コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
小説 「 最後の夏、君と 」
20△○ . 8月 28日
扉を開ける音が聞こえ、足音がこちらに近づいてきた。開けますね、と声がして、僕を覆っているカーテンが開かれた。
「大丈夫ですか?ご飯持ってきましたよ」
そう言って看護師さんは、僕の机の上にご飯を置いていき、病室を出ていった。
何日、何ヶ月これを食べたんだろう。このご飯は味が無く、まずくて吐き気がする。
僕はご飯を食べず、ベッドに寝転び天井を見た。何日、何週間、何ヶ月、この景色を見たんだろう。相変わらず白く、少し汚れている天井と、1つの照明が僕を見詰めてくる。
僕は寝転ぶのをやめ、窓の外を見詰める
少しづつ太陽が沈んでいき、家に電気を付けている所も増えていっている。
僕はそれをただ、見つめているだけ
「今日は、来てくれなかったな」
そんな言葉を1人ぼそっといい、窓に手を触れる。今日はあの優しい声を聞くことは出来ないだろう。僕は何も出来ない。ただ奇跡的に生きているだけだ。こんな人間が生きている価値などあるのか、分からない。誰かに対しての僕の感情は、もう僕にはない。
でも、1人だけ僕の素を見せれる、その人だけに感情が湧く人がいる。
ぽちゃん、ぽちゃん、と何かが聞こえてきた
ふとそちらの方を見ると、窓に水が付いていた
雨だろうか。そういえばテレビのニュースで、今日は夕方から雨が降るとか言っていたかな
雨が降ると窓は曇るので、窓を見るのを諦め、また寝転がり、天井を見詰める
もしかすると、あの人が来てくれるかも、と少し期待していた僕がバカだった。
あの人は雨が好きじゃない。
もう今日は会えないのか、と目を閉じたその時
病室の外から、 コツ、コツ、コツ、と靴のようなもので歩いている音がしてきた
段々とこちらに向かってきている音がし、やがて僕の病室の前でその足音は止まった
そして、扉を開ける音がして、こちらに足音が近づき、「開けるね」とあの優しい声がしてカーテンが開いた。「……!!!」僕は嬉しかった。
「遅れてごめん…なおきりさん。」名前を呼んでもらえた。あの、大好きな声で。……でも、よく考えるとおかしい。なんで、雨が嫌いな人が僕の目の前にいるのか。「ゆあんくん、なんで、雨なのに僕の所へ…?」恐る恐る聞いてみた。
「そんなの決まってんじゃん。大好きな人の所へ毎日行くのに、雨なんかに怯えてたらだめでしょ?」……あぁ、好きだ。本当に好きだ。僕はこういう所が好きなんだ。「…うれしい」僕は素直に答えた。だって、大好きな人には嘘をつきたくない。「今日も会えて、良かった」僕は少し照れながら、ゆあんくんの顔を見た。「…ほんと、可愛いね」ゆあんくんはいつもいつも、僕に”可愛い”と言ってくる。毎日言われているはずなのに、言われる度に照れてしまう。ゆあんくんは机を見るなり、僕に行った「……ご飯食べてないの?」そういえば、食べてなかった。まずいと分かっている分、食べる気にはなれなかった。
「食べてない」そういい、僕は顔を横に逸らした。「食べないと栄養取れないよ?」たしかに、僕は食べれるものが限られている以上、このご飯を食べないと生きて行けなくなることになる。「……じゃあ、食べさせて?」そんなわがままが通じるわけが無い。数秒の沈黙の間が空いた。「、やっぱ何でもない…」期待しすぎた。僕ってすぐに突っ走ってしまう。「…」ゆあんくんは何も言わず僕のベットの横にある椅子に座り、スプーンをもち、ご飯をすくい僕の顔の近くまで持ってきた。「ほら、あーん。」その時、僕の心臓は飛び跳ねた。まさか、本当に食べさせてくれるなんて。「…ん、」僕は遠慮なく食べた。なぜか、ゆあんくんの食べさせてくれるご飯は、いつもと違う味がした。
