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パーカーのフードを使う機会がなくて困ってる。フードというものは、外でかぶるとなんか不審で嫌だし、家で帽子をかぶると将来毛が薄くなる、などというからフードもダメなんじゃねって思っちゃってかぶれない。僕にとって用途のないこのパーカーのフードは、そのデザイン以外になにか魅力があるのだろうか。
なんで僕がこんな事を考えてるかと言うと、たった今好きだったえーりという女子に告白して振られて少し現実逃避し、一周回って服装に問題があると思い、パーカーのフードの責任にしようとしているのだ。なんとも情けない。
メールが来た。友達のたかしからだ。彼は僕が今日告白したことを知っている。「成功したか?」と聞いてきたので、「だめだった」と返す。そしたら、「じゃあカラオケいこうぜ」と言ってきた。現在午後三時なので、僕は承諾した。僕を慰めようとしているのかもしれない。彼の優しさに甘えよう。
たかしはカラオケ屋の前にたっていた。なにやら目が赤く、聞くとそれは花粉がきついからだという。ちょうど秋だから、花粉により僕も鼻水がたくさん出ていた。よって、僕は鼻声で歌うこととなった。
今日の彼はやけにおしゃれだった。服装もばっちし、髪型もがちがち。どこかにデートにでも行ってきたかのようだ。そういえば、彼女がいると言っていた。じゃあ午前中は一緒にいたのかもしれない。
たかしが話し始めた。「このシャツって、かっこいいか?」彼は着ているシャツを見せてくる。「ああ、似合ってるよ」僕は言う。実際彼の雰囲気にあっているようにみえたし、秋っぽさも感じられていいと思う。
その事を彼に伝えると、「秋っぽさねえ。まあよかったぜ」と返された。
少し経って、たかしは急に真剣な面持ちになった。
「俺、今日彼女に振られた」
彼は涙ぐんでいた。僕は全く気づいていなかった。なんとも鈍感だ。
「え、なんというか、大丈夫?」
返す言葉がない。自分がそんな状況なのに僕を慰めるためカラオケに誘うなんて。気づけなかった僕はやはり、気づけない男なのだ。申し訳ない。
「大丈夫、大丈夫だ。ただ、後悔はあるんだ。もっと色々できた、って思う。でも最後の言葉があれはな、少し応えるぜ」
「なんて言われたの?」
「私って、飽きっぽいの」
なかなかすごいことを言ってくる彼女だ。そして僕はさっき彼に秋っぽいと言ってしまったことを悔やむ。傷つけてばかりじゃないか、と。
「僕ばっか慰めてもらって、お前のほうがやばそうじゃないか。ごめんな」
「いやいいんだ。俺にはお前みたいな友達がいる。振られても、一緒にカラオケに行ける。俺は恵まれてるよ」
なんと優しいやつなんだ。僕は感動で泣いてしまった。僕らはそこからずっと歌い続けた。僕は彼に話し始めた。
「なあ、パーカーのフードって何のためにあると思う?」
「えー、そんなの簡単じゃないか 」
僕が悩んだ問題を、さも簡単そうに言ってくる。彼は言った。
「使い道は2つもあるぞ。一つは、お前がピンチの時にフードになにか長い棒を引っ掛けて助けられる。2つ目は、フードの中になにか入れられる、だ」
少し期待したが、どちらの使い道もほとんどなさそうだ。やっぱり僕にはフードは使えないのか、と思い、おもむろにフードの中を探った。すると、なにか手に当たるものがあった。
「なんだこれ。紙?」
中には、電話番号がかかれた小さい紙が入っていた。右下に小さく、「えーり」と書いてあった。僕は少しびっくりして頭が回っていない。たかしもその紙の表すものに気づいたようで、彼は言った。
「ほら、使い道あるじゃねえか」