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直樹と決別してから三日後に、ミドリのお兄さんが見つかったとの連絡が入った。

けれど、ミドリの家は今後の対応で大変そうで、会って詳しい話を聞くのは無理そうだった。


その話を蓮に伝えると、想像していた以上に強い反応が返って来た。

雪香が戻った時、どうやって受け入れるか、義父は激しく怒るに決まっているから、その辺のフォローはどうするのか。私を相手に、一生懸命考えを語っていた


そんな蓮の姿に、私は内心ため息を吐いていた。

雪香が戻ったら、煩わしいことから解放される。

海藤みたいな危険な人間に脅される心配もなく、安心して過ごせると。


でも、本当にそうなのだろうか。


『そんな性格だから、実の妹の雪香にも嫌われるんだよ』


直樹の言葉が頭から離れなかった。

雪香が戻って来た後、私は元の生活に戻れるのだろうか。

少し離れた場所でこちらに背を向けて電話をしている蓮に目を向けた。


海藤の時は助けてくれたけど、もし雪香と揉めたら蓮は頼れない。

彼は雪香の味方に決まっている。

しばらくして電話を終えた蓮がクルリと振り返った。


「なあ……」


声をかけて来たくせに、なぜかなかなか言い出さない。


「どうしたの?」


蓮が遠慮するなんて、とても珍しい。いつもは、なんでもずけずけと聞いて来るのに。


「……佐伯直樹は、雪香が帰って来たらどうするつもりなのか知ってるか? おばさんに聞いてもはっきり答えないんだ」


蓮は気まずそうな顔をしている。


「お母さんは聞いても答えないの?」

「ああ、今後については話し合ってる途中だとしか言ってくれなかった」

「そう……私は婚約破棄になると聞いたけど、お母さんがそう言うならまだ正式に決まってはいないのかもね」


直樹は話がついたと言っていたけれど、義父と母は納得していないのだろうか。よく分からないけれど、もう私には関係無い。


「沙雪はその話誰に聞いたんだ?」

「え? 直樹からだけど」


そう答えると、蓮の顔色が一気に変わった。


「あいつと会ったのか?」

「うん、数日前に」


蓮は不愉快そうに眉根を寄せた。


「なんで黙ってたんだよ」

「なんでって、蓮は雪香の件で忙しそうだし言い辛くて」

「その雪香に関係してる話だろ?」


蓮は私をジロリと睨みながら言う。言われてみれば確かにそうだった。

でも直樹から聞いた他の話で頭がいっぱいで、報告を忘れてしまった。雪香の婚約破棄は蓮にとっては重要だったのに。


「ごめん、ちょっといろいろ有って気が回らなかった」

「……何かあったのか?」


私は静かに首を振った。


「雪香とは別件……転職とかで」


蓮には直樹から聞いた話を言い出せなかった。

私と雪香が敵対したら、もう蓮とはこうして話す機会もなくなるかもしれない。

そう思うと、寂しさを感じた。


「そうか……転職活動上手くいってないのか?」

「やっぱり難しいよ、でもなんとか探さないとね」

「俺の知り合いに聞いてみるか?」


蓮は顔が広そうだから、頼めば就職先が見つかるかもしれない。でも蓮に頼るつもりはない。


「ありがと、でも自分で探すから」



それから少しづつ蓮と距離を置き始めた。

雪香のことを相談したいのか、何度か連絡が来たけれど、就職活動が忙しいと言い会わずにいた。

初めは不審そうにしていた蓮も、段々と連絡して来なくなった。

その間、私は転職活動に力を入れていた。


早く安定した仕事を見つけて、そして引っ越しをしたい。

今のアパートの部屋はとても気に入っているけれど、駅から遠いし周りの環境も良いとは言えなかった。

それに秋穂や海藤に住所を知られているのも不安だ。

この住まいから離れて、不安を無くし新しい気持ちで生活を始めたかった。



仕事帰り、アパートの郵便受けに入っていた白い封筒を目にした私は、大きな溜め息を漏らした。

差出人は数日前に面接を申し込んだ会社だった。中を見なくても内容は予想がつく。

不採用通知だ。また駄目だったのだろう。

暗い気持ちで部屋に向かおうとすると、背後から肩をたたかれた。

思わずビクッとして振り返った先には、三神さんが佇んでいた。


「あ……三神さん」


驚いた、人の気配なんて少しも感じなかったのに……ドキドキとする胸を押さえながら、なんとか笑顔を作る。


「倉橋さんも今帰り?」


三神さんは屈託の無い笑顔を向けてきた。


「はい」

「そうか、最近は早いんだね」

「ええ、今の時期残業も無いので」


それだけじゃなく、蓮に会わなくなったからだけれど、わざわざ言う必要も無いので黙っていた。

アパートの外階段をゆっくりと上がる途中、ふと思いだした。


「三神さんってよくクラッシック音楽聞いてますよね、あれはなんて曲なんですか?」


純粋な好奇心だったのだけれど、一瞬三神さんの表情に陰が出来た気がした。

もしかして、聞き耳を立てていると思われた?

失言だったかと慌てていると、三神さんが穏やかな声で問いかけて来た。


「倉橋さんはあの曲知らないのかな?」

「あっ……はい。クラッシックは殆ど聞かないから、でもどこかで聞いた気もするんです」


三神さんの様子にとくに変わりはない。良かった気のせいみたいだ。

今日は本当に神経が敏感になっている。


「……有名な曲だからどこかで聞いてるんだろうね」


三神さんは前を向いたまま呟き、自分の部屋へと入る。結局、曲名は教えてもらえなかった。




それから二週間後、二つの知らせが入って来た。

一つは面接を受けていた会社からの採用通知。


そしてもう一つはミドリからで、お兄さんと雪香が戻って来たという知らせ。

ふたりは何日か前に戻って来ていて、取り調べを受けていたそうだが、雪香は横領に関係ないと判断されて今は家に戻って来ているという。


「知らせてくれてありがとう」


ミドリにお礼を言い、電話を切った。

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