「……ご馳走様」いつぶりだろうか。ちゃんとご飯を残さず食べれたのは。これも全部全部、ゆあんくんのおかげ。「偉いじゃん」そう言ってゆあんくんは僕の頭を撫でてくれた。あの暖かく、僕より少し小さな手で。凄く頼もしかった。「俺、そろそろ行くね」そう言ってゆあんくんは立ち上がり、それと同時に少し寂しそうな顔を見せた。「ぁ…はい」僕も同じで、少し俯き、泣きたい気持ちをぐっと堪えた。「あ、最後にこれ。」そう言って何かを置いて、「じゃあね、また明日」 「……大好きだよ」そう言ってカーテンを閉め、病室を出ていってしまった。ゆあんくんが出ていったあと、僕はやっぱり泣いてしまった。寂しい気持ちが込み上げてきて、涙が止まらなかった。でも、最後にゆあんくんは何かを置いていった。なにを置いたんだろう。と置いた方に視線をやった。「……え?」そこには、2本の青い薔薇と、赤い薔薇が、花瓶に刺さっていた。「これ…僕の好きな花。」綺麗な花だった。花がちゃんと咲き、雨に濡れたのか、少しだけ水が付いている。それが逆にエモさを見せた。「…ぇへ、」やっぱり、好きだなあ。
そう改めて思い、僕は寝転び、そのお花を見ながら眠りについた。
20△○ . 8月 29日
朝目覚めると、朝食が置いてあった。
昨日はまずいと感じなかったご飯も、今日一人で食べるとまずく感じた。今日もご飯を残してしまった。やっぱり、寂しい。
そう思いながら、僕は窓の外を見詰める。
昨日雨が降ったからなのか、水の水滴が窓に付いて、跡が残っていた。窓から見える景色は、そこまでいいとは言えないけど、奥に海が見える。そこは、よく僕とゆあんくんで行った場所。そして、ゆあんくんに”告白”して貰った場所。大事な大事な思い出の場所だ。
あの日を思い出したら、少し涙が出てきた。
綺麗な満月。夜空の下で「月が綺麗ですね」と言われ、告白された。あの時の事を、僕はいつまでも忘れない。いや、”忘れられない”、か。
ふとゆあんくんの事を思い出すと、涙が少し込み上げてきてしまう。なんでだろう
僕の病室にはテレビが着いている。朝から夜まで付いているから、いつも暇な時よく見ていた。今日は何がやっているんだろう、そう思いテレビに視線を向けた。内容はお笑いだった。僕は別にお笑い系は好きではない。だから「なんだ、つまんないの」と思い、また視線を窓に向けた。今日は昨日と比べてとっても天気がいい。雲と雲の間に太陽があり、導かれているような感覚になった。……そっか。僕も、あと”2日”か。思ったより早かったなあ、、この事はゆあんくんに伝えてないけど…大丈夫かな。ゆあんくんにはただの病気としか伝えてないからな、笑ごめんね、これだけは嘘をつかせて欲しい。
僕はまれにないある”病気”を持っている。
「アラメレト病」というものだ。これは治すことが出来ない。そして、何も感じず、少しづつ感情を失っていき、眠っても眠っても必ず悪夢を見てしまう。そして、最後には”死”を迎える。僕は残酷な病気にかかってしまったのだ。
ごめんね。ゆあんくん。そう心の中で唱えたあと、僕はくらっとし、眠りについた。
「あれ、ここどこ?あぁ、夢の中か……」
「真っ暗の中をただ、歩いているだけの夢…?」
喋れない、何も出来ない、ただ歩くことしか出来ない…何この夢、不気味が悪い。変な悪夢だ
しばらく歩いていると「……え?何かある、」真っ暗の中に2人の人型らしきものがたっている。近づくと段々何か分かってきた。あれは人。でも誰だ…?恐る恐る近づいてみる。「…え?」これは…僕と、ゆあんくん…?何してるんだ、こんなとこで…?ちゃんとよく見てみると、「喧嘩、してる?」何も聞こえないが、言い争っているような事をしている。え?ゆあんくんが…僕のことを殴ってる?しかも、あっちの僕がゆあんくんに反抗してる、?……あれ、なんで、動けない、今すぐこの場から逃げたい。こんな事をゆあんくんはしないと分かってるけど、怖い。怖い。怖い。もうこんな喧嘩見たくない。でも動けない。目も閉じれない。……数分たっただろうか。喧嘩がエスカレートしている。見たくない。僕は泣きそうになっていた。でも、ここでは何も出来ない。涙すら流すことが出来ない。ずっとずっとゆあんくんがあっちの僕のことを殴っている。