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昼休み、チャイムが鳴ったあとも教室にはざわつきが残っていた。
「なぁ、内藤?だっけ…放課後ちょっと来てくれん」
その言葉に、教室の空気が一瞬だけ止まった。
いふ、この学校で名前を知らないやつはいない。不良と有名で、毎日だるそうに制服を着崩して、よく教師と揉めている。そんな彼が突然、俺に話しかけてきた、
俺は戸惑いながらも、静かに『…わかった』と頷いた。
放課後、校舎裏の静かな場所。
猫宮はポケットに手を突っ込んだまま、壁にもたれかかっていた。タバコの匂いはしない。でも少し意外だった。
「来てくれてありがとな」
猫宮はそう言って、少しだけ顔を赤くした。
「…あのさ、いきなりかもしれんけど…俺、好きなんや!お前が、」
俺は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
だけど猫宮の目は、冗談じゃなかった。ふざけてるようなニヤつきも、視線を逸らす気配もなかった。
『…ごめん、なさい。まだ君のことわかんないし不良…なんでしょ?」
少しの沈黙のあと、ぽつりと呟く。
『悪い人だって思ってるわけじゃないよ。でも…何されるか分かんなくて怖い。』
彼の言葉は、嘘じゃなかった。けど、それがどれだけ相手を傷つけるかも、わかっていた。
告白して、振られて。
それだけのことなのに、あの日から胸がずっと重たい。
放課後の帰り道。俺は自販機の前で立ち止まり、ポケットの中に入れていたタバコをゆっくり取り出した。
「…いらんよな」
呟くように言って、それをゴミ箱に放った。
何も変えずに、誰かに好かれようなんて、都合よすぎたんだ。
不良として生きてきて、教師に逆らって、授業もサボって、校則なんてただの飾りだった。
でも⸺あいつにだけは、見透かされてた。
「俺が不良やから…か」
ないこが言った“怖い”という言葉は、嫌いじゃなかった。
正直で、まっすぐだったから。
「だったら、変わるしかないやろ!」
そう決めた。
──翌朝。
猫宮が教室に現れた瞬間、空気が一瞬止まった。
制服はちゃんと着てる。ネクタイも締めてる。髪もおとなしくなってる。
いつもより少し早く登校してきて、黙って席についた。
ど、どうしたの…急に
担任も、クラスメイトも、ざわついていた。
それでも猫宮は、何も言わずに窓の外を見ていた。
昼休み。屋上でタバコを吸ってた連中のところへ、猫宮が現れた。
おい、いふ!どこ行ってたんだよ。今日は来ねぇのかと思ったぜ
仲間のひとりが笑ってタバコを差し出してくる。
猫宮はその煙草を受け取らず、静かに言った。
「俺、もう吸わんから」
…は? なに言ってんだよ
「本気で好きになったやつがいるんや。やから、変わりたい」
誰かが笑い出した。けど、猫宮は笑わなかった。
「笑いたきゃ笑え…けど俺はもう、今までみたいなこと、やらんから」
その場をあとにして、階段を降りるとき、俺の手は少しだけ震えていた。
かっこ悪くてもいい。笑われてもいい。
だけど、ないこにもう一度向き合える男になりたい。
あのときの「怖い」は、きっと終わりじゃない。 「まだ、今のままじゃ無理」ってことだと、勝手に思ってる。
本気で、あいつにふさわしい男になってやる。