テラーノベル
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帰り道、高速を走る車の中で、壱月は自身の想いを話してくれた。
「俺さ、いまだに時々思うんだ。あの時、もしフライト担当が俺だったら。俺が機内にいたら、親父もお袋も死なずに済んだかもしれない、って」
私は助手席で、壱月の横顔を見つめていた。
「そもそも俺が旅行なんてプレゼントしなければ。それ以前に、俺がパイロットになんてならなければ。たらればばっかり考えて、感情が負のループに陥る時がある」
「壱月……」
切なそうに笑う壱月の胸中を想像してしまい、私はつい彼の名を呼んだ。
だが、彼はそのまま続ける。
「パイロットになる夢を追いかけさせてくれたことには、すごく感謝しているんだ。それなりに金もかかる道だったから。でも、その恩を仇で返した感じだ。しかも、一番取り返しのつかないやつ、な」
壱月はステアリングを握り、前を見ながらもどこか寂しそうに瞳を揺らす。
その瞳の奥にあるのは、きっと後悔だ。
壱月の横顔は笑っているのに、今にも泣き出しそうだ。
「まあ、今更そんなことを考えたって、どうにもならない。いい加減、仕方ないと割り切らないといけないとは思っているんだ。俺より、愛音のほうが大変な思いをしてた訳だし」
「そんなことない!」
私は壱月の言葉を遮った。その声が思ったよりも大きくて、私ははっと息をのむ。
すると壱月は黙ってしまう。
私はふうと息を吐き出してから、続きの言葉を紡いだ。
「どっちが大変かなんて、測れる訳ないよ。壱月も壱月で大変だったんだから。それに、仇なんかじゃないと思う。ご両親は、きっと壱月に感謝してると思うよ」
「でも、結果的には親不孝だろう」
「親不孝なんかじゃない。子どもが可愛くない親なんて、いない。旅行をプレゼントするなんて、すごい親孝行だよ!」
「愛音……」
一瞬、壱月の目から滴がこぼれ落ちたような気がした。
でも、すぐに壱月はそれを左手で隠してしまう。
壱月はすごい。壱月は偉い。
私には、できなかった。
だから、心からそう思える。
「それに比べて、私は……」
私は言いながら、俯いてしまった。すると今度は、冷たいため息がこぼれ落ちる。
思い出すのは、親に妊娠を告げたあの日のこと。いつも穏やかな父に「出ていけ」と怒号を浴びせられた、あの日のことだ。
「縁を切られちゃったんだよ? よっぽど、私のほうが親不孝」
自嘲するように笑い、顔を上げた。それで、壱月は顔を曇らせる。
「それは――」
「でも、いいの! なんだかんだで、今は幸せだから」
彼の言葉を遮り、無理やりに明るい声を発した。
けれど、壱月は眉間にしわを寄せ、真剣な顔をする。
「いや、よくない。それは、俺がなんとかする」
少し目線を下げると、ステアリングを握る壱月の手が、小さく震えていた。
それでも、壱月は力強い声で続ける。
「元凶は俺だ。生半可な気持ちじゃなかったって、頭下げるよ。なんでもする。愛音とご両親の仲を、取り持てるように」
「でも……」
「それに、愛音との未来のことも、ちゃんと考えたいから」
私の声を遮り告げられた言葉に「え?」ともらす。
「結婚とか、そういうこと」
壱月の言葉に、はっとする。
壱月は、頬をほんのり染めていた。
「ずっと、考えていたことだ。だから、愛音のご両親の所には行かないといけないな」
壱月の言葉に、私はしばし考える。
「じゃあ、まずはお母さんと会う?」
「愛音のお母さんと?」
「うん……親とは縁切られてるって言ったけど、お母さんはちょっと違うんだ」
父には一切会っていない。けれど、母とは何度か会っていた。
妊娠中や出産後、私の身を案じてくれていた。
それはきっと、先輩の母親として、女性が大変なことを知っていたからだったんだと、母になった今はわかる。
「花斗が持ってる飛行機のおもちゃ。ほら、壱月と最初にぶつかったときに落としたやつ。あれね、花斗はサンタさんからの贈り物って思ってるけど……本当は、お母さんからなの。だから――」
そんなことを話しているうちに、高速を下りた車は姉の家の前に着いた。
花斗はどうやら、玄関の前で私たちを今か今かと待っていたらしい。
私たちが車から下りるやいなや、抱っこされていた姉の腕から飛び降り、こちらに走ってくる。
「ママー!」
そう言いながら足元に飛び付いてきた花斗を抱き上げると、花斗は得意気に鼻を鳴らした。
「ぼく、ひとりでねれたよ!」
「わあ、すごいね! 寂しくなかった?」
「楽しかったもん!」
そう言った花斗の目が、徐々に潤んでくる。
「やっぱり寂しかったんだ?」
「寂しくなかったもん!」
花斗のその返事は、私の声に被せ気味だった。
私は思わず笑みを浮かべてしまう。
「はいはい」
にやけ顔の私に、「『はい』は一回でしょ?」と花斗が口をとがらせる。
「はい」
そんないつものやりとりに、また少し息子の成長を感じる。
「花斗、頑張ったな」
いつの間にか横に来ていた壱月が、ガシガシと花斗の頭を撫でる。
花斗はくすぐったそうに目を細めた。
「壱月も、頑張った?」
花斗の言葉に一瞬キョトンとした壱月は、「もちろん」と言いながら私に向かってウィンクを投げてくる。
私は意味がわからなくて、それでも火照る頬を隠すようにふいっと顔を背けた。
視界の端で、姉と榎田さんが笑っているのが見えた。
コメント
1件
壱月の「元凶は俺だ」って言葉、すごく響きました……自分を責める彼に対して「仇なんかじゃない」って言い切る愛音さんも強くて。二人がお互いの傷を抱えながらも、未来へ歩き出そうとしているのが伝わってきて胸が熱くなりました。最後の花斗くんとのやりとりでほっこりしたのも良かったです。結婚の話、どきっとしました🫣
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