僕も気絶寸前になっていて、吐き気がした。その時、ゆあんくんがポケットから何かを取り出した。「……?!」包丁だ。包丁で何しようと……そう思った数秒後、グシャッ、という音と共に、ゆあんくんがあっちの僕のことを刺していた。そして飛び散る血。「…!!」その時、動かなかった体が急に動いた。それと同時に僕は泣いた。何度も何度もゆあんくんはあっちの僕を刺している。動かなくなるまで。そしてあっちの僕が動かなくなった時、ゆあんくんは僕のことを見てきた。そして、包丁を持ちながら僕の方へ走ってきた。僕は怖くなり、がむしゃらに逃げた。逃げても逃げても追いかけてくる。あの優しいゆあんくんはどこへ?どうしてこんな悪夢を見ないといけないのか。僕は必死に走って、走って走ってあのゆあんくんから逃げた。本物のゆあんくんはどこ?怖いよ。助けて。その時、遠くに白いドアが見えた、。「…き_さん、」ん…?ドアの方からゆあんくんの声がする。あの優しい声が。もしかするとあそこに行くと夢から目覚めるかもしれない。あのゆあんくんはまだ追いかけてきている。いち早く夢から目覚めないと、目覚めないと……!!「…おきり、さん」早く、早く、ゆあんくんの元へ……!!そういい、ドアの先へ走った__。
「ん、ゆぁん、くん……?」そして僕はやっと夢から目覚めた。起きた時にはもう、夕方だった。「なおきりさん…大丈夫?」「え…?何がですか、?」「いや…なんか、すっごく魘されてたから…」あぁ、そっか。あんな悪夢見たらそうなるか。「…大丈夫ですよ」そんな訳が無い。さっきまで今目の前にいる大好きな人に殺されかけたんだから。「…そっか。」でも、ゆあんくんはそんな事しない。そうに決まってる。「ねえ、ゆあんくん。」聞かなきゃ。「…どうしたの?」「僕のこと…本当に”すき”?」本当は、聞くのが怖かった。でも、聞かないと、何も分からない。「……愛してる」…!それは、反則だって、笑「…ありがとうございます」そっか。そうだよね。僕はゆあんくんに愛されてるんだ。溺愛されてるもんね。そうだよ。ゆあんくんがそんな事する訳ないもん。「どうしたの急に笑」「なんでもないです」「寂しくなったの?」「…!ち、違います」こうやって、何気ない会話がずっと続いたらな。そう思いながら今日はゆあんくんと1時間くらいお喋りをした。久しぶりに沢山喋れて、僕は心が満たされた。「あ、そろそろ時間だ」ゆあんくんが時計を見て言った。もうそんな時間か。早いな…。「ばいばい、ですね、」寂しかった。もっともっと、話していたかった。「…なおきりさん、」名前を呼ばれたから、ゆあんくんの方に顔を向けた。「どうしました……」僕が言葉を喋り終える前に、ゆあんくんは僕に唇を寄せてくれた。それも何秒も。何秒たっただろうか。口を離して、「また明日」と言い残し去っていってしまった。キスなんていつぶりだろう。久しぶりにしたキスは甘く、熱く、優しい口付けだった。…本当に、不意打ちが得意だね。ゆあんくんは。そういい。僕はまた、眠りに落ちた。
20△○ . 8月 30日
今日目覚めたのは午前の9時だった。今日もまた悪夢を見たからだ。でも、もう悪夢を見るのはあと数回。だって、僕は8月31日に、死んでしまうから。ゆあんくんに会えるのも、あと2回。最後に、伝えなきゃ。ね……笑
でも、伝える勇気が出てこない。だって、ゆあんくんはそんな事言ったら俺もとか言いそうだし…ゆあんくんには迷惑かけたくないからな…。
…明日来た時に、伝えよう。明日は最後の日だから、外出が許されてる。ゆあんくんと久々にお外行こう、最後の日としてね…笑
最後は愛する貴方と過ごしたいから。
今日も窓の外を見詰めた。今日は昨日と違い曇り、僕があんまり好きじゃない天気だ。
あまり良い気分じゃない時に、朝食が届いた。
最悪だ……と思いながら仕方なく朝食を食べた。
本当にまずい。ゆあんくんに食べさせてもらった時にまずいと感じなかったの、なんでだろう?そういうゆあんくんの力なのかな……?
