃 よしよし、いっぱい泣けー。
彼のぬくもりを感じ、嗚咽を漏らしながら泣く。
数分経ち、気が落ち着いたのでそっと彼から体を離す。
赤 あ、ありがとう…。
桃 どーいたしまして
赤 …ねぇ桃くん
いつの間にか敬語も外れて彼を『桃くん』と呼ぶようになっていた。彼の包容力は俺を安心させてくれる。すごいなぁ、桃くんは。
赤 俺の昔話、聞いてくれない?
桃 もちろん。
微笑みながら応えてくれた。彼の反応に安心しつつ、俺がカーディガンを脱げなくなった原因を語り始める。
ー中学時代ー
あれは中学生のとある夏の日。
俺の人生が捻じ曲げられた日。
中学の時は自分の体のことなんて何も気にしていなかった。だからもちろん、半袖を着ていた。
いつも通り友達と話していた時、とある女子が俺に言った。
『赤って貧相な体してるよねw』
その言葉に便乗して別の男子も
『それな?w細すぎて気持ち悪いまである、ww』
ガツンと頭を鈍器で殴られたような感覚に陥る。
「っ、ぁ…、」
声が出ない。
「な、なんだよそれ〜ww」
頭をフル回転させ、喉を締め上げながら精一杯の言葉を出す。
「笑ったら喉乾いちゃった!俺飲み物買ってくるね」
『りょーかい!』
そう告げて、逃げるようにその場から去る。
「ひゅ、…かひゅっ、…」
うまく息ができない。
『貧相な体』『気持ち悪い』という言葉が俺の頭の中を渦巻く。
『大丈夫?』
誰かにそう声をかけられ、上を向く。
高等部の保健室の先生、青先生だ。
うちの学校は中高一貫だから中等部と高等部で保健室の先生も違うんだっけ。
『ゆっくりでいいから、息を吸って〜吐いて〜』
「はぁっ…ふぅっ…」
「ふー、ふー、」
『落ち着いた?』
「は、はい…ありがとうございます…。」
『保健室いく?』と聞かれたが俺はそこまでの勇気を持てなかったので「大丈夫です、。」と断った。
青先生は『そっか!またしんどくなったら保健室においで!。』と言い、去っていった。
その日から、俺は自分の体を出す事ができない。
ー現在ー
赤 …ってことなんだよね、
桃 そうだったのか。
赤 あは、w
乾いた笑みをこぼす。
こんな話を聞かされて桃くんはどう思っているだろうか。「そんなことで?」と弱い俺に失望したかな。
桃 よくがんばったな。
「がんばったな」と声をかけられる。
桃 自分の体を馬鹿にされて、誰にも相談できなく て、1人で抱え込んでたんだろ?
桃 すごいじゃん。よく耐えたよ。
桃 ほら、おいで?(手広
赤 …!
彼の胸に飛び込む。
桃 えらい。赤は偉いよ。
驚くほど優しく、暖かい声でそう言われる。
もう。さっき泣いたばっかりなのにまた泣けてきちゃうじゃん。
赤 う、うぅっ…、
赤 ばかぁ、もう泣かせないでよ…。笑
桃 え〜?ごめん?笑
赤 あははっ笑
もう泣いてるのか笑ってるのかわからない。
桃 ふは、w
桃くんも笑ってるし、w
赤 なんかもう、よくわかんなくなっちゃったよw
桃 まぁいいじゃん?w
赤 そだねw
涼しい夏風がひゅうっと俺たちの周りを走っている。
俺は心の中であることを決意した。
「カーディガンは、もう俺に必要ないな。」
翌日。
さぁ、学校に向かおう。
カーディガンを脱いで__。
没作です。
コメント
2件
フォロー