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結局、彼女の方がこっちに来ることになった。もちろん、こんな夜更けに家に呼ぶわけにいかないから、近所の公園で待ち合わせることにした。いつか葛城陸や本条雅人と遭遇した場所。
彼女に会う前に僕にはすべきことがある。そうかといって直接会ってそれを伝える勇気のない卑怯な僕は、SNSのメッセージでそれを伝えた。
彩寧さん、ごめんなさい
あれだけ念押しされたのに約束を守れませんでした
これから彼女と二人で会います
おそらくよりを戻すことになると思います
彩寧さんにはどれだけ謝ってもすまないことをしました
本当にすいませんでした
もしかしたらこうなることを予期していたのかもしれない。間髪入れずに音声通話の着信音が鳴った。
「夏梅です。こんなことになってすいません……」
「まだ謝らないで! 言ったよね。君は霊山寺さんに恐怖心を植えつけられて、絶対に逃げられないと思い込んでいるだけだよ。私が魂の牢獄から君を救い出してあげる。すぐに行くから、私が行くまで待ってて!」
彩寧さんの言う通り、僕は見えない鉄の鎖に繋がれているだけなのだろうか? 運命の赤い糸のようなものだと思えば、そう悪いものでもなさそうに見える。でも赤い糸なら僕の意思で断ち切ることもできるが、鉄の鎖ならあきらめて繋がれたままでいるしかない。
結局、彼女との待ち合わせ場所は近所の公園ですと彩寧さんに教えてしまった僕は、どうしようもなく優柔不断で未練がましい男なのだろう。二兎を追う者は一兎をも得ず、という最悪のフィニッシュになる予感しかしなかった。