僕、凄い人と付き合っちゃったかも笑
僕に告白してくれて、惚れてくれてありがとう
だいすきだよ。そう心の中でいった。そしてゆあんくんに食べさせてもらっているように心の中で思いながら朝食を食べ終えた。
「……ゆあんくん、今日まだ来ないのかな」
今はもう昼過ぎ。今日はこの時間帯に来てくれるはずなのに……。まだなのかな?
そう心配しつつ、外を見ながらゆあんくんの事を考えた。僕が死んだ後、ゆあんくんはどうするのかな。一緒に死んじゃわないよね?でも、もし僕以外の人と付き合ったらどうしよう……僕が死んだ後に、ほかの人と付き合って、僕のことなんか忘れちゃったり……いやいや、深く考えすぎか。僕は、ゆあんくんを信じてるから。
ゆあんくんは、他の人とそんな事しない。
僕は、いつまでもゆあんくんを信じるよ、そして、いつまでもあっちで見守ってるよ。
ゆあんくんは優しいし、かっこいいから、女の子とかにモテちゃったりするかもしれないけど、絶対にゆあんくんは浮気なんかしない。
ゆあんくんは僕のことを愛してくれてる。溺愛してくれてる。僕のことしか見なかった。この付き合っている期間、何一つゆあんくんは他の人に好意を示さず、僕だけを見てくれてた。
あの優しくて、かっこよくて、僕が大好きな人がそんな事するわけないから。信じてるから。
ゆあんくん、僕は出来ることなら、貴方とこれからもずっとずっと一緒に居たかった。許させるなら、「結婚」だってしたかった。でも、その願いはもう叶わない。僕が生きれるのは今日を合わせてあと2日。もう無理なんだよ。
僕とゆあんくんは運命の人じゃ無かったのかもしれないね。でも、それでも、運命じゃなかったとしても、僕はゆあんくんの事を愛し続けるよ。いつまでも、どこまでも。
そんな事を考えてたら、頭が急に痛くなってきた。「ぅ’ッう……」頭を抑え、置いてある薬を飲み、耐える。「いだ”、ぃッ…よぉっ…’」ゆあんくん、助けて。痛い。怖いよ。消えたくない。
声を発する度に、痛みは酷くなってきていた。
「ぉ”え、ッ……’」口を手で抑え、気持ち悪さを無くそうと我慢する。でも、今何かを吐き出してしまった。恐る恐る手を見た。「…え?」そこには、血が付いた手が目に映った。ああ。僕ってやっぱり死ぬんだな。そう実感できた。
やっぱり僕は死ぬ運命。きっとそうなんだ。
そう思うと、やっぱり悔しくて泣いてしまった
僕の「ずっとゆあんくんと一緒に居たい」というわがままは神様は聞いてくれないのだ。
「ゆあんくん……」そう、大好きな人の名前を唱え、僕はまた、深い眠りに落ちた。
「…はッ、」やばい、寝すぎた。今何時だ?
午後4時…また長い長い悪夢を見てしまっていた。もうやだよ。こんな悪夢見るんだったら、死んだ方がマシ……。ゆあんくん……。
「…今日は、ゆあんくん来てくれないの、?」
まだ来ない。遅い。おかしい。昨日は昼過ぎに来てくれると言ったはずなのに。……もしかして、なにかったの?ゆあんくんの身に何かあったのかも知れない。どうしよう。行きたい。ゆあんくんの元へ行きたい。会いたい。でも、僕の体は動かない。神様、お願いします。ゆあんくんと合わせてください。心の中で何回も何回も唱えた。ゆあんくんが心配で心配。大丈夫なんだろうか。また、心配で泣いてしまった。
その時、いつものあの靴の音、コツコツコツ、とこちらに向かってくる足音が聞こえた。
カーテンが開けられ、そこに居たのは、やっぱり。あの大好きな大好きな「ゆあんくん」だ。
「ゆ、ゆぁ…んっ、く」そう涙目で問いかけた。
ゆあんくんは泣きそうな目で僕を抱き締めて、「遅れてごめんなさい」とだけいい、そのまま泣いてしまった。僕は「大丈夫ですよ」と言葉をかけ、暖かい体を抱き締め返した。こんな暖かい体に包まれたのも、久々だった。ゆあんくんはずっと泣き、数分は僕の肩に頭を乗せ、泣いている顔を僕に見せないように泣いていた。
僕も気がつけば釣られて一緒に泣いていた。
病室はゆあんくんの涙の音と、僕の涙の音が響いて居た。
