テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
校庭には夜のざわめきが広がっていた。
ステージでは軽音部が最後の曲を演奏し、出店は片付けに入っている。それでも人は多く、夜風に混じる焼きそばの匂いがなんだか懐かしい気分にさせる。
「後夜祭って、こんなに人多いんだな」
「…先輩、去年も来たんじゃないんですか」
「去年は出店の手伝いで潰れたんですー」
そう言いながら、私は金魚すくいの横を通り過ぎる。隣には二口。
さっきまでクラスの打ち上げ準備で走り回っていたのに、いつの間にか私の横にいるあたりがずるい。
「で? なんで俺と一緒にいるわけ?」
「いや、たまたま方向一緒だっただけですけど?」
「ふーん」
鼻で笑われて、少し腹が立つ。でも…どこか落ち着く。
歩いてると、後ろから声をかけられた。
「○○ー! 打ち上げ、もう始まるってー!」
振り返ると、クラスメイトが手を振っている。
「じゃ、もういきます」
返そうとした瞬間、二口が私の腕を軽く掴んだ。
「後で行けよ。今はまだ人混み見とけ」
「は?なんで」
「さっきからステージの照明すげーから」
理由は雑だけど、掴まれた手を振りほどくのも変な気がして、そのまま歩くことにする。
校庭中央に着くと、ステージからの光が夜空に映え、まるで夏祭りのようだった。
「ほら、あそこ花火やるらしいぞ」
「花火?」
「後夜祭のラストイベント」
二口はポケットからスマホを出して時間を確認し、空を見上げる。
曲が終わった後、夜空に大きな音が響く。花火だ。
色とりどりの光が弾け、消える。
横で二口が口を閉じて空を見上げている。
その横顔が、なんだか…不意に胸に響いた。
「……」
「何だよ」
「別に」
「いや、何だよ」
「花火、似合わないなって」
小突かれて笑いそうになる。でもその後、二口がふっと笑って、ぼそっと言った。
「似合わなくていいよ。お前が楽しそうなら」
──心臓、びくり。
予想外すぎる言葉に、私の顔が熱くなる。
「……な、なんですかそれ」
「何って、言っただけ」
「ずるい…!」
思わずツッコむと、彼はまた口角を上げて笑った。
そのまま二人で屋台を見ながら歩く。
「これ食べる?」
「うーん…じゃあ、たこ焼き一個ください」
「は? 一個って」
「味見だよ、味見」
「…まぁ、いいや」
たこ焼きを半分に割りながら、二口は私の分を取り分けてくれる。
「ありがと」
「別に」
でもその“別に”に、どこか優しさが混じっているのが分かる。
…だから余計に心臓が変な動き方する。
花火は続き、夜空が色とりどりに染まる。
私たちはしばらく無言で見上げる。
人混みのざわめきも、後夜祭の熱気も、すべて遠く感じた。
「なぁ、○○」
「はい」
「明日も、少し会うか?」
「は?」
「ほら、後夜祭の余韻でも…」
一瞬、胸がざわついた。
距離感はまだ友達のままのはずなのに、言葉の端々に妙にドキッとさせられる。
「わ…分かりました。…でも先に帰りますよ」
「無理に付き合わせるつもりはねぇ」
それでも二口は私と同じ方向に歩きながら、さっきより少し距離を詰めてくる。
歩幅を合わせるだけで、心臓のリズムが勝手に乱れる。
──校舎の出口に着くと、二口は軽く笑った。
「じゃ、また明日な」
「はい…」
振り返らずに歩き出す二口の背中を見ながら、私はそっと息をついた。
後夜祭の夜空の下、ちょっとだけ距離が近くなった気がして。
そして、なぜか胸がざわつく。
(…これから、どうなるんだろう)
甘さはほんのり、じれじれはじわじわ。
二口堅治との関係は、まだ始まったばかりなのに、確実に少しずつ変化している――そんな予感がする夜だった。
コメント
7件
今回もめっちゃ最高……。続き待ってます!
初見です!よければ続きお願いします!
この夢小説全然伸びなくて、消そうか迷ってます💧