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「それでは本番、3秒前──」
スタジオに緊張感が走り、照明がぱっと灯る。
モニターに映る自分たちの姿。
その中に、何年も前から憧れてきた“あの人”と肩を並べる自分がいた。
「今日はゲストに、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴さんをお迎えしました!」
「よろしくお願いしまーす」
お決まりのやり取り。
笑い合うように自然に進む収録。
横に座る二宮和也も、テレビで見てきたままの優しいトーンで話しかけてくる。
「いや〜、大森くん、最初ほんっとに緊張してたよね? 楽屋で“え、ほんものだ…”って呟いてたもんね」
「うわ、バラされてる……!」
笑いが起きる。
共演者もスタッフも、和やかなムード。
でも、元貴の胸の奥は少しずつ熱を持ち始めていた。
(やっぱりこの人、すごい)
視線の使い方、話し方、間の取り方。
どれも、数十年にわたって積み重ねてきた“表に立つ人間”としての凄み。
けれどそれ以上に、言葉の端々から垣間見える“駆け引きの癖”が、
元貴には妙に気になって仕方がなかった。
「でさ、“Soranji”って、ほんとにいい曲だったよね。
あれ、正直初めて聴いた時、ちょっと泣きそうになったもん」
「ありがとうございます。すごく、嬉しいです……!」
嬉しい。
それなのに、なぜだろう。
その笑顔の奥に、なにか他の意図が見え隠れしているようで――
(……この人、笑ってるけど、俺のこと“見てる”)
ただの共演じゃない。
ただのコメントでもない。
ほんのわずかに言葉を選ぶ間、それに込める温度――
そのひとつひとつに、元貴の神経はピリピリと刺激されていた。
けれど、それを表に出すわけにはいかない。
あくまで自然に、優しく、プロとして。
そのスタンスを崩さずに、カメラの前で微笑む。
「はいカットー! お疲れ様でしたー!」
スタッフの声と同時に、照明が少し落ちる。
一気に空気が緩む。
「ありがとうございました!」
「お疲れ様でした〜」
共演者やスタッフたちが順にスタジオを後にする。
収録は無事終了。
元貴も立ち上がり、台本を軽く抱えて、出口へと歩き出す。
すると――
「大森くん」
背後から呼ばれて、振り返る。
「……?」
瞬間。
壁に背を押しつけられた。
「っ……」
距離が、近い。
目の前には、さっきまでと同じ笑顔。
……のはずなのに、どこか雰囲気が違った。
二宮和也。
その眼差しは穏やかさを装いながら、明らかに――挑発している。
「びっくりした?」
「……何、してるんですか」
「いや、なんとなく。
……収録中さ、俺のことちょっと意識してたでしょ?」
「……っ、してません」
否定しながらも、視線を逸らせない。
この距離感。
この静かな空間。
照明もカメラもない場所で、突然“仕掛けられる”感覚。
「へぇ。じゃあ、俺のこと意識させるには……どうしたらいいんだろう?」
「……っ」
耳元でささやかれるような声。
それだけで、ぞくりと背筋が震える。
「もっと近づいたら、君の反応、変わるかな?」
「……試します?」
口に出た瞬間、
二宮の目の奥が、わずかに揺れた。
一瞬の沈黙。
そして──
「……面白いね、君」
声のトーンが、ほんの少しだけ甘くなる。
「じゃあ、近いうちに“続きを”やろうか」
そのまま、何事もなかったかのように笑って、
二宮はふっと体を離す。
「また会おうね、大森くん」
スーツの裾を軽く整えながら、
背を向けて歩いていく姿は、まるで何もなかったかのよう。
けれど、元貴の心臓は――
さっきより何倍も速く、熱く、鼓動していた。
(……俺も、逃げるつもりなんてない)
次にまた会った時、どっちが先に“仕掛ける”か。
その戦いが、今始まったばかりだった。