数十分後、やっとゆあんくんが口を開いてくれた。「ごめんなさい」最初の言葉がこれだった。「遅くなって、ごめんなさい、」また謝ってきた。そして頭を下げて、僕の袖の服を掴んだ。もう僕には謝らないで欲しいのに。「顔を上げてくださいよ、もう謝らないでください笑」そしてゆあんくんが顔を上げたタイミングで、僕は静かに唇をゆあんくんに寄せた。ゆあんくん自身も驚きながら、顔を赤くし涙を止めていた。
「え…?」と声をあげていて、「これで涙止まりましたかっ?」僕はにひっと笑い、ゆあんくんの顔を見詰めた。ゆあんくんはにこっと笑い、「大好きだよ」と言葉をかけ、また抱き締めてくれた。僕も、「大好きです」と返し、今度はゆあんくんから口付けをしてくれた。見つめ合いながら2人でにこっと笑い合い、30分ほど他愛のない会話をした。その時、ゆあんくんから言葉を挟んだ。「なおきりさん」「なんですか?」きょとっと僕は顔を傾げながら、ゆあんくんが出そうとしているものを見詰める。少し照れながら「あの…もし、ここを出られたら、俺と、”結婚してくれませんか”?__」そう言って、結婚指輪らしき箱を開いた。その箱の中には、1つの綺麗な指輪が入っていた。その瞬間、胸がドキッとなった。「…へ、?」驚いた。まさかその言葉を発してくるなんて、思ってもみなかったんだから。「ぁ…ごめん、困らせちゃったよね、」「いえ、大丈夫です…」どうしよう。本当に困っている。「返事…いつでも良いから、決まったら欲しい。」…本当だったら、「もちろんです」と、応えたい。でも、僕は明日しぬんだ。だから、したくても、出来ない……もし仮に応えたとしても、明日死ぬんだから、余計ゆあんくんを悲しませるだけ。どうする。この状況。
「……じゃあ、明日まで応え、待ってて貰えますか、?」こう言うしかない。「…!もちろんだよ。」…気まづい。この空気、どうしよう。
「じゃあ、今日はもう、帰るね」ぁ…帰っちゃう。帰ってしまう。明日しかもう会えないのに。いいのか?僕は。言わなくていいのか?
「ゆっくり考えてね。また、”明日”」そう言って、出ていってしまった。どうしよう……どうしよう……悩んで悩んで、沢山悩んだ。けれども応えを決めれず、また泣いてしまった。ほんと、泣き虫だなぁ、僕は、笑 全然だめだめ。こんな僕で、ゆあんくんは良いの?本当にいいのかな。気を使ってくれてるだけじゃないのかな。
……もしかして、今日遅れたのって、結婚指輪を買うため…?嘘だ、嘘だ嘘だ、そこまでしてゆあんくんは僕のことを考えてくれてたのか?そんな…そこまで、ゆあんくんは僕のことを愛してくれてたなんて、…信じられないほど、泣いてしまった。どうしよう。決められない。それと同時にゆあんくんがこんなにも僕のことを愛してくれていると考えてしまって、涙が込み上げてきた。ゆあんくん……僕、どうしよう。
明日、本当のことを打ち明けても、ゆあんくんは僕と結婚したい、と思ってくれるのかな。もし打ち明けたら、冷められて捨てられるのかな。どうなんだろう。気持ちは本人にしか分からない……。怖いよ。辛いよ。もう嫌だよ。
でもね、ゆあんくん。僕もゆあんくんの事が大好き。愛してるよ。僕決めたよ。明日ちゃんと、今考えたこと”言うね”。
そういい、僕は横になった。
20△○ . 8月 31日
今日もまた悪夢に魘されながら朝、起きた。
とうとう、今日が来てしまった。
“8月31日”。そういえば、小中高大の夏休み、最終日か。夏休みとか、懐かしいな。
今日、僕は死んでしまう。この世から居なくなってしまう。命日だ。
ゆあんくん、早く来てくれないかな。今日は外に出れるから、お外に行ってお話したい。
いつも通り窓の外を見詰める。この外に今日は出られるんだ。やっと。
嬉しい気持ちと、辛い気持ちが重なって、僕の感情はおかしくなって行く。
これも全部全部、ゆあんくんへの感情だ。
ゆあんくんへの感情だけは、薄れなかった。
