テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
教室の隅でふいに耳に入ってきた。
俺は、ノートを取りながら聞き流すつもりだったけれど、耳にこびりついて離れなかった。
猫宮、最近やけに真面目じゃね?内藤のこと狙ってんだろ
マジで?あれ、ただの遊びだって~
振られて本気になったフリで、あとで笑いもんにするつもりなんじゃね?
…バカなことを。
猫宮は黙って席を立った。何も言わずに。だけど、その顔は少しだけ強張っていた。
猫宮が最近、変わろうとしていることは確かだった。
制服をちゃんと着て、授業にも出て、昼休みも騒がずに本を読んでいる。
まるで、自分の知らない誰かみたいに。
けれど、それを見て「本気かもしれない」と思い始めていた矢先、
周りは「どうせすぐ飽きる」と、あっさり笑い飛ばす。
気づけば放課後、俺は猫宮の姿を探していた。
校舎裏に行くと、そこに彼は静かに座っていた。制服の袖をまくりながら、風に髪をなびかせている。
「あ…内藤?」
『ないこでいいよ、』
「なら、俺のことも。まろって呼んでほしい」
『うん、わかった』
顔を上げた。その声は、少し嬉しそうで、少し戸惑っていた。
『…最近、変わったよね』
「んー、変わろうとしてる…ってのが正しいかもな?」
『どうして?』
まろは少しだけ黙ったあと、まっすぐに目を合わせた。
「もう、怖いとか、近づきたくないとか、思わせたくないんや」
『でも、みんなはまろが遊びでやってるって言ってるよ?』
「…そう、だよな」
「まぁ、今までが今までだしな。信じろってのが無理あんのは、わかっとる」
俺は何も言わず、まろの隣に座った。沈黙が少しの間流れたあと、彼が小さく呟いた。
『…まだ、全部信じられるわけじゃない。でも、見てみようとは思ってる』
いふが少し目を見開いて、それから小さく笑った。
「そっか、ありがとうな」
その日から、ふたりの距離はほんの少し、確かに近づいた。
→♡300
コメント
1件
不良だった青さんが恋して丸くなっててるのかわいすぎました めちゃくちゃ最高でしたありがとうございます