本来ならなんの感情も無くなり、ただそのまま死に至るはずなのに、ゆあんくんだけは消えなかった。なんでだろう。医者に聞いても、その事はよく分からないと言われた。
……ふふっ、もしかすると、僕がゆあんくんを好きすぎるから無くならなかったのかもね、笑
それだったらいいなあっ、えへへ、
そう思いながら、ゆあんくんが来るまで、窓の外をずーっと見つめ続けた。
数十分、30分ほどたっただろうか。
コンコンッ、と音がし、ゆあんくんが現れた。
「ゆあんくん…!」「なおきりさん、おはよう」
今日でこの優しい声を聞くのも最後。
「おはようございます」なるべく悲しい顔は見せずにやって行かないと。「あと、今日はお外出られるんですよ」「え?そうなのっ?!」すっごい驚いた顔してる…笑「だからお外行きましょ」まあ、動けないから車椅子で行くんだけどね……「うん!行こう?」
お外に出た。久々に直で浴びる太陽、街、自然、どれも久々すぎて不自然に感じた。
「すみません、動かしてもらって」「全然大丈夫、一緒にお外行けるんだもん笑」…ほんっと優しい。「なおきりさん、どこか行きたいとこある?」「特にないので、ゆあんくんに任せます」流石に久々すぎて何も覚えてないし、こんな風景だったかも忘れてしまったから、ゆあんくんに頼ろう。「じゃあ、カフェ行こっか」
それから数時間、ゆあんくんに頼んで色んな所に行った。どれもこれも覚えていなかったけれど、ゆあんくんと行く場所はなにでも楽しかった。でも、一つだけ覚えている思い出の場所があった。”あそこ”だけは覚えていた。今から僕が頼んで行く場所だ。「ねえゆあんくん」この問いかけから始まった。「どうしたの?」「行きたい場所があるんだけど、いい?」「もちろん。」ゆあんくんは僕の質問にスムーズに答えてくれた。
「あの、海に行きたい。」「え?あの…あそこの海、?」「うん。」「いいけど……」そこで今までのことも、あの告白の返事も、全部全部応える。
「ついたよ。」久々にみたこの海は、相変わらず変わっていない。「ここだけ、何となく覚えてるんです」だって…「ゆあんくんが告白してくれた所だから。」「…!!」大好きな人との思い出の場所、忘れるわけないですよ。ゆあんくん。
「そうだね…ありがとう」そう言ってにこりと微笑み、ゆあんくんは日が沈む太陽をじっと見つめていた。「ねえ、ゆあんくん」「ん?」ここで、今、言うしかない。「もし僕が今日、死んじゃうってなったら、…ゆあんくんはどうする?」
「…最後まで、なおきりさんと過ごすよ。」…え?予想外の返事が帰ってきた。想像していたのはゆあんくんが焦り散らかしたりするかと思っていたのに。そんな…返事されたら…泣いちゃうじゃんか。ばか。「…そっか。じゃあ、話変えるね」「結婚のお話、してもいい?」これについては、僕は覚悟を決めている。「…うん。」「ゆあんくん、僕、……」「ゆあんくんの気持ちに、応えるよ」最終的には、断るなんて無理だった。「え…?ほん、と…’?」ゆあんくんは僕を見詰めながら、涙を流し言ってきた。「本当だよ」
僕が発する前に、ゆあんくんは僕を強く、抱き締めてきた。「ありがとう、なおきりさん」
「…うん」でも、僕はもう時期しぬ。だから、結婚なんて本当は無理だった。でも、でも、でも。僕は1秒でも、ゆあんくんと一緒に居たい。結婚したかった。「ねえゆあんくん」「ん?」「僕、もうすぐしぬんだ」単刀直入に言ってしまった。僕のバカ。「え……」あ、ほら、やっぱり
ゆあんくんがまた泣いちゃう。「でも、ゆあんくん」「僕はずっとゆあんくんの事、見てるからね」そんなこと言って、泣き止むわけが無い。
「それ、ほんとうなの?」「うん。」「そっか…」
どうしよう、困らせちゃったよ。まただ。
「じゃあ、俺は最後までなおきりさんと過ごす」
……ゆあんくんらしい発言だなあ、笑
「うん、僕も…ゆあんくんと居たい。」
「ゆあんくん……」「なおきりさん……」
2人でお互いの名前を呼び合い、口付けをした。
「”愛してるよ”」そうお互い言い合い、僕は目の前が真っ白になり、意識が